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魔法使い見習い、田中二郎の日記・6

  こんばんは、田中二郎です。
 この日記は前回の続きです。先に『魔法使い見習い 田中二郎の
日記・5』を先に読んでください。

 二十世紀最高にして最強の魔法使い。

 それが僕の祖父、田中総次郎の通り名だそうです。
「君も魔法使いの端くれなら、ウイザードアカデミー賞を知ってる
だろう?」
「はぁ、あの年間最高の魔法使いを決めるっていう…」
 映画業界で言う所のアカデミー賞ですね。部門別に分けて、最高
の魔法使いに賞を贈るという、魔法使いの憧れの舞台です。
「君のおじい様は、そのウイザードカデミー総合部門最優秀魔法使
い賞を二十年連続受賞しながら、すべて辞退したという伝説の持ち
主でもある」
 総合部門っていうのは、魔法使いのあらゆるジャンルの頂点。つ
まり世界中の魔法使いの頂点って事です。
 でも、そんな所長の話を聞いても、僕は正直ピンと来ません。
 だって、僕の祖父はいつも地元の人たちとゲラゲラ笑いながらバ
カ話したり、お酒を呑んだり、たまにケンカしたり、家ではいつも
ラクダのシャツに腹巻きステテコ姿だったり、パチンコで負けて祖
母に怒られてしょげたり、盆栽が好きだったりのドコにでもいる普
通のじいちゃんだったのですから。
 もしかして所長の仕掛けたドッキリなんじゃ…。
「まぁ、君が知らないのも無理はないな。ウイザードアカデミーで
は、ノミネートが一般に公表される前に、本人に通知が行くんだが、
師匠はその時点で辞退しているからね。この事実を知っているのは、
本当に一部の人間だけなんだ。私もある知人に聞かされたときは、
俄かには信じられなかったよ」
 はい、僕も信じられません。
「で、その実質世界最高の魔法使いが設計、制作に携わり、自身も
使っていた魔法タンクが、君が今持っている『MONDO M-七
十八型改 SOUJIROUモデル』現在売られている魔法タンク
のベースとなっていて、しかし未だにこの機種を超えるものは出て
いないと言われる幻の名機だ。
 まぁ、君はその辺の事情も知らなかったみたいだし、本当の事を
教えたら萎縮してしまってタンクを使えなくなると思ったので黙っ
ていたんだが」
 ぶっちゃけ何度、君を亡き者にしてそのタンクを手に入れようと
いう誘惑に駆られたか分からん。
と、所長は電車の窓から流れる景色を眺めたまま物騒な事を言い
ます。
 僕の勤め先である『有限会社 黒羽ミサ魔法研究所』の事務所は
元々、祖父の持ち家件事務所だったんですが、魔法使い引退を期に
最後の弟子である所長に譲り、自分は隣の県に買った土地に家を建
て、今は祖母と二人暮しをしているのです。
 で、今その祖父の家に電車で向かってる訳ですが…。
 なんだか所長、凄く機嫌悪そうなんですけど。
「…あの、所長?」
「ん? なんだね田中君」
「もしかして、凄く機嫌悪かったりしますか?」
「何を言ってるんだい田中君、憧れの師匠と久しぶりの対面だ。嬉
しくこそあれ、機嫌が悪くなる理由がないだろう」
 うわ、すっごい嫌そう。そう言えば、『死にたい位に気が進まない』
とか言ってたもんなぁ…。
 ちなみに、所長は祖父、田中総次郎の最後のお弟子さんです。
 所長が祖父の元での見習い期間を終えたのと同時に、祖父は魔法
業界を引退したのでした。
 ……、一体、二人の間に何があったのか…。聞きたい気持ちはあ
りましたが、とてもそんな雰囲気ではなかったので、その後は結局
無言のまま、電車とバスを乗り継いで祖父の家に着いたのは夕方近
くでした。…疲れた…。

「おお、来たか来たか、まぁ座って安め」
 日曜六時三十分開始の国民的アニメに出てくる家族の家のような
平屋一戸建ての玄関の戸を開けた途端、奥から祖父のドラ声が聞こ
えました。
 言われるまま、茶の間に進むとラクダのシャツにドテラを着込み、
中には腹巻き、ステテコ姿の祖父がコタツで新聞を広げてました。
 白髪頭を短く刈り込んで、老眼鏡をちょっと下にずらした所も、
相変わらずです。
「おお、寒かったろう。ほらそんなトコに突っ立ってないでコタツ
に入れ。おお、孫はちょっと見ないうちにまた大きくなったんじゃ
ないか? なんだ、四号は相変わらずズボンか。女の子なんだから
スカート穿けスカート。そんなんじゃ嫁の貰い手がないぞ!」
 返事も反論する暇も与えず、“あの”所長に再会五秒でセクハラ発
言。
祖父は相変わらず元気そうでした。
「じいちゃん、元気そうでなによりだけど、所長には黒羽ミサ、僕
には二郎っていう名前があるんだから、ちゃんと名前で呼んでよ」
「いいじゃねえか、通じるんだから。大体おめぇだって俺の事『じ
いちゃん』って呼ぶし四号は『師匠』って呼ぶじゃねえか。あいこ
だあいこ」
 僕の抗議もどこ吹く風で、祖父は豪快に笑います。そう言えばふ
れあい商店街の皆さんも「酒屋」とか「肉屋」とか呼んでましたっ
け。
 チラリと所長の方に眼をやると……、眉間の皺は更に深くなり、
顔を真っ赤にして小刻みに体を震わしています。
 ヤバイ! かなり怒ってらっしゃる!?
「しししし師匠! すすすすっかかりごごぶぶさたししててしまい
ましして、ほ本当にに、ももうししわけごございませせん!」
 がばっと、正座…っていうより土下座状態で頭を下げると所長は
顔を真っ赤にしたまま、噛みまくりながら、怒鳴りちら…いや、挨
拶(?)しました。
 え? この人、確かに所長……ですよね?
「なんだ四号。おめぇ、“また”緊張してんのか」
「いいいいやや、こここんんなは筈ではななかったんでですけどど、
ほほんんとに、おお恥ずかかしいかか限りりりででで」
「え? また? っていうか、緊張? 所長が?」
「おう、コイツときたら俺に会うたびに緊張してこんな風になりや
がるんだ。…って、そういや孫は修行時代の四号に会った事なかっ
たか」
 そうなんです。他の三人のお弟子さんには小さい頃に遊んでもら
った記憶があるんですけど、四…師匠は僕が魔法学校に入学した後
に祖父に弟子入りしたので、弟子――つまり魔法使い見習い時代の
所長と僕は面識がないんです。
「コイツ、すっげぇ上がり症でよ。初めて俺んトコへきた時もこん
な感じでなぁ。一週間位して慣れたのか普通になったけど、ちょっ
と会わねぇと、すぐまたこんなんになっちまうんだよ」
 上がり症? 所長が? あの傍若無人で理屈屋で皮肉屋で理不尽
で、恐怖の大王も裸足で逃げ出すと商店街で実しやかに囁かれてる
所長が?
「しししし師匠、た田中君んん…いいいややや、じじ二ろろ郎くく
君ののままま前で、そそののははは話ははちょちょちょっととと」
 相変わらず所長は顔を真っ赤にして、土下座姿勢のまま祖父に抗
議(?)をします。…っていうか汗が! 汗がボタボタ落ちて床に
ちっちゃい池が出来てる!
そんな所長の様子をみて祖父は溜息をつくと、台所に立って、一
升瓶とコップを持ってきました。
「ほら、飲め」
 どん、とコタツに置かれた一升瓶はどうやら日本酒のようです。
「いいいいいややや、しし師匠ののの前でででいいい飲しゅしゅ酒
しゅなんてててて滅そそそそ相ももななな…」
「その師匠が飲めって言ってんだ。じゃねえと、何言ってんだか分
かんねえや」
「そそそそそそれれれれでではは、ししつつれれれいいしししって
てて」
 そう言うと、所長はコップにお酒を波々と注いで一気に飲みまし
た。
 ものの三秒でコップを空にすると、もう一杯、さらにもう一杯で
都合コップ三杯の日本酒を飲み干し、ぷはーーーっ! とオヤジの
ように息をつきます。
「申し訳ありません師匠、おかげで落ち着きました」
 いつもの所長に戻りました。
「散々ご無沙汰した上に、このような醜態を晒してしまい、重ね重
ねの失礼無礼、お許し下さい」
「いや、俺ぁ慣れてるから構わねぇけどよ。おめぇ、その上がり症
じゃ仕事し辛ぇだろう」
「お言葉を返すようですが、私がここまで緊張するのは此の世で只
一人、師匠だけです」
 なるほど。って言うことは、電車の中では機嫌が悪いんじゃなく
て、祖父に会うのに緊張していた訳ですね。
「あぁ、二郎君」
 そんな事を考えていると、師匠が“笑顔”で振り向いて、
「今見た事は、“くれぐれも”他言無用に頼む。もしも…、いや、二
郎君なら分かっているだろうから言うまでもないか」
 物凄く太い釘を刺されました。
「おお、なんだ既に以心伝心の仲ってヤツか。上手くやってるみて
ぇで安心だ」
「えぇ、二郎君は察しが良くて助かってます」
 いやいや、じいちゃん。あなたの孫は今まさにあなたの弟子に脅
迫されたんですけど。っていうか、所長も笑顔でさらっと…まぁ、
それはそれとして。
「ところでじいちゃん。今日ばあちゃんは?」
「おぉ、ばあさんなら昨日から町内の婦人会の旅行で熱海に行って
らぁ」
「あぁ、そうだったんだ」
「なんだ、俺だけじゃ不満か」
「そんなこと言ってないじゃん」
「まったく、この薄情もん供が。年末年始も全然顔を出しやがらね
ぇしよ」
「いや、まったく返す言葉もありません。しかし、師匠もご存知の
通り、年末年始はなにかと忙しくて」
 年末忙しかったのは『僕だけ』でしたけどね!(前々回の日記参
照)
「それで、今日伺ったのは…」
「まぁまぁ、それは後で追々聞くとしてよ、久しぶりに会ったんだ。
まずは一杯やりつつ積もる話でもしようじゃねえか」
「いや、師匠まずは用件を。とても大事な…」
「あー、そう言えば年末に知り合いから貰った良いのがあんだよ」
 祖父は、所長の話に割り込むようにそう言うと、隣の部屋から持
ってきた風呂敷に包まれた箱の様な物をコタツの上に置きました。
「これなんだけどよ」
 所長に向かってニヤリと笑いながら、祖父が風呂敷を解き、箱を
開けると、
『超スーパー ウルトラ大吟醸 美少年エクストラバージン DX 九四式』
と書かれた、一升瓶。
「こっ! これはっ!」
「なんだ、ただのお酒じゃん」
「バカな! 何を言ってるんだ田中君!」
 所長が、今まで聞いたこともないような大声で吼えます。
「これは、そんじょそこらの日本酒ではない! 日本屈指の名杜氏
として名高い、十代目左川甚三郎が千九百四十年に自分の息子が生
まれた年に、記念として五十本だけ仕込んだと言われる、まず入手
不可能とファンの間で噂され、その存在すら疑問視されていた名酒
中の名酒だぞ!」
 所長は立てひざのまま、今にも僕の胸倉を掴まんばかりの勢いで
熱弁を振るう所長。っていうか、顔が近い! そして酒臭い!
「あぁー、でもあれだな。酔っ払っちまう前に、その用件とやらを
聞いた方がいいのかな? なんか、大事な話なんだろ?」
 祖父は、僕らの様子を眺めながら、そう言って一升瓶を箱に仕舞
おうとします。
 ガシっと。
 所長は両手で祖父の手を掴むと、
「いえ、師匠。私たちの用件など、その名酒の前ではほんの些事に
過ぎません」
と、最高の笑顔で言いました。恋する乙女みたいなキラキラした瞳
で言い切りやがりました。
 僕の魔法使い人生は『ほんの些事』ですか。
「そうか? まぁ四号がそう言うならしょうがねえな。よし、今日
はおめぇら泊まってけ。話とやらは明日聞いてやっから」
 その時、チラッと自分の仕掛けた罠に獲物がかかっていたときの
猟師の様な笑みを祖父が浮かべたような気がしたのですが…、気の
せいですよね?

 その後は、なんて言うか、まぁ。
 二人の酒豪による酒宴がですね繰り広げられた訳でして。
「おう孫、冷蔵庫の中見てなんか適当にツマミ作れ、ツマミ!」
「しょっぱい物だぞ二郎君! ご飯のおかずじゃないんだから
な!」
って感じで、もう僕はすっかりおさんどんですよ。
 その後、飲み比べに発展し、益々ヒートアップする二人の酒豪。
いや、酒乱。
 いつの間にか、飲み比べは技比べになり、所長が僕に足四の字固
めを掛ければ、祖父はロシアの友人に習ったと言う飛びつき腕ひし
ぎ逆十字固めで対抗し、さらに所長が…。っていうか、誰か助けて!
 その後、二人の対決は将棋、トランプ、花札と続き、最終的に指
相撲三十番勝負を終えたところで、阿鼻叫喚の酒宴もようやく終わ
りを迎えたのでした。
コタツの上には五本の空一升瓶が転がり、二人は揃って仲良く酔
いつぶれて眠ってしまっています。ボクシングで言えば、両者ノッ
クアウトってトコでしょうか。
 僕は溜息をつきつつ、祖父の寝室から毛布を持ってきて二人にか
けてあげます。
「…なぁ、孫よ」
 毛布を掛けようとしたとき、ぼそりと祖父が口を開きました。
 驚いて見ると、祖父は僕の顔をじっと見ていました。
「ゴメン。起しちゃった?」
「バカ。最初から寝てねえよ」
「狸寝入り?」
「まぁな」
 祖父はニヤリ笑いながら、「よっこらしょ」と大儀そうに起き上が
りました。
「どうだ魔法使いの仕事は」
「うーん…、大変な事も多いけど、街の人もみんな良くしてくれる
し、所長も…酒乱なのは困るけど色々教えてくれて頼りになるし、
楽しいよ」
「あの街の奴らはどいつもコイツも一癖あるヤツばっかだけどよ、
でもみんな気のいい奴らだしな」
 コイツも――、と祖父は所長に眼をやります。
「まぁ、変わり者だし屁理屈が多いが、今まで俺が見てきた魔法使
いの中でも、ピカイチの本物だ。だから、俺も安心しておめぇの事
任せられる」
 相変わらず色気も乳もねぇけどなと、祖父は笑います。
 ただ、そんなセクハラ発言とは裏腹に、所長を見る祖父の目は、
まるで自分の娘を見るような優しい目でした。
「だから安心して揉んで貰え」
と、祖父はもう一度笑ったのでした。

 で、次の日。
 僕と所長は、帰りの電車に乗っていました。
 所長は、昨日の緊張とは明らかに違う、正真正銘の仏頂面で、窓
の外を流れる風景を眺めています。
 朝、魔法タンクの話を切り出した所長に祖父は、
「それならもう直ってっから」
と、軽く言ったのです。
 頭にクエスチョンマークをいくつも浮かべながら祖父の顔を見る
僕と所長。もしかして、僕が寝た後にこっそり直してくれたのでし
ょうか? でも、そもそも魔法タンクの話なんて、一言も言ってな
いし…。
「っていうか、そもそも壊れてねぇしな」
と、再び祖父の謎発言。
「あの、それはどういう…?」
 所長の問いかけに、祖父は満面の笑顔でこう言いました。
「だからよ、タンクが動かなくなったのは、俺が魔法を掛けたから
だって事よ」
 その後の祖父の話を整理しますと、
一、 祖母が婦人会の旅行に行ってしまい祖父は非常に暇だった。
二、 その時丁度、僕らの事を思い出した。
三、 ただ、遊びに来いと言っても、何らかの用事をでっち上げ
て断るかもしれない。否、きっと断る。
四、 なので、遠隔魔法をタンクに掛けて、あたかも壊れたよう
に見せかけ、僕らが祖父の元に行かざるを得ない様に仕向
けた。
という事だそうです。なんて、人騒がせな…。
「気付かなかったろ、四号」
 「……はい…」
「俺の勝ちだな」
祖父は、意地の悪い顔でニヤリと笑います。
 所長が、顔を真っ赤にして、下唇を地が出るほど噛み締めながら
拳をブルブル震わせていました。

「君は」
 電車の窓を眺めたまま、不意に所長が口を開きました。
「なんで、師匠が二十年間、ウイザードアカデミー賞を辞退したか
分かるかい」
「うーん、じいちゃんの事だから、アメリカまで行くのが面倒臭か
ったんじゃないですか」
 ウイザードアカデミー賞は毎年ニューヨークで開催されるんです。
「不正解」
「え、じゃぁ何でですか?」
『魔法ってのは、お客さんをちょっとだけ手助けする技だ。主役は
あくまでお客さん。魔法使いってのは、主役を引き立てる為の黒子
みてえなもんよ。黒子は黒子、主役になっちゃいけねえや』
 ウイザードアカデミー辞退の理由を尋ねた所長に、祖父はそう答
えたのだそうです。
 職人気質の祖父らしい考え方だなぁと、僕は思いました。
「しかしね、私はそれだけではないと思っているんだよ」
「え?」
「分からないかね?」
「はぁ、分かりません」
「ヒントは“二十年”だ」
 二十年…。二十年前の出来事を考えて見ますが、思いつきません。
だって二十年と言えば、僕はまだ生まれたばかりで……ん?
「そう、丁度二十年前に初孫の君が生まれた訳だ。魔法使い世界一
の称号は、魔法使いにとって最高の名誉であり宣伝効果は抜群だ。
当然世界中から依頼が殺到するだろう。しかし、相対的に家族との
時間は減ってしまうだろう?」
 僕の祖父はいつも地元の人たちとゲラゲラ笑いながらバカ話した
り、お酒を呑んだり、たまにケンカしたり、家ではいつもラクダの
シャツに腹巻きステテコ姿だったり、パチンコで負けて祖母に怒ら
れてしょげたりと、街の人や家族が好きな……そして僕の事を誰よ
り可愛がってくれたドコにでもいる普通のじいちゃんで…。
「私が師匠を尊敬しているのはね田中君、そういう人だからなんだ
よ」
 所長は僕にそう言って、微笑みました。僕は、顔が赤いのがバレ
ない様に、電車の窓の外を流れる風景を眺めるフリをしたのでした。
 
 という訳で、二日に亘ってお届けした里帰り日記もこれで終わり
です。
 最後まで、お付き合いいただき本当にありがとうございました。
 …ところで、さっきからなんか後からどす黒い空気が…。そして
なんだか、ポキポキと骨の鳴るような音が聞こえるんですけど…。
って、しょ、所長!
 いや、あの…、ええ、ちゃんと覚えてます!
 でも、そこ書いておかないと、日記的に繋がらなくなると言うか、
むしろ、普段の所長とのギャップに萌える、新しいお客様を開拓s
…、ギャァーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!
 
 …そ、それでは…今日のと…うぐ…ころはこの辺で…。
 このブログは…ゴフッ! 『有限会社 黒羽ミサ魔法研究所』の
提供で…お送りしました。

                魔法使い見習い兼宣伝部長 田中二郎

 

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魔法使い見習い、田中二郎の日記・5

 こんばんは、田中二郎です。
 またまた、お久しぶりでスイマセン。(汗)
 実は、とある事情からちょっと祖父の家に行っていたもので。
 という訳で、今回はその時のお話です。

 話は、前回のブログから三日後に遡ります。
 突然、本当に突然、何の前触れもなく壊れてしまったのですよ。
 僕の『魔法タンク』が。
 ええと、既にご存知の方も多いかと思いますが、まだご存じない
方の為に一応説明しますと、『魔法タンク』というのは文字通り魔法
を使うときに使用する『魔法燃料』を貯蔵するタンクの事です。
 『魔法燃料』は僕ら魔法使いが魔法を使うときに必要なエネルギ
ーでして、まぁ車で言えばガソリンみたいな感じですね。
 なのでかどうかは分かりませんが、基本的に魔法燃料はガソリン
スタンドで購入します。
車をお持ちなら、ピンと来た方もいらっしゃるかもしれませんが、
例えばMOJOや入三といった、いわゆるガソリンスタンドに行く
と、灯油を買う場所がありますよね?
 『魔法燃料』は大抵その横辺りで給油(?)できるんですよ。
 形状は…、そうですね。ランドセルやリュックサックくらいの大
きさで背中に背負うように肩ベルトがついてます。
 上部に給油口と残量メーターなどの計器類がついてまして、底の
方には吸気口と排気口が。(タンクと言っても、魔法燃料を送り出す
ためのポンプとかがあるのです)
 で側面に魔法燃料を『魔法ステッキ』(魔法の杖って言ったほうが
通りがいいでしょうか?)に送る管が出ています。
僕らが魔法を使うときはその管を腕にベルトで固定して、管の先
端を魔法ステッキの持ち手の方に差し込みます。
 ちなみに大昔の魔法使いがマントやローブを羽織っているのは、
この魔法タンクを隠すためと言われてます。
 魔法使いと一般の方が敵対していた昔は、弱点である『魔法タン
ク』の存在がバレちゃうと、色々都合が悪かったんでしょうね。
 もちろん、現代ではもうすっかりネタばれしちゃってるんで、隠
す必要はありません。別に魔法使いと一般の方が争っているワケで
もないですし。
 『魔法タンク』の形状について、上記ではランドセルって書きま
したけど、それは結構旧式で、今はもっと見た目も結構オシャレな
のや、スタイリッシュなのも多く、小型で低燃費なのが主流だった
りします。
 魔法業界にも、確実にエコの波は押し寄せてるっていう事なんで
しょう。きっと。
 もちろん、僕もそういう最新型のタンクには憧れるんですけど、
なんせタンク一つが車くらいの値段ですからねー。(具体的に言うと
BNW一台位)
とても手が出ません。ほら、業務用の機械って高いでしょ?
 おっと、すっかり話が横道に逸れてしまいました。
 で、その『魔法タンク』がですね、壊れちゃった訳です。
 これには困りました。
 だって、タンクがないと僕、仕事出来ないですから。
 という訳で、直ぐに事務所に帰って、所長に見てもらったんです
が…。

「うーん…」
 タンクの蓋を開いたまま、小一時間になるでしょうか。所長は腕
組みをしたまま、ずっと唸り続けてます。
「ポンプは異常なし。吸気、排気口も大丈夫、フィルターも目詰ま
りしてない…。うーん」
 僕の職場である『有限会社 黒羽ミサ魔法研究所』代表にして、
僕の魔法の師匠でもある、黒羽ミサ所長は普通の機械にはからっき
し…というか壊滅的に弱いのですが、こと魔法関係の機械類なら専
門の業者さん以上に詳しいので、同業者(魔法使い)の方々からも
ちょくちょくメンテナンスやカスタマイズを依頼される程の腕を持
ってます。
 その所長が、ずっと悩みっぱなし…。僕はにわかに不安に駆られ
ました。
「あの…、そんなに悪いんでしょうか?」
 恐る恐る訊ねると、所長は眉間に皺を寄せたまま、僕の方に振り
返ります。
「いや、まったく逆だよ」
「逆?」
「うむ。おかしなところがまったく見つからない」
「え? どこも悪くないのに動かないんですか? …まさか寿命と
か」
「まぁ、確かに古い機体だから、絶対にないとは言えないが…。
しかしね田中君。仮に寿命だとしても、普通は長年使って劣化し
た部品の故障で動かなくなるものだろう。ドコも壊れていないのに、
動かないって事は通常はありえないんだよ」
 そう言って、所長は首を捻ります。
「じゃぁ、所長がどこか見落としてるとか?」
 言ったあと自分の失言に思わず口を押さえますが、時既に遅し。
一旦口から出た言葉は元には戻りません。所長の顔が油の切れた
機械の様な動きで、僕の方を振り向きます。笑顔で。しかし、その
コメカミにはくっきりと、青い筋が浮き出ていました。
「ほほう、つまり君は、私に見落としがあると言うのかね?
 『専門家以上の専門家』にして『もっともスカウトしたい魔法使
い・オブ・ザ・イヤー永久受賞』にして『もっとも客にしたくない
魔法使い・オブ・ザ・イヤー永久受賞』にして『客泥棒』と魔法機
械の専門家に言わせしめる、この黒羽ミサの目が節穴であると。田
中君、君はそう言いたい訳だ」
 いや…、もう最後のはただの悪口ですから。
「スイマセン…。失言でしたっってぃいだだだだ!」
 がっちりと極まった卍固めの激痛にタップしながら僕は力の限り
叫びました。
「うーむ、しかし故障の原因が分からないのは事実だし、まさかと
は思うがどこかに見落としがあるのか…? いや、しかしなぁ…」
「っていうか、悩むのは卍固め外してから悩んでください! って
ぎゃぁぁぁぁ!」
 いつ、いかなる時でも僕イジメに余念のない所長です。
 魂が半分くらい出た状態で床に横たわる僕の横で、所長は改めて
タンクの設計図とタンクを見比べ、解体し、部品の一つ一つをチェ
ックし、組み立て直し、テストして、また解体しを五回繰り返し…
気がつけば外は真っ暗になってました。
「あの…、所長。ありがとうございました、もういいです…、その、
諦めますから」
 なんていうか、さすがに申し訳なくなって、僕は所長にそう言い
ました。
 所長は疲れきった表情で僕の方に顔を向けます。
「その…、やっぱり所長の言うとおり古い機体ですし、多分寿命だ
と思うんですよ。
僕も最新型のタンクとか欲しいなぁって思ってたトコですし、こ
こはもう、思い切って最新型…はムリでも新古のタンクとか調べて
買い換えちゃいます」
 思い入れのあるモノだって悟られないように、僕は出来るだけ明
るい口調で言いました。
実はこのタンク、僕が小さな時から憧れてた品物で、僕が魔法使
い見習いになったときに祖父にプレゼントしてもらった記念のタン
クなんです。なので、出来るだけ大事に長く使おうと思ってたんで
すけど。でも、形在る物はいつか壊れるって言いますし。
「バカか君は」
「え?」
「新型のタンクが一体幾らすると思っているんだ。君のような半人
前の稼ぎで買える筈がないだろう」
「いや、だからローンで…」
「何年、いや何十年かかると思ってるんだい。君がローンを払い終
わる前に、それこそタンクの寿命が来てしまうよ」
それに――、と所長は続けます。
「このタンクは君の大切な物だろう? いつも仕事終わりにしっか
り磨いたりメンテナンスしたりしてるじゃないか」
「え、所長なんで知ってるんですか?」
 絶対気付いてないと思ってたのに。
「その程度の事、私が気付いていないとでも思っていたのかい? 
見くびるのも程々にしたまえ」
 辛辣な言葉とは裏腹に、所長の笑顔はとても優しくて、僕はうっ
かり、泣きそうになりました。
「大体が半人前のクセに変な遠慮をしてるんじゃないよ。そんな愚
かなことを考える暇があるなら、コーヒーの一杯でも入れたまえ。
砂糖とミルクをたっぷりでね」
「…はい!」
 僕は尊敬する最高の師匠に最高のコーヒーを入れるため、キッチ
ンに向かったのです。

 で、次の朝。
「うん、ダメだこりゃ。田中君、君やっぱローンで新しいタンクを
買いたまえ。ローン会社は紹介してやるから」
 …、僕の感動と尊敬とコーヒーを返せ。
「まぁ、それは冗談としても、まったく原因が分からん。どうなっ
てるんだこのタンクは」
 所長はボサボサになった長い髪を掻きあげながら、イスの背もた
れに体を預けながらタバコに火をつけます。
「…仕方がないな」
 タバコの煙をおっさんのように豪快に吐き出して所長は言いまし
た。
「気は進まないが、というより死ぬほど気は進まないが、むしろ死
にたい位に気が進まないが、行くしかないようだな」
 どんだけ気が進まないんですか。
「って行くってどこへです?」
「決まってるだろう。このタンクの開発者、君のお爺さんの家だよ」

 そして、僕たちは祖父の家に行く事になったのです。

 と、話はまだ終わりませんが、長くなりそうなので今日のところ
はこの辺で。
 このブログは、『有限会社 黒羽ミサ魔法研究所』の提供でお送り
しました。

魔法使い見習い兼宣伝部長 田中二郎

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魔法使い見習い、田中二郎の日記・4

 田中二郎です、こんばんは。
 前回の日記から間が空いてしまい申し訳ありません。
 決してサボってた訳じゃないんですよ?
 ただ、少しばかり止むに止まれぬ事情がありまして。
 という訳で、今回はその『事情』のお話です。

 師走は魔法使いにとって、とても忙しい月――いわいる繁忙期に
なります。
 毎日朝早くから夜まで、次から次へと舞い込む依頼をこなす為、
走り回らなくてはならず、正直、タダでさえブログを更新する余裕
がない状態でして。
「『忙しい』を出来ない事の言い訳にするのは無能な人間のする事だ
よ。田中君」
 なんて所長は言うんですが――。
 他の誰に言われてもこの人にだけは言われたくないです。ってい
うか、ソファーの上で一升瓶抱えながら言われても説得力ゼロです
から。
 そもそも、ここまで忙しいのは本来諸経費や食費に当てるべきお
金が、何故か突然所長の抱えてる一升瓶に化けたが原因な訳で、む
しろブログの更新が怠っている原因の大部分がこの人の所為なんで
すよ。
 なのに、せっかく頂いた仕事を所長ときたら「依頼主が気に入ら
ない」とか「こんなケチな仕事は私が出るまでもない」とか「単純
に気が乗らない」とか、もうわがまま放題。
 おかげで、結局二人分の仕事を僕一人でやるハメになり、もはや
殺人的なスケジュールと言っても過言ではない状態なってしまって
いた訳です。
 もちろん所長も仕事をしてくれと何度も抗議しましたが、馬耳東
風と言うか馬の…いやいや“所長の耳に念仏”状態でして、
「分かってないね田中君。魔法使いにとって一番大事なのはなんだ
い? 答えは経験だ。その一番大切な経験を君にさせてやろうと、
私は涙を飲んで君に自分の仕事まで回しているんじゃないか。親心
だよ、お・や・ご・こ・ろ」とか言いやがる始末。
 アナタが飲んでんのは、涙じゃなくて『スーパー大吟醸、美少年
DX』(金四万円也)でしょうが! というツッコミはどうせ無駄な
ので諦めました。
 しかし、このままでは僕の気持ちが収まらないのも事実。
傍若無人の限りをつくす所長にせめて、せめて一矢報いたいと思
うのは責められる事じゃないですよね? ね?

 それは、相変わらず二人分の仕事をこなす為に、僕が年末の街を
走り回っていたある日の事でした。
「二郎ちゃん!」
 僕のホームグラウンドである『ふれあい商店街』で、大正時代か
ら三代続く酒屋のご主人Hさんに声をかけられたのです。
「あぁ、Hさんこんにちは。何か?」
「いやね、実は二郎ちゃんに折り入って頼みがあってさ。今大丈夫
かい?」
 その日は丁度仕事も一区切りついたところでした。
「ええ、今日の分の仕事は終わりましたから大丈夫ですよ」
「そうかいそうかい」
 Hさんは笑顔でそう言うと、直ぐに真顔になってあたりを見回し
た後、そんじゃぁ、ちょっと付き合ってくれるかなと、歩き出しま
した。
「あの、Hさん? 一体どちらに?」
「いいからいいから」
 Hさんは答えず、どんどん歩いていきます。僕は訳も分からない
ままHさんの後を追います。そして、辿りついたのは――。
 ふれあい商店街から少し外れた路地裏にあるお蕎麦屋さんでした。
 このお蕎麦屋さん、路地裏にひっそりとあるのであまり知られて
いませんが、“その筋”の人たちの間ではかなり有名な、いわゆる通
を唸らせる名店として知られています。
 僕が連れて行かれたのは、そのお店の二階にある団体用の個室(お
座敷?)でした。
 個室の中には、よく見知った面々。具体的に言うと『ふれあい商
店街』でお店を出している店主(主に二代目、三代目)で構成され
ている『ふれあい商店街組合 青年部』の方々がテーブルを囲んで
いたのです。
 青年部って言っても、殆どの方は四十代ですけども。
「いやぁ、よく来てくれたね二郎ちゃん」
 青年部部長のSさん(呉服屋さんの二代目)が愛想よく笑顔で声
をかけてくれました。
「ええと…、これは一体?」
「うん、実はHさんからも聞いてるかと思うんだけど、二郎ちゃん
にお願いがあってさ」
「はぁ、どんなお願いでしょう?」
「そうだね、取りあえず順を追って話していこうか」
 Sさんはマダムキラーと名高い品の良い笑顔でそう言うと、事の
経緯を話してくれました。Sさんの話を纏めると、おおよそこんな
感じです。
 商店街では毎年、サンタがクリスマスケーキの宅配をするという
イベントを行っています。
 青年部部員の皆さんがサンタの扮装で、クリスマスケーキの配達
をする訳ですが、その時に組合に加盟している各店の割引クーポン
を一緒に配るんですね。
 ふれあい商店街のY洋菓子店は配達の為の人件費がかからないし、
他の商店の方は自分のお店の宣伝にもなるという、一石二鳥のイベ
ントな訳です。
 そんな訳で、このイベントは十年前からずっと続いている訳です
が、流石にマンネリ化してしまっている感は否めないと。
 丁度十年の節目でもあることだし、ここは一つ十周年に相応しい
目玉企画を考えようとという事になったのだそうです。
「で、皆で頭を絞りに絞って出した企画がコレなんだ」
 Sさんはそう言って、僕に一枚のチラシを見せてくれました。

 『ふれあい商店街クリスマスイベント 十周年記念企画』
 ドキッ。美人だらけのクリスマス! ~ポロリもあるかも?~
 Y洋菓子店のクリスマスケーキをご購入のお宅に、ふれあい商店
街が誇る美人サンタ軍団がやってくる!
 お父さんは家まっしぐら、お母さんとお子さんは大喜び。

 そんな宣伝文句の下には写真が。
 宣伝文句に偽りなしの美人さんたちが笑顔で映っています。
 みなさん、『ふれあい商店街』では有名な美人さんばかりなんです
が――、一番最後の写真、我が社の所長なんですけど?
「いやね、この時期ってさ忘年会とか多いから、お父さんたちが帰
って来ないっていうグチが奥さんたちから多数出ててさ。で、この
企画を思いついた訳」
 酒屋のHさんが趣旨を説明してくれました。
「いや、それはいいんですけど…、この最後の写真…」
「あぁ、キレイに撮れてるだろ」
「イヤイヤ、そういう事じゃなくって、ウチの所長に見えるんです
けど」
「そりゃそうだよ。君のトコの所長さんだもん。それとも二郎ちゃ
ん、忙しすぎて自分の先生の顔忘れちゃった?」
「そんな訳ないでしょう。そうじゃなくって、ウチの所長がやるっ
て言ったんですか?」
「そこなんだよ」
 再びSさんが口を開きます。
「他の娘たちはみんなOKしてくれたんだけど、二郎ちゃんトコの
所長さんって、こういうの嫌がりそうじゃない?」
 ええ、間違いなく嫌がります。っていうか、それ以前の問題です
が。
「そこで、相談なんだけど――」
「無理です」
「まだ、何も言ってないじゃない」
「っていうか、Sさんも所長の事知ってますよね? あの人に社会
性とか協調性とか社交性とかひとっ欠片もないのご存知ですよ
ね?」
「だから、そこを二郎ちゃんにお願いするんじゃない。可愛い弟子
の頼みとあれば、所長さんと言えども――」
「無理です」
「二郎ちゃん、人の話聞こうよ」
「聞こうが聞くまいが無理なものは無理です。って言うか、そんな
事頼んだら僕の身の安全に関りますから」
「でもさ」
 ここでSさんの声が一オクターブ下がりました。
「ここ最近、次郎ちゃんが忙殺されてるのって、ぶっちゃけ君のト
コの所長が、年末分のお金を使い込んじゃった所為だよね」
 っ! なんでそれを!?
「それだけじゃないでしょ? 今までだって所長に散々こき使われ
たり、理不尽な目に合わされてるよね?」
 そう言いながら、Sさんは僕の肩に腕を回してきます。っていう
かSさん、今すごい悪役っぽいんですけど…。
「ここらでさ、そんな所長に一矢報いてやりたいとは思わない? 
男としてさ」
 それは、確かに常々思っては居ますけど…。
「でも、ただ頼んだって“あの”所長が聞いてくれるわけないじゃ
ないですか…」
 僕の言葉にSさんはニヤリと笑うと、「“ただ”ならね」と言いま
した。
「もちろん、その辺は抜かりないよ。君んトコの所長の弱点はキッ
チリ把握済み」
 Sさんの腕が、僕の肩から離れて声のトーンも先程の軽い調子に
戻ります。
「Hさん、例の物を」
「はいよ」
 Hさんが風呂敷に包まれた“それ”をテーブルの上に置き、風呂
敷の結び目を解きました。
「そ、それは!」
 僕の反応に、青年団の皆さんがニヤリと笑います。
「今回の以来の報酬はコレ。さて、君んトコの所長はこれでも断れ
るかな?」
 確かに、コレと引き換えなら所長も…。しかし、そこでふと湧い
た素朴な疑問をSさんにぶつけます。
「でも、コレがあれば僕が交渉しなくても所長は依頼を受けてくれ
るんじゃないですか? なんで僕に?」
「だからさ、僕ら『ふれあい商店街』の人間はみんな所長の人とな
りも君がどんな風に扱われているかも知ってる訳。そんな君に一度
くらいは所長をギャフンと言わせさせて上げたいと思うのが人情っ
てもんじゃない」
 目の前には青年部の皆さんの笑顔。気のせいか、皆さんには後光
がさしているような気がしました。
「“コレ”の魅力に、君んトコの所長は恐らく逆らえないだろう。い
わば“コレ”は、君をただの村人Aから勇者に変える聖剣だ。さぁ、
どうする?」
 あの超有名な国民的RPGのテーマミュージックが僕の脳内で響
き渡ります。
 そして――僕は、差し出されたSさんの手を握り返したのです。

「ほほう…、つまり君はこの私に、『黒羽ミサ魔法研究所所長』であ
るこの黒羽ミサに、ミニスカサンタの格好でケーキを配って回れと、
そう言っているんだね田中君」
「ええ、まぁ、そういう…事になりますね」
 怖い! 超怖い! 所長の目が人殺しのソレに変わってるんです
けど!
「君とは長い付き合いだ。私が何を好み、何を嫌がり、何を憎んで
いるのか、まさか知らない訳ではないだろう? その上で“あえて”
この依頼を持ってきた訳だ…」
 なんか、所長の背後に真っ黒いオーラ的なものが吹き出てるんで
すけど! 擬音で表すなら、ゴゴゴ…って感じで!
「い、いや、でも、我が研究所も『ふれあい商店街』に事務所を構
えている訳で。そこはやはりご近所付き合いっていうか、そういう
の大事じゃないですか?」
 あまりの恐怖に、口の中はカラカラ。思わず早口でまくし立てて
しまう小動物のような僕。
「ご近所付き合いというなら、私は組合の寄り合いにも毎回出席し
ているし、買い物はすべて商店街で買っている。もっと言えば年二
回開催される商店街の清掃活動にも毎回欠かさず参加している訳だ
が。それだけではまだ足りないかね」
 最後の清掃活動は僕が参加してるんですけどね!
「私の安眠を妨害しただけでも万死に値するというのに、置きぬけ
の私にそんな頼みごとをするなんてね…。君には学習能力がないの
か、それとも――私の教育が甘かったのかな」
 うっすらと上がった口角が超怖いんですけど! っていうかいま、
正に僕の命が風前の灯火状態なんですけど!
「どうやら君には、教育をしなおす必要がありそうだね田中君…」
 薄笑い(目は笑ってない)のまま、ゆっくりと立ち上がった所長
が状態をゆらゆらと揺らしながら僕に近づいてきます。
 そして、その右手がゆっくりと僕の頭に向かって伸びてきます。
 僕の脳裏に、かの名プロレスラー、フリッツ・フォン・エリックが
リンゴをその握力でジュースにしてしまう映像がフラッシュバック
され――、
「超絶吟醸、美少年DXエクストラスーパーエディション『艶』」
 精神的に限界を迎えた僕は遂に、この名を口にしてしまいました。
 伸びてきた所長の腕が、僕の頭を掴む寸前でピタリと静止します。
 そう、これこそが『ふれあい商店街青年団』の皆さんが僕の為に
用意してくれた切り札です。
 殆ど市場に出回らない為、その一滴にはダイヤモンド5カラット
の価値があると言われているマニア垂涎の日本酒…だそうですよ。
ちなみにお値段、一升八万円+消費税。高けぇ。
「それが、サンタの報酬です」
 ゴクリと。
 所長の喉が鳴る音が聞こえます。
「あ、ちなみに、報酬は完全後払いだそうですよ。どうしますか所
長」
 所長が口を開こうとする前に、しっかりと釘を刺しておきました。
迂闊に話を聞くと、いい様に丸め込まれる可能性大ですから。
「うぅ…」
 所長が低く唸ります。完全に形勢逆転。陥落までもう一歩です。
 今、多分僕の人生は絶頂期を迎えているんだと確信しました。
「断りますか?」
「ぬぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐうぐぐぐぐぐぐ…」
「さぁ、所長、返事を」
「…分かった…やろう」
 長い――、長い沈黙の後、所長は殆ど聞き取れない位小さな声で、
そう言いました。
 眼を見開いたまま、床を凝視し、下唇をかみ締め、握り締めた拳
をブルブルと震わせながら。って…マジ怖いんですけど。
ともあれ、完全勝利です。
 僕は、すぐさまSさんのお店に走りました。『完全勝利』と筆で書
いた半紙を両手で持って商店街を駆け抜けたのです。

「あー…、うん…ははは…」
 Sさんは僕の報告に、困ったような顔で曖昧に笑いました。
 何故か、その隣では酒屋のHさんが顔面蒼白でしゃがみこみ、他
のメンバーの皆さんは、まるで売られていく子牛を見るような哀れ
みの眼を僕に向けています。
 …とてつもなく嫌な予感、いや悪寒が僕を襲います。
「実はさ、とても言いにくい事なんだけど」
「なんでしょう?」
 僕は震える声でSさんに尋ねました。
「あの酒、偽物だったんだって」
「……………は?」
 つい数十分前のこと。Hさんに一本の電話が入ったそうです。
 それは、Hさんと同業の隣町の酒屋さんからで、Hさんが仕入れ
た「超絶吟醸、美少年DXエクストラスーパーエディション『艶』」
は、実はある詐欺グループによって造られた真っ赤な偽物で、ビン
の中身は料理用の一升あたり四八十円の安物だったのだそうです。
 で、件の詐欺グループが逮捕されたニュースを見た電話の方は、
まさかと買ってはいないだろう思いつつも、一応Hさんに電話で知
らせ……、今に至ると。
 ちなみにHさんはその偽物を、ネット販売で購入したのだとか。
ネットで仕入れとかすんな。
「そんな訳でさ、二郎ちゃんには申し訳ないんだけど、この話は無
かったことにして欲しいんだよね」
「ななななな、何言ってんですかSさん! もう、所長に話しちゃ
ったじゃないですか! っていうか無理! 今更お酒は偽物でした
とか言ったら、僕、確実に命ありませんから! ちょっとみなさん
も黙ってないで何とか言ってください! って……ん? どうした
んですか? 皆さん」
 何故かSさんを始めとした青年団の皆さん全員、顔面蒼白でガタ
ガタと震えながら僕の後ろを見てるんですけど。
「ほう、例の酒は偽物だったと…」
 地獄の釜の底から響いてくるような低い声が、僕のすぐ後ろから
聞こえました。
 心臓が一瞬止まった後、とんでもない速さで血液を送り始めます。
 擬音で言うと、ドドドドドではなく、ドーーーーーって感じ。
 ゼンマイの切れた人形のようなぎこちない動きで、後を振り向く
と、そこに―――

 鬼がいました。

 えー、その後の事はここに書くことは出来ません。
 一応、お年寄りからお子さんまで楽しめる全年例向けブログです
からR18グロはちょっと…ね。
 ただ、一言だけ言えることは、僕がクリスマス、年末、お正月を
病院のベットで過ごさなければならなかったという事です。
 そしてとっくに松も明けた今、僕はようやく退院し、このブログ
を書いています。ちなみにまだ左腕のギブスは取れてません。
 あ、女王様…いやいや、所長が呼んでいらっしゃいますので、今
日はこの辺で。
 
 このブログは、『有限会社 黒羽ミサ魔法研究所』の提供でお送り
しました。
 魔法使い見習い兼宣伝部部長 田中二郎

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魔法使い見習い、田中二郎の日記・3

 田中二郎です、こんばんは。
 ご近所に住んでいて魔法使いに憧れている(お母さん談)、Y子ち
ゃん(十歳)が前回の日記をアップして以来、口を利いてくれませ
ん。
 もしかして、僕の日記で一人の少女の夢を壊してしまったんじゃ
ないかと、夜も眠ない日々です。
 という事を所長に相談したら、遠くを見ながら
「現実を知るのが早いほど傷は浅くて済むものさ田中くん」
と言ってました。もしかして、所長のトラウマスイッチを押してし
まったんでしょうか?
 でも、僕の今の仕事は『魔法使い』の正しい姿を一人でも多くの
人に分かってもらう事なので、嘘を書くわけにはいきません。
 そう、全ては『所長命令』なんですよ。Y子ちゃん。
 という訳で、今回は僕ら魔法使いの仕事についてお話しようと思
います。

 僕が、いつものように『ふれあい商店街』で夕飯の買い物をして
いた時でした。
「ちょいとアンタ!」
 いきなり肩を掴まれ驚いた僕が後を振り向くと、そこには近所に
住んでいるTさんが立っていました。
 Tさんは、古くから近所で暮らされている、御歳七十歳のお婆さ
んで、僕の職場(有限会社 黒羽ミサ魔法研究所)の常連さんです。
「あぁ、Tさんこんばんは」
「今晩はじゃないよ! “また”テレビが壊れたじゃないのさ、一
体どうなってんだい」
 正直、あぁまたかと心の中で溜息をつきました。と言うのもTさ
んは、僕の仕事に何かと難癖…いやいや、ご指摘を下さるお客様で
して、僕が魔法使い見習いとして入社後の初仕事で難くs…ご指摘
を頂いて以来、ずっと僕が担当させて頂いているお客様なんです。
 で、先週の土曜日にTさん宅のテレビが壊れたというので“応急
処置”をしたのですが…、
「あの後、電気屋さんに見てもらいましたか?」
「なんだい、その無責任な言い方は! アタシはあんたに頼んだん
だよ! 自分の仕事のケツを他人様に持たせようとするとは何事だ
い!」
「いや。ですからね、あの時も説明しましたけど、僕がやったのは
あくまで応急処置ですから。土日は電気屋のご主人が旅行でいない
という話でしたよね」
「そうだよ、だからアンタに頼んだんじゃないか」
「そうそう。それで僕はその時に言いましたよね。『魔法で出来るの
は、あくまで“応急処置”ですよ』って」
 そうなんです。実は魔法の効力って、あくまで“一時的なもの”
なんです。
 その辺、意外と誤解されやすいというか、一般の方に浸透してい
ないというか。
 ちょっと乱暴な説明になっちゃいますが、魔法というのは基本、
自然界の様々な法則の一部を用途によってほんのちょっと曲げて無
理を通す技術なんです。
 で、魔法によって曲げられた法則は元の状態に戻るために原因で
ある“魔法”を排除し、魔法がかけられる前の状態に戻すように出
来てるんですね
 要するに魔法の効力は、かけてから排除されるまでの間なんです。
 なので、魔法使いは効力の期限内で解けるように設定して、魔法
をかけるんです。何故なら、かけた魔法が法則によって排除されて
しまうと、その魔法使いにもダメージが来るようになっているので。

 ちなみに今回の場合は、電気屋さんがいない土日だけ、壊れたテ
レビを見る事が出来るようにという依頼だったので、月曜の朝まで
に期限を設定して(ちなみに効力は一週間)壊れたテレビでも普通
に見られるように“応急処置”をしたって訳です。
 もちろん、その説明もTさんにしているんですけど…。
「おやおやなんだい。あんたは、あたしが悪いってのかい? 僕に
は何の責任もありません、この婆ァが勝手に勘違いして僕の仕事に
難癖つけるんです。僕はただの被害者で善良な市民なんです。皆さ
ん助けてくださいと、そういう風にあんたは言うんだね」
「いやいやいや、そこまでは言ってないじゃないですか。っていう
か最後の方、完全にTさんの被害妄想ですよね」
「だったら、あんたが悪いと認めるんだね。僕が悪うございました。
つきましては是非ともTさんにお詫びを申し上げたいので、急な話
ではございますがこれからTさんのお宅にお邪魔してもよろしいで
しょうかと、そういうことだね」
「いやいやいやいや、何でそこまで僕が一方的に悪者な話になって
るんですか! っていうか、いつの間にか僕がTさんの家に謝りに
行く話になってるんですけど」
「なんなんだい、男のクセにゴチャゴチャと! いいから家におい
でってんだよ! ……茶の一杯くらいは出してやるから。いいね、
ちゃんと来るんだよ!」
 一気に言うと、Tさんは僕の返事も聞かずに早足でズンズン歩い
て行ってしまいました。
 そう言えば――、と思い出します。
 Tさんのご主人は、有名な学者さんなんですが、昨日から学会に
出席する為に、地方に出張だとかなんとか言ってたような…。
「あっはは、二郎ちゃん捕まっちゃったねぇ」
 豪快な笑い声に振り向くと、お肉屋さんのご主人が立っていまし
た。
「Kさん、見てたんなら助けてくださいよ」
「ははは、しょうがないよ。二郎ちゃん、Tさんのお気に入りだか
らさ」
「それならそれで、普通に誘ってくれればいいのに」
「それもしょうがない。Tさんはホレ、今風の言葉で言うと…なん
だっけ…、ほら、あれだよあれ。…ツンデレ?」
 なんて嬉しくないツンデレでしょう。っていうか、Kさん、それ、
ツンデレ違う。
「まぁ、あの人は寂しがりのクセに照れ屋だからさ。何やかんや理
由つけないと誘えないのさ」
 そうなんです。何故かTさんは僕のことが気に入ってくれたらし
く、話し相手が欲しくなると仕事の難k…、いやいや、ご指摘を理
由にご自宅に招待してくれるんです。
 まぁ、話の内容の八割は説教な訳ですけど。
 初めての難k…ご指導の後、その事を所長に話すと、
「我が社のモットーは『出前迅速』『アフターケアー万全』。Tさん
の話し相手も仕事のクレームと言う名目である以上、れっきとした
『アフターケアー』だ。“今後も”しっかりとご指導賜るように」
と、命令されてしまいました。半笑いで。
 まぁ、僕みたいなペーペーは師匠である所長命令には逆らえませ
んし、そもそもTさんと話をする事自体は全然嫌ではないんですが。
 僕は肉屋のKさんに苦笑いを返すと、携帯電話で所長にTさん宅
に『アフターケアー』に向かう事、その為夕食の時間が少し遅れる
事を伝えて、足をTさんの家に向けたのでした。
 お茶菓子は、豆大福だといいなぁと思いながら。

 ……、お? 今日はちょっといい話風にまとまった。
 ではでは、今日のところはこの辺で。

 このブログは、『有限会社 黒羽ミサ魔法研究所』の提供でお送り
しました。

魔法使い見習い兼宣伝部部長 田中二郎

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魔法使い見習い、田中二郎の日記・2

 こんばんは、田中二郎です。
 えー、前回の日記の内容について、所長からクレームが入りまし
た。
要約しますと、
1、 法使いの日記なのに、魔法について何も書かれていない。
2、 私は、ドSではない。
3、 たかも私が、酒好きのだらしの無い女のように書かれてい
る。
4、 まるで、私が金の亡者の様ではないか。
以上の4点について、ブログ上で訂正するようにと、逆海老固め
の体制のまま、小一時間お説教をくらってしまいました。背骨って
あんなに逆に曲がるものなんですね。
 2~4はともかく、確かに読み返してみると僕と所長の漫才みた
いな感じで、『魔法使い見習い~』のタイトルに偽りあり的な感じに
なってしまいました。反省。
 という訳で、魔法使いについて書きたいと思います。

 この日記を読まれている方は分かりませんが、意外と一般の方は
魔法使いの仕事って知らないんだなぁと思う出来事が、この間あり
ました。
 先日、偶然に小学校時代の友人Mとバッタリ出会いまして、お互
い暇だった事もあり、近所の喫茶店で話をしたんです。
 友人Mと僕は、小学校一年から六年まで同級生でして、最初はな
んやかんやと昔話に花を咲かせたり、他の同級生の話なんかをして
いるうち、お互いの仕事の話になっていきました。
 Mは現在、地元の大学に通う傍らコンビニとファミレスのバイト
を掛け持ちしているのだそうです。二束のワラジならぬ三足のワラ
ジという訳ですね。大変だなぁ。
「まぁ、俺の父ちゃんって早くに亡くなってるだろ。で、母ちゃん
ばっかに頼る訳にもいかないし、学費位は自分でと思ってさ」
 Mのお父さんが亡くなったのは今から五年前。出張先に車で向か
う高速で、事故に巻き込まれたのです。
「そういえば、あの時は余裕無くて言えなかったけど、お前父ちゃ
んの葬式に駆けつけてくれたろ。ホントありがとうな」
「何言ってるのさ。Mの家族の葬式だもん駆けつけるのは当たり前
だろ」
「いや、でも誰が連絡してくれたのか知らないけど、イギリスから
ワザワザ帰ってくるの大変だったろ」
 ……? はい?
「いやいや、ちょっと待って。…イギリスって、何?」
「え? だってお前イギリスの学校行ったんじゃないの? 魔法学
校だったよな?」
 魔法学校というのは、魔法使いを目指す子供達が小学校を卒業す
ると同時に入学する学校です。
 で、魔法使いになる事を目指していた僕は、確かに魔法学校に行
ったのですが…。
「僕の行った学校は、隣の市にある私立の学校だよ?」
 しかも自宅からバス通学してた訳で。
「え? だって魔法学校と言えばイギリスなんじゃないのか? ほ
ら、例の映画でさ、魔法の世界行きの蒸気機関車で白髭の爺さんが
学長でさ」
「あー…」
 Mが言っているのは、世界的に大ヒットした、魔法使いのメガネ
少年を主人公にした小説を原作に作られた映画のことなんでしょう。
「あれはあくまでフィクションっていうか、いや、実際イギリスに
も――っていうか世界中に魔法学校はあるだろうけど、多分あんな
感じじゃないよ。僕の通ってた学校だって、見た目こっちの中学と
変わらなかったし」
 僕ら魔法使いは十二歳~十三歳、いわゆる小学校卒業と同時に、
魔法学校の試験を受け、合格するとその学校で魔法を学ぶようにな
ります。
 ただ、Mのように勘違いする人が多いのですが(多分、あの小説
の影響だと思われます)、魔法学校というのは魔法に関する事“だけ”
を教わる訳ではなく、国語、数学、理科、社会、英語、体育、とい
った一般的な授業の他に、“魔法学”という授業があるわけです。
 例えて言うなら、工業高校みたいな感じでしょうか。
 あと違うトコロと言えば、一般の学校が三年制なのに対し、魔法
学校は六年制だというトコくらいです。
 コッチはエスカレーター式の学校みたいなイメージですね。
 なぜ、小学校卒業と同時入学なのかというと、第二次成長期のこ
の頃が、一番『魔法使いとしての素養』を見極めやすいからなのだ
とか。
という事を説明するとMは、「なんか今、サンタクロースは居ない
って知った時の気分だ」とガッカリした様子でした。
っていうかソレ、僕のせいじゃないよね?
「それはそれとして、実は前から気になってたんだけどさ」
「なに?」
「お前、スゲェ美人と同棲してるっていう噂なんだけど」
 飲みかけのオレンジジュースを全部、Mに吹きかけてしまいまし
た。
「うわっ! 汚ねぇって!」
「どどど、同棲って……!? 一体なんの話さ!?」
「ほら、Kっていたじゃん。クラス委員の女」
 Mは、おしぼりでシャツを拭きながら答えます。
「俺は、中学入学と同時に引っ越したじゃん? でも、あいつはず
っとコッチだから、よくお前の事見かけるって」
 Kさんは、Mや僕と同じ地元の小学校に通っていました。風の噂
では、地元の印刷屋に勤めている筈なのですが。
「で、Kが言うには、髪の長い、全身黒ずくめのメガネをかけた美
人とお前が、一緒にスーパーから出てくるのをよく見かける。あれ
は絶対同棲してるに違いないって――」
「それ、僕の勤め先の所長」
「え?」
「だから。勤め先の所長で、僕のお師匠様」
 魔法使いは、魔法学校を卒業すると、魔法省の試験を受けて魔法
使いの免許を取ります。
 しかし、それだけでは魔法使いにはなれません。その段階ではま
だ、魔法使い見習い――、車で言えば仮免です。
 で、その後指定の魔法使いのが経営する会社(というか、個人商
店と言ったほうがしっくりきますが)で三年間、住み込みの修行を
終えて初めて、正式に国の認める魔法使いになれる訳です。
「――、という訳で、僕は所長の事務所兼自宅で住み込みの修行中
ってわけ。ちなみに、一緒にスーパーに行くのは所長が余計な買い
物をしないように見張る為。分かった?」
「なんか、お笑いとか新人演歌歌手みたいだな」
 うん、よく言われます。
「でも、そんな美人がお師匠さんなら、さぞかし毎日楽しいんじゃ
ないの? 一つ屋根の下で暮らしてるんだろ?」
 思わず、僕の口から乾いた笑いが漏れました。
「逆海老固めかけられたまま小一時間説教されるのが楽しいとMが
思うなら、きっと楽しいんだろうね。自分の背骨が軋む音って聞い
た事あるかい? あと、バカ高い日本酒を買ってきたことに一言文
句を言ったら、百の言葉で言い負かされた事はある? 炎天下、ウ
サギの着ぐるみを着たまま八時間、風船配らされた挙句に脱水症状
で入院しかけた事は? そのバイト代がたった一本の日本酒に化け
た事は? 酔っ払った上司を背負ってフルマラソンを走らされた事
は? その事を相手が翌日キレイさっぱり忘れてた事は? それか
ら――」
「分かった、分かった。うん、お前も色々大変なんだな」
 自分でも気がつかないうちに、若干涙ぐんでいたみたいです。
 そのあと、僕とMは一時間位話してから分かれました。
 また、お互いの時間が空いたら会おうと、メルアドの交換をして。

 で、翌日。
 今度は、偶然にも前日話題にのぼったKさんとバッタリ出会いま
した。
 Kさんはすっかり大人になっていて、それでも小学校の時と変わ
らない快活さで僕にこう聞いてきました。
「田中くんの同棲相手って、SMの女王様なんだって?」
 誤解が晴れるどころか、より複雑な誤解をされたみたいです。
 この日記を書き終えたら、Mに呪いのメールを出してやろうと思
います。(良い子も悪い子も真似しちゃダメだよ)
っていうか、結局魔法使いの話をほとんど書いていないような…。
 ではでは、今日のところはこの辺で。

 このブログは、『有限会社 黒羽ミサ魔法研究所』の提供でお送り
しました。
魔法使い見習い兼宣伝部部長 田中二郎

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魔法使い見習い、田中二郎の日記・1

 田中二郎です。こんにちは。あ、いえ、初めましてですね。
 ………………。(一行目から一時間四十八分経過)さて困りました。いや、イキナリ困られても読まれてる方はもっと困ると思いますが。
 なんせ、『ブログ』なんて書いたことないので、一体何をどんな風に書けばいいものか、さっぱり分かりません。っていうか、ネット自体ほぼ初体験といいますか、マン喫なんかでちょっとはいじった事あるんですけど、ホントその程度でして。
 しかも、タイトルに“日記”とつけてはみたものの、二十年の人生の中で日記なんて書いたのは、小学校の時の夏・冬休みの宿題以来なんです。
 ええ、長期休みの最終日にまとめて書く、ほぼ百パーセントフィクションのアレです。 そんな僕が、なんでブログで日記を書くハメになったか――、あ、そうですね!今日はその話を書こうと思います。

 話は三日ほど遡ります。僕の勤める、『有限会社 黒羽ミサ魔法研究所』(以後『黒研』)の所長であり僕の魔法の師匠でもある、黒羽ミサ(女性です念のため)が突然、
「諸君! これからはインターネットの時代だ!」
と声高らかに宣言したのです。ちなみに、『黒研』は所長と僕の二人しかいません。
 普通ならここで、「その時代は十年以上前に到来済みです」と冷静かつ的確なツッコミの一つもするべきトコロなのでしょうが、僕の経験上、迂闊なツッコミは我が身を物理的危機に晒す事になるので、話を合わせる事にしました。
「所長の言う事はもっともですが、インターネット時代と我が社との関連性がいまひとつイメージできないのですが」
 インターネットはおろか、そもそも『黒研』にはパソコンありませんし。
「これだから最近の若い者は…。これがゆとり教育の弊害というヤツなのだろうか…」
 無知なる者を哀れむ目で僕を見ながら、心底同情した口調でそんな事をのたまう所長。元が美人なだけに蔑まれ感も三割増です。
「しかし、不肖この黒羽ミサ、無知なる者を哀れみ蔑みながら置き去りにするような薄情者ではないつもりだから安心したまえ」
 絶対わざとですよこの人。あ、言い忘れましたが所長は超のつく『ドS』で、最近のマイブームは僕イジメです。四角いフレームの黒縁メガネを右手の中指でクイっと押し上げながら、所長の演説は続きます。
「いいかね田中くん、パーソナルコンピューターの普及に伴うインターネット利用者の増大により、我々が享受できる情報は飛躍的に増えた。情報がマスコミという商業メディアという媒体から発信されるモノという認識は前時代――つまり時代遅れの認識でとなり、今や情報は誰もが個人単位で発信し、かつ享受出来る人類の共有財産となったのだ。さらにインターネットという新メディアの台頭より、情報は国境という物理的な壁すらも飛び越え、我々人類は自宅に居ながらにして世界中から発信されるありとあらゆる情報を享受できる、言うならばボーダレスな第二世界を手に入れたと言っても過言ではないのだよ。そして、その発信は実に自由だ。過去、個人が世界に情報を発信する為には、幾多のフィルターを通す必要があった。例えばテレビであり、ラジオであり、新聞、雑誌など、商業ベースのメディアを通す以外手がなかったのだ。それは農家が作った野菜が消費者の手に渡るまでに何人もの仲買人の間を通る間に、その値が上がっていくのに似ている。しかし、インターネットの登場により、その概念が覆ったのだよ。つまり、今や農家の人間が直接消費者に自分の作った野菜を提供できる。つまり、我々もインターネットという新しいシステムによって、他メディアというフィルターを通すことなく、直接相手に情報を手渡せる訳だ。
 分かるかい? 田中くん。そして聞こえるかい? 情報新時代の足音がっ!」
「えーと、つまり平たく言うと?」
「つまりだ。インターネットなら無料で世界中に我が社の宣伝が出来るって事さ。宣伝費無料。なんとも魅惑的な響きじゃないか、田中くん」
 ぶっちゃけやがりましたよ、この人。
「話は良く分かりましたが所長、しかし、インターネットに繋ぐ為にはパソコンとネット環境の準備が必要ですよ? 準備と維持に費用がかかります。無料では出来ません」
 僕の発言に所長は、右の人差し指を左右に揺らしながら、チッチッチと舌を鳴らし、グイっと顔を近づけて来たので、僕は思わず仰け反る様な形になってしまいます。何故か美人のアップって威圧感ありますよね。
「その心配は無用だよ、田中くん」
 所長は、僕から顔を離すと時計に眼をやり、「そろそろだな」と呟きました。
 所長の呟きの意味について質問するよりも早く、けたたましいブザー音が事務所に鳴り響きました。来客ようブザーです。
「お、来たね」
 所長はそう言うと、事務所の玄関に向かいます。普段は玄関扉の横に立っていても、僕に出迎えさせるんですけど…。
 所長が玄関の扉を開けると、二人の男性が大きなダンボールを持って、事務所に入ってくると、手早く荷を解きパソコンとモニターを取り出し、配線、パソコンの立ち上げ、設定、その他諸々をあっという間に済ませ、風のように去っていってしまったのです。
 気がつけば、僕の机の上には一台のパソコンとモニターがセットされていました。「…、あの、所長、こ、コレは一体?」
 眼を離せば襲い掛かってくる猛獣に相対しているかのように、僕はパソコンから眼を離せないまま訊ねます。
「うむ。この間、商店街の福引があったろう?」
「あぁ、日曜日の…」
 毎月最終日曜日、地元の「ふれあい商店街」では、各店による全品半額セールと、千円以上お買い上げごとに一回福引が出来るというイベントが開催されているんです。
 なんとなく、話の概略が見えてきましたよ。
「この間というと、醤油と味噌を買いに行った筈の所長が、何故か三万円の日本酒を買ってきた日の話ですね」
 確か、『超吟醸 美少年 スペシャルエディション』でしたっけ。おかげで今、三食お米とタクアン(賞味期限切れ)の食事が続いてるわけですが。
「うむ、で、三十回の福引でそれが当たった訳だ」
 所長が、僕の机の上に鎮座ましましているパソコン(最新型)を指差し、勝ち誇ったような笑顔を見せます。
「どうだね田中くん、私のくじ運の強さは」
「良いわけないでしょう! なんでもっとこう、味噌とか醤油とか肉とか野菜とか、生活に密着した景品が当てられないんですか! っていうか、そのパソコン! 売っちゃえば良かったじゃないですか! そのお金で、お米とタクアン(賞味期限切れ)の食生活ともおさらば出来るじゃないですか! そうですよ、今からだって遅くない。このパソコンを売って、直ぐに食料を買いましょう!」
 自慢じゃないですけど、僕、近所でも温厚な青年で通ってるんですよ。語尾にこんなにビックリマークつけて叫ぶようなキレキャラじゃないんですけど…、荒んだ食生活は精神をも荒ませるんですね。
「知っているかい? 田中くん」
 怒りとか、憤怒とか、憤りとか色んなものに我を忘れかけていた僕に、所長は諭すような優しい口調で、
「昔、ある地方で大飢饉が起きてね。領民は皆、大変に飢えていたそうだ。そんなある日、その領主の下に沢山の米が届いたそうだ。大飢饉を見るに見かねた他の地の領主が寄付してくれたんだね。さて、その領主は届いた米をどうしたと思う?」と訊ねました。
「いきなりクイズですか…」
 で、このクイズに答えないと話は前に進まないんですね、きっと。
「領民に平等に分け与えた?」
「不正解だよ田中くん。領主はその米の少しを領民に分けると大部分を城の蔵に隠したんだ。しかし、それは領主が米を独り占めしようとしたわけじゃない。隠した米は、次の年の作付けに使ったわけさ。
 分かるかい? 領主はその瞬間の空腹を満たす事よりも、次の年以降の事を考えたんだ。凶作で米が取れないということは、次の年に作付けする米がない。それでは次の年以降も領民は飢える事になる。だから、あえて領主は米の大部分を領民に渡す事をしなかったんだよ。例え、その時は領民に恨まれ、嫌われようともね」
「はぁー、なるほど。立派な人だったんですね」
 ひと時の情や欲求に流されることも屈することもなく、“次”に繋げる。しかし、一時期とは言え沢山の人に恨まれるのは辛い事でしょう。きっと、貰った米を全て領民に分け与え、感謝される方が楽な道だったに違いありません。
「我々とて同じ事。いや、食べる米があるだけ幸せじゃないか。今の極貧生活を『有限会社 黒羽ミサ魔法研究所』の豊かな未来に繋げる、このパーソナルコンピューターはそうした役割をになっているのだよ」
「所長! 僕が間違ってました!」
「なに、分かってくれればそれで良いのだ。今は苦しくとも、二人で頑張ればきっと乗り越えられる。これは私たちの試練なのだよ、田中くん」
「所長!」「田中くん!」
 所長と僕は固く手を取り合いました。素晴らしきかな師弟愛。ってあれ?
 何かがおかしいような…。ま、いいか。
「ところで、パソコンは無料として、接続費その他はどうするんです? コレは無料じゃないですよね?」
「それがね、今回はイベントの十周年記念とかで、プロバイダー料とその他諸々の費用が十年無料だというのだよ。なんでも、さる大手プロバイダーの役職が商店組合理事長の後輩だかでね」
「あぁ、高田さんでしたっけ。和菓子屋のご主人。じゃあ、本当に無料でネットが出来るんですね?」
「あぁ、ネット時代のビックウエーブにのって、我が社もついに世界進出、一躍時代の寵児となり、ガッポガッポのウッハウハ人生だよ田中くん!」
 沢山のフラッシュの中、燕尾服にシルクハットを被りクルリン髭を生やしてリムジンから降り、レッドカーペットの上を美女十人(SPを含む)と歩く僕が脳裏に浮かびました。
「という訳で田中君」
「はひ?」
 幸せな夢(という名の妄想)から引き戻された僕の目の前に、一枚の紙が突きつけられてました。

 辞令 田中二郎殿
 宣伝担当部部長に任命する。
 有限会社 黒羽ミサ魔法研究所 代表取締役 黒羽ミサ

「あの…、これは」
「期待してるよ田中くん」
 という訳で、今、このブログを書いている次第です。
 ええ、ネットの事とかホームページの事とか調べていて、この三日完徹です。
 で、ホームページは難しそうなので、練習がてら、このブログを書き始めたという次第です。
 所長は、『超吟醸 美少年スペシャルエディション』のビンを抱え、事務所のソファー(兼所長のベッド)で、すやすやと気持ち良さそうに寝ています。たまに「うーん、もう松坂牛は飽きたよ田中くん」とか文字通りWの意味で寝言を言っているので、幸せな夢を見てるんだと思います。
 ……、ブログって、これでいいのかな?
 ともあれ、これからもどうかヨロシクお願いします。
 このブログは、『有限会社 黒羽ミサ魔法研究所』の提供でお送りしました。
                         魔法使い見習い兼宣伝部部長 田中二郎

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始めに。

初めまして。青空ぷらすという者です。
概要や、プロフィールにも書きましたが、このブログは『魔法使い見習い』である、田中二郎がブログを書いている。という設定の、短編連作ショートストーリーにしていく予定です。
主人公の田中二郎を始めとした、登場人物、場所、団体、その他全てフィクションです。
のんびり更新になると思いますが、もしよろしければお付き合いいただければ幸いです。
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