私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

ルシアン・ネイハム『シャドー81』

2013-05-08 20:35:38 | 小説(海外ミステリ等)

ロサンゼルスからハワイに向かう747ジャンボ旅客機が無線で驚くべき通告を受けた。たった今、この旅客機が乗っ取られたというのだ。犯人は最新鋭戦闘爆撃機のパイロット。だがその機は旅客機の死角に入り、決して姿を見せなかった。犯人は二百余名の人命と引き換えに巨額の金塊を要求、地上にいる仲間と連携し、政府や軍、FBIを翻弄する。斬新な犯人像と、周到にして大胆な計画―冒険小説に新たな地平を切り拓いた名作。
中野圭二 訳
出版社:早川書房(ハヤカワ文庫NV)




冷静に後からふり返ると、これはどうだろうかと感じる部分は多い。
しかし読んでいる間は、そんなことも気にせずに読み進めることができる。

裏を返せば、それだけストーリーテリングが巧みなのだろう。
そういう意味、『シャドー81』はエンターテイメントらしい作品と言えるのかもしれない。


物語は背表紙のあらすじとは裏腹に、ベトナム戦争の場面から始まる。
おかげで読み始めは、予備知識と内容が違いすぎて、いささか戸惑ってしまった。

しかし中身は状況がつかめないながらもおもしろい。
ベトナムの場面と香港のシーンはどうつながるのか、彼らは一体何がしたいのかなど、謎めいた行動の連続が興味深い。

船で飛行機を運ぶところは、手間とコストがかかりすぎる割に、リスクがでかい気もするが(ごまかす方法がマネキンって……)、つっこむのも野暮なのだろう。


そして、つっこむのを控えたくなるのは、ディテールを丁寧に積み重ねているのが大きい。
だから無理があるように見えても、変なリアリティがあり、素直に物語を受け入れられる。

第二部のハイジャック場面も興奮の連続だった。
こんなにうまくいくかなという疑念はあるが、ここでも細部描写が光っていて飽きさせない。
これは作者が元記者ということが大きいだろう。緻密な取材力の賜物である。

そして第三部で明かされる黒幕の正体の意外性もすばらしかった。


緻密な設定、手に汗握る緊迫感あるストーリー、思いもよらない展開の運びと、楽しい要素に満ち満ちている。
娯楽作品と呼ぶにふさわしい作品、そういう印象を強くした次第だ。

評価:★★★(満点は★★★★★)


最新の画像もっと見る

コメントを投稿