私的感想:本/映画

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冲方丁『光圀伝』

2015-12-04 20:51:35 | 小説(国内男性作家)
 
なぜ「あの男」を殺めることになったのか。老齢の水戸光圀は己の生涯を書き綴る。「試練」に耐えた幼少期、血気盛んな”傾寄者”だった青年期を経て、光圀の中に学問や詩歌への情熱の灯がともり――。
出版社:KADOKAWA




同作者の『天地明察』でも感じたことなのだけど、『光圀伝』でも、後半は、歴史的な記述に重きを置きすぎて、たるんでしまったきらいはある。これは冲方丁の癖なのだろうか。

しかし徳川光圀という男の生きざまを過不足なく描いていて、深く心をゆさぶられる一品だった。まさに大作と言っていいだろう。



次男でありながら、水戸の世子として生を受けた光國。
しかし彼はなぜ長男ではなく、次男の自分が世継ぎと見なされているか理解できず苦しむことになる。
そのために子供のころは兄と張り合ったりするが、包容力のある兄のために対抗意識はなくなっていく。
看病の場面の兄弟の姿は優しくて、胸に響いてならない。光國が心を開くのもわかるというものだ。

しかしおかげで、自分がなぜ世子なのか、という負い目が、よけいに立ち上がることにもなるというのが、不幸というほかない。


しかしバイタリティのある彼のこと、そんな負い目に縛られているばかりでなく、詩で天下を取るという気概を持ち、型にはまらない行動力でもって、友人やライバルと競い合いながら、生きている。
独耕斎と張り合うところなどはどこか微笑ましい。

基本的にそう微笑ましく感じるのは、どのキャラクターも個性的という点も大きい。
天真爛漫な泰姫なんかはかわいらしいくらいである。
やはりそこは人気作家の冲方丁、読ませる力はさすがである。


さて負い目を抱えて生きる光國はやがて、世子を交換するという自身の負い目を解消する義の手段を考えついて、それを実行するに至る。
そして歴史書の編纂事業という難事業にも励んでいくのだ。

そこには、次々失われていく親しい者たちの生きざまを、形にとどめたいという気持ちもあるのかもしれない。光國の思いと哀切さがうかがえるようだった。


ラストの見せ場である紋大夫刺殺の場面は、はっとさせられた。
調べた範囲、光圀が彼を刺殺したのには諸説あるらしいけれど、よもやここで大政奉還を持って来るとは思わなかった。その構成力に、むむとうなってしまう。

ともあれ存分に楽しめる作品だった。
本当に力作と呼ぶに足る一品である。

評価:★★★★(満点は★★★★★)



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