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魔法使い見習い、田中二郎の日記・5

 こんばんは、田中二郎です。
 またまた、お久しぶりでスイマセン。(汗)
 実は、とある事情からちょっと祖父の家に行っていたもので。
 という訳で、今回はその時のお話です。

 話は、前回のブログから三日後に遡ります。
 突然、本当に突然、何の前触れもなく壊れてしまったのですよ。
 僕の『魔法タンク』が。
 ええと、既にご存知の方も多いかと思いますが、まだご存じない
方の為に一応説明しますと、『魔法タンク』というのは文字通り魔法
を使うときに使用する『魔法燃料』を貯蔵するタンクの事です。
 『魔法燃料』は僕ら魔法使いが魔法を使うときに必要なエネルギ
ーでして、まぁ車で言えばガソリンみたいな感じですね。
 なのでかどうかは分かりませんが、基本的に魔法燃料はガソリン
スタンドで購入します。
車をお持ちなら、ピンと来た方もいらっしゃるかもしれませんが、
例えばMOJOや入三といった、いわゆるガソリンスタンドに行く
と、灯油を買う場所がありますよね?
 『魔法燃料』は大抵その横辺りで給油(?)できるんですよ。
 形状は…、そうですね。ランドセルやリュックサックくらいの大
きさで背中に背負うように肩ベルトがついてます。
 上部に給油口と残量メーターなどの計器類がついてまして、底の
方には吸気口と排気口が。(タンクと言っても、魔法燃料を送り出す
ためのポンプとかがあるのです)
 で側面に魔法燃料を『魔法ステッキ』(魔法の杖って言ったほうが
通りがいいでしょうか?)に送る管が出ています。
僕らが魔法を使うときはその管を腕にベルトで固定して、管の先
端を魔法ステッキの持ち手の方に差し込みます。
 ちなみに大昔の魔法使いがマントやローブを羽織っているのは、
この魔法タンクを隠すためと言われてます。
 魔法使いと一般の方が敵対していた昔は、弱点である『魔法タン
ク』の存在がバレちゃうと、色々都合が悪かったんでしょうね。
 もちろん、現代ではもうすっかりネタばれしちゃってるんで、隠
す必要はありません。別に魔法使いと一般の方が争っているワケで
もないですし。
 『魔法タンク』の形状について、上記ではランドセルって書きま
したけど、それは結構旧式で、今はもっと見た目も結構オシャレな
のや、スタイリッシュなのも多く、小型で低燃費なのが主流だった
りします。
 魔法業界にも、確実にエコの波は押し寄せてるっていう事なんで
しょう。きっと。
 もちろん、僕もそういう最新型のタンクには憧れるんですけど、
なんせタンク一つが車くらいの値段ですからねー。(具体的に言うと
BNW一台位)
とても手が出ません。ほら、業務用の機械って高いでしょ?
 おっと、すっかり話が横道に逸れてしまいました。
 で、その『魔法タンク』がですね、壊れちゃった訳です。
 これには困りました。
 だって、タンクがないと僕、仕事出来ないですから。
 という訳で、直ぐに事務所に帰って、所長に見てもらったんです
が…。

「うーん…」
 タンクの蓋を開いたまま、小一時間になるでしょうか。所長は腕
組みをしたまま、ずっと唸り続けてます。
「ポンプは異常なし。吸気、排気口も大丈夫、フィルターも目詰ま
りしてない…。うーん」
 僕の職場である『有限会社 黒羽ミサ魔法研究所』代表にして、
僕の魔法の師匠でもある、黒羽ミサ所長は普通の機械にはからっき
し…というか壊滅的に弱いのですが、こと魔法関係の機械類なら専
門の業者さん以上に詳しいので、同業者(魔法使い)の方々からも
ちょくちょくメンテナンスやカスタマイズを依頼される程の腕を持
ってます。
 その所長が、ずっと悩みっぱなし…。僕はにわかに不安に駆られ
ました。
「あの…、そんなに悪いんでしょうか?」
 恐る恐る訊ねると、所長は眉間に皺を寄せたまま、僕の方に振り
返ります。
「いや、まったく逆だよ」
「逆?」
「うむ。おかしなところがまったく見つからない」
「え? どこも悪くないのに動かないんですか? …まさか寿命と
か」
「まぁ、確かに古い機体だから、絶対にないとは言えないが…。
しかしね田中君。仮に寿命だとしても、普通は長年使って劣化し
た部品の故障で動かなくなるものだろう。ドコも壊れていないのに、
動かないって事は通常はありえないんだよ」
 そう言って、所長は首を捻ります。
「じゃぁ、所長がどこか見落としてるとか?」
 言ったあと自分の失言に思わず口を押さえますが、時既に遅し。
一旦口から出た言葉は元には戻りません。所長の顔が油の切れた
機械の様な動きで、僕の方を振り向きます。笑顔で。しかし、その
コメカミにはくっきりと、青い筋が浮き出ていました。
「ほほう、つまり君は、私に見落としがあると言うのかね?
 『専門家以上の専門家』にして『もっともスカウトしたい魔法使
い・オブ・ザ・イヤー永久受賞』にして『もっとも客にしたくない
魔法使い・オブ・ザ・イヤー永久受賞』にして『客泥棒』と魔法機
械の専門家に言わせしめる、この黒羽ミサの目が節穴であると。田
中君、君はそう言いたい訳だ」
 いや…、もう最後のはただの悪口ですから。
「スイマセン…。失言でしたっってぃいだだだだ!」
 がっちりと極まった卍固めの激痛にタップしながら僕は力の限り
叫びました。
「うーむ、しかし故障の原因が分からないのは事実だし、まさかと
は思うがどこかに見落としがあるのか…? いや、しかしなぁ…」
「っていうか、悩むのは卍固め外してから悩んでください! って
ぎゃぁぁぁぁ!」
 いつ、いかなる時でも僕イジメに余念のない所長です。
 魂が半分くらい出た状態で床に横たわる僕の横で、所長は改めて
タンクの設計図とタンクを見比べ、解体し、部品の一つ一つをチェ
ックし、組み立て直し、テストして、また解体しを五回繰り返し…
気がつけば外は真っ暗になってました。
「あの…、所長。ありがとうございました、もういいです…、その、
諦めますから」
 なんていうか、さすがに申し訳なくなって、僕は所長にそう言い
ました。
 所長は疲れきった表情で僕の方に顔を向けます。
「その…、やっぱり所長の言うとおり古い機体ですし、多分寿命だ
と思うんですよ。
僕も最新型のタンクとか欲しいなぁって思ってたトコですし、こ
こはもう、思い切って最新型…はムリでも新古のタンクとか調べて
買い換えちゃいます」
 思い入れのあるモノだって悟られないように、僕は出来るだけ明
るい口調で言いました。
実はこのタンク、僕が小さな時から憧れてた品物で、僕が魔法使
い見習いになったときに祖父にプレゼントしてもらった記念のタン
クなんです。なので、出来るだけ大事に長く使おうと思ってたんで
すけど。でも、形在る物はいつか壊れるって言いますし。
「バカか君は」
「え?」
「新型のタンクが一体幾らすると思っているんだ。君のような半人
前の稼ぎで買える筈がないだろう」
「いや、だからローンで…」
「何年、いや何十年かかると思ってるんだい。君がローンを払い終
わる前に、それこそタンクの寿命が来てしまうよ」
それに――、と所長は続けます。
「このタンクは君の大切な物だろう? いつも仕事終わりにしっか
り磨いたりメンテナンスしたりしてるじゃないか」
「え、所長なんで知ってるんですか?」
 絶対気付いてないと思ってたのに。
「その程度の事、私が気付いていないとでも思っていたのかい? 
見くびるのも程々にしたまえ」
 辛辣な言葉とは裏腹に、所長の笑顔はとても優しくて、僕はうっ
かり、泣きそうになりました。
「大体が半人前のクセに変な遠慮をしてるんじゃないよ。そんな愚
かなことを考える暇があるなら、コーヒーの一杯でも入れたまえ。
砂糖とミルクをたっぷりでね」
「…はい!」
 僕は尊敬する最高の師匠に最高のコーヒーを入れるため、キッチ
ンに向かったのです。

 で、次の朝。
「うん、ダメだこりゃ。田中君、君やっぱローンで新しいタンクを
買いたまえ。ローン会社は紹介してやるから」
 …、僕の感動と尊敬とコーヒーを返せ。
「まぁ、それは冗談としても、まったく原因が分からん。どうなっ
てるんだこのタンクは」
 所長はボサボサになった長い髪を掻きあげながら、イスの背もた
れに体を預けながらタバコに火をつけます。
「…仕方がないな」
 タバコの煙をおっさんのように豪快に吐き出して所長は言いまし
た。
「気は進まないが、というより死ぬほど気は進まないが、むしろ死
にたい位に気が進まないが、行くしかないようだな」
 どんだけ気が進まないんですか。
「って行くってどこへです?」
「決まってるだろう。このタンクの開発者、君のお爺さんの家だよ」

 そして、僕たちは祖父の家に行く事になったのです。

 と、話はまだ終わりませんが、長くなりそうなので今日のところ
はこの辺で。
 このブログは、『有限会社 黒羽ミサ魔法研究所』の提供でお送り
しました。

魔法使い見習い兼宣伝部長 田中二郎

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