いつも寝不足 (blog版)

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僕たちの終末

2005年09月27日 | 読書
神様のパズル』、『メシアの処方箋』に続く機本伸司の3冊目。

僕たちの終末

角川春樹事務所

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今回の舞台は太陽の活動異常のために人類滅亡の危機に瀕した2050年近辺。この危機を奇貨として外宇宙への移民船を飛ばしてしまおうとする民間プロジェクトの顛末が描かれている。多分、アニメやマンガ、各種SF小説などの影響で、人類は(いつかは)外宇宙へ進出するだろうと漠然と思っていたが、その実務となるとなかなか想像できていない。

例えば、恒星間航行可能な宇宙船を建造するためには何万~何百万tの物資が必要で、それを宇宙へ運び出すにはスペースプレーンを何回飛ばさなければならないか。また、長期航行に備えて持続可能な船内環境を整えるには何万tの水が必要で、循環システムはどうするのか。水洗トイレは使用できるのか。肥だめは不可避なのか。そもそも、費用はどれくらいで、その資金繰りはどうするか。

考え出すだけで頭が痛くなる。宇宙船を飛ばすのが夢ではなく、現実になるとはこういうことなのか、と瞠目せざるを得ない。もっとも、上記のような問題は思考実験の段階を出ることなく唐突に宇宙船は完成しちゃうんだけど。この展開は、かなり肩透かし。

もっとも、本書の冒頭は「ここは自分のいるべき場所じゃない」という主人公の神崎正の独白から始まり、「なあ、僕をプログラミングした奴は、どんな奴なんだろうな」「それに僕は、何で僕なんだ?」という問題の提起がされているので、必ずしも、宇宙船建設にまつわる細かい話は重用ではないのかもしれない。

しかし、この問題って、本当に終盤になるまで再提示されないので読者はスッカラカンに忘れてるんじゃないだろうか。それに、109頁から112頁掛けて展開される正の演説がいかしてるので、尚更、主題は宇宙船の建造だけであるかのような錯覚に陥ってしまう。宇宙船の建造へと駆り立てている動機がどこにあったのか終盤まで忘却の彼方ってのはどうかと思う。

確かに、真っ先に提示されている問題を忘れてしまうのはいけないとは思うが、構成的に、頭とお尻に比べて、間に挟まれている部分が長過ぎると思う。また、最後まで読めば、所々にそれを匂わすエピソードが挟まれていたのが分かるのだが、必ずしも、冒頭の問題を十分に想起させるものではなく、これから本格的に宇宙船建造かと思った瞬間に、ハイできあがり、ってのは何だかなぁ。

え~っと、まとめ直すと本書の問題点は以下の通り。宇宙船建造という問題と、それに駆り立てている動機が上手く結びついて描写されておらず、唐突に宇宙船は完成するわ、忘却の彼方にあった最初の主題が最終盤にいきなり戻ってきてびっくりするわで、何か、全体的に不調和な感を拭えない。宇宙船建造に関する問題も、その動機も、別個に取り出せばなかなか良く書けていると思うのだが、両者が上手く調和していない。

読んでいない人には訳が分からないだろうが、344頁の「<あきらめないで>」へ至る展開は嘆息するほど美しいと思う。ただ、上記のような問題のために作品全体としての完成度は必ずしも高くなく残念。

話だけがどんどん進んでいって、その展開を支えている個々の心情なんかが置き去りにされているってのは前2作にも共通する問題点なのだが、少なくとも、今回は予め提示はされているだけ前進なのかな。前2作では、そんな話は聞いてない、としか言いようのない唐突さで物語の中に出てきていたから。次回作に期待かな。

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