
2010年度作品。日本映画。
太平洋戦争末期、中年兵として招集された松山啓太ら100名の兵士は、上官によるくじ引きで決められた戦地に赴任する事になっていた。くじ引きが行われた夜、フィリピンに送られる事になった仲間の定造から、妻より送られてきた一枚のハガキを手渡される。定造は、もし啓太が生き延びる事ができたら、妻にハガキは読んだと伝えてくれと依頼する。やがて戦争が終わり、生き残ったのは啓太を含め100名のうち6名だけだった…。(一枚のハガキ - goo 映画より)
監督は新藤兼人。
出演は豊川悦司、大竹しのぶ ら。
戦争映画はつくられ続けなければいけないジャンルの映画である。
人間はアホだから、ビジュアルで訴えかけないと、戦争がどこまで悲惨かということを、頭では理解できても、実感としての理解をいつかは忘れてしまう。そう思うからだ。
だからこそ、戦争が愚かしく、理不尽であり、その不条理で人々が死なざるをえなかったということを、絶えず目で見てわかるよう訴えかけねばならない。
99歳の新藤兼人はそう意味、戦争映画を撮るにはうってつけの人物と言える。
なぜなら、彼は、主人公の二等兵と同じような体験をしたからだ。
映画の舞台は戦争末期。
予科練生を受け入れる宿舎の掃除のために召集された松山はそこで定造という男と親しくなる。その場には100人の二等兵がいたが、掃除後にクジが引かれ、94名が外地に派遣されることとなり、終戦までに多くが命を落としてしまう。生き延びた6名の中に入った松山は定造の頼みを果たすため、定造の妻のもとに向かう。
これらは、監督の実体験を元にしたという。
ほかの仲間が死ぬ中、自分だけ生き延びたことに対して、監督個人、忸怩たるものがあるのだろう。
それだけに淡々としたトーンながら、戦争に対する静かだが、明確な怒りが透けて見える。
この映画のように、クジで人間の生死が左右されたのが事実だとしたら、それほど残酷なものはない。それはあまりに恣意的に過ぎる。
だがそういうことはあの時代、普通に行なわれていたのかもしれない。戦争は人の思いをときとして、むごたらしいほど簡単に否定するからだ。
そして戦争で体験した現実が理不尽であればあるほど、生き残った者はサバイバーズ・ギルドのような感情に苦しみ、その後の人生を生きることになる。それがあまりにむごい。
またクジで夫を亡くした妻たちも、そんな理不尽に心を傷つけられている。
映画の中で大竹しのぶ演じる友子は亡き夫の話をしに来た松山を、夫は死んだのに、あんたはなぜ生きているのか、と何度もなじっている。
大竹しのぶの演技はさすがに上手く、彼女の言葉には強い感情がこもっている。それだけに、友子の怒りがこちらにまで伝わってくるかのようだ。
だがもちろんそれを松山に言うのは酷である。彼だって好きでそうなったわけでないのだ。
けれど、愛する者を失った人は、そんな風に叫ばなければ耐えられないことだってあるのだろう。
戦争は理不尽なものである。
だがその理不尽は、戦場で戦って死ぬことだけにあるのではない。戦争という状況そのものに巻き込まれること、それ自体が理不尽なのだ。
本作は、そんな過去の記憶を静かに訴える作品となりえている。
評価:★★★★(満点は★★★★★)
出演者の関連作品一覧
・豊川悦司出演作
「接吻」
「椿三十郎」(2007)
「20世紀少年」
「日本沈没」
「フラガール」
・大竹しのぶ出演作
「借りぐらしのアリエッティ」
「クワイエットルームにようこそ」
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