パンプキンズ・ギャラリー

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【小説】桜の庭

2017-05-29 20:14:24 | 今日の小話
「パパ、今までありがとう……」

 梅雨だというのに晴空がのぞく大安吉日、白無垢の衣装を纏い、いつもとは違いそそたる雰囲気を醸し出す娘は、俺から目を伏せるようにして、そう呟いた。

「いや、いいんだ。これからお前がもっと幸せであってくれれば」

「……はい……」

 顔を上げ、俺の目を見つめてその言葉に応える娘の目には、俺への感謝と、そして言いようのない感情がこもっていた。
 俺もその瞳を見つめて、小さく頷いた。
 卵形の整った輪郭に、大きな目と小さくも高い鼻、そして大きくもなく小さくもない薄い唇をもつその容貌は、きっと美人の部類に入るのだろう。
瞳は黒いようだが、その奥には金色の輝きが時折覗くようにも見える。
 しかしその瞳は今、真摯な色を帯び俺に注がれている。
 その娘の顔にあいつの面影を見つけ、不意に懐かしさと、やるせない哀愁を感じる。
 そう……あれからもう十二年が過ぎていた……

「この花はどんな名前なんですか?」

 俺がまだ二十代初めの頃だ。
 太平洋戦争も終わり、日本も復興にはいり、世間では高度成長と浮かれていた時代。
 俺は三年前に他界した父の墓参りに訪れていた。
 母は病気のためにくることができず、俺だけがこの墓に花と水の入った手桶、それに掃除用具を持参してやってきていた。
 春の息吹が感じられる四月初めの午前、日差しは決して強くはないが、その光を今、満開に咲き誇る桜の花が遮り、見上げれば、そこには薄紅色の天幕が、光に透けて明るくも怪しい光を放っていた。
 それからお昼までの間、俺は墓を雑巾で洗って汚れを落とし、周囲の草木を伐採して、墓の掃除をこなしていた。
 一段落がつき、花と線香を墓前に供え、父やご先祖様へのお参りをしている最中、不意の後ろから声が聞こえ、俺は振り返った。
 そして、その姿に目を見開いた。

 そこには綺麗な卵形の輪郭と大きな瞳、そしてやや彫りの深い整った顔に、たぶん長いであろう艶やかな光沢を放つ烏色の髪を後ろで結い上げたそそたる美女が、たぶん鯉なんだろうが、魚の柄が描かれた水色の着物をまとい、涼しげな通る声で俺に尋ねてきた。
 その場違いさと、どうして俺なんかに声をかけたのかという疑問を感じながらも、つかえつかえだが言葉を返した。

「え? 桜……ですけど……?」

「さくら、って言うんですか? さくら……さくら……」

 美女はまるで初めて聞く名前のようにその言葉を繰り返す。

「さくらって、他の所にもあるんですか?」

 不思議そうに小首を傾げて聞いてくるので、俺も馬鹿丁寧に、

「ええ、この墓地ならあちらこちらに植わってますよ」

「そう……色々見てみたいのですけど、もしよろしければ案内していただけません?」

 美女の顔がほころび、俺に上目づかいでそう尋ねる。
 俺もその様子に悪い気がせず、

「ええ、今ちょうど用事も済んだので、少しくらいなら」

「ふふ……ありがとうございます」

 俺の言葉を受け笑顔を浮かべる美女。
 その楽しそうな様を見ていたら、俺の心にも何やら春の陽気が流れ込むような明るさを感じ、俺も次第に笑顔になっていった。

「へぇ、レンさんって言うんだぁ」

 墓地の中を桜の木を巡りながら俺とレンと名乗った美女は並んで歩く。
 俺よりも肩一つ小さいレンさんは、俺のことを見上げながら、でもその瞳には楽しそうな輝きを宿し、

「はい。人は私のことをそう呼んでます」

 そう言いながらコロコロとした笑顔をくれる。

「レンさんって、どこの出なんですか?」

 俺はふと尋ねてみる。
 ここいら辺では見かけない感じの佇まいに、俺はこの土地のものではないということには気づいていた。
 するとレンさんは顔を俯かせ、

「少し……少し遠い所……」

「遠い?」

「……うん」

 そう言うとレンさんは口をつぐむ。

『まずいこと聞いちゃったかなぁ……』

 俺は心の中で密かに舌打ちをしたが、それも桜の案内を終える頃には杞憂であるとわかった。

「今日は楽しかったです」

 レンさんが俺の顔を見てそう言葉を紡いだ。

「そりゃぁ、よかった」

 俺もレンさんの瞳を覗きこむようにして応える。
 するとレンさんはふと目を伏せ、顔を俯かせてしまう。
 そして、少したどたどしく、

「あ、あの……もしよければ……また会って……」

 そこまで言うと言葉を飲みこんだ。
 俺もその様子から事情を察し、

「ええ、いいですよ。また会いましょう」

「いいんですか!」

 俺の言葉にレンさんが輝いた表情でそう聞き返した。

「ええ。あ、俺の住所とか手帳に書くんで、連絡先はここで」

 俺は胸ポケットから手帳を取り出して、住所と電話番号、それに俺の名前を書いたページをちぎり、レンさんに渡した。

「ここに連絡してくれればいいですよ。レンさんの連絡先は?」

 俺が何気なく聞いた言葉に、レンさんは言いにくそうに、

「え、あの……私、ちゃんとした住いはなくって……」

 そう言葉を濁し黙ってしまう。

『住所不定……? どんな商売の人だ……』

 俺は不審に思いながらも、そのか弱い様子と、そして妙にレンさんへの感情が抑えきれず、

「あ、いや、いいですよ。レンさんから連絡さえいただければ。俺も土曜は午後から暇ですし、日曜日も大抵あいてますから」

 そう努めて明るく応えた。
 するとレンさんはホッとしたような様子で、

「ありがとうございます。それじゃあ、またあとで電話しますから」

 そう言って俺たちはその日は別れることにした。

 それからのことだ。
 俺はレンさんに二週に一度、あるいは毎週逢うことになった。
 最初の頃は街中を歩くと、レンさんは何かと驚いていた。
 昼の喫茶店も、夕暮れの映画館も、そして夜の居酒屋も。
 だが次第に街の様子にも慣れてきたのか、レンさんはあまり驚かなくもなり、そしてそのことと同じ速度で、俺達の仲はより深いものへと変わっていった。

 だが付きあっている最中でもレンは俺に自分の職業の詳細を教えてくれなかった。
 どんなところで働いているのか、それは謎に包まれていたが、俺とのデートで見せるレンの金払いのよさは、どうにも腑に落ちないものがあった。
 俺が払うという時ですら、レンは煩わせては悪いと言っては払い、そして俺の母への誕生日などでのプレゼントもキッチリとやってくれ、また甲斐甲斐しく母に尽くしたため、母からの評判は上々だった。

「レン、お前、本当はどこで働いてるんだ?」

 俺はとうとう不信感に耐えられず、ある夕暮れ、レンを公園に呼び出して問いただした。
 もし、もしだ。
 レンが水商売の女で、そしてそこから足抜けしてきた、というのであれば、事情は変わる。
 だがレンは真剣な表情を浮かべ、射るような視線で俺の瞳を見つめ、

「私はそんな女ではありません。信じて、といっても証拠がないのですから信じられないでしょうが、体を売るようなことはしていません」

 その必死の形相に鬼気迫るものを感じ、俺は、

「ならなんであんなに金を持ってるんだ? 堅気にしては変だろう?」

「それは……」

 俺の言葉にレンが言いよどむ。やはり何かある。

「それは……たぶん信じてくれないでしょうが……」

「いいから言ってみろ」

 俺の厳しい言葉にレンは佇まいを正し言い放った。

「それは魔法の力です」

「魔法?」

 俺は素っ頓狂な声を上げた。
 おい、魔法って!?

「魔法? おい、嘘つくんならもっとマシなこと言えよ! 水商売の方が信憑性があるぞ!」

 俺は声を上げて笑いはじめる!
 さすがに魔法とは! さすがにこれはない!
 だがレンは俺の様子をただ冷静に見つめ、

「信じられないかもしれませんが、その力によって金品を生じさせています。なんとなればご覧になります?」

 いつものレンの様子とは違い、力のこもった声。
 俺は笑うのをやめて、半ば小馬鹿にするように、

「ああ、じゃあ俺の目の前でやってみせろよ!」

 そう一言だけ、厳しい表情を浮かべて口にした。

 そして黄昏が闇に溶けこむ頃、俺たちはレンが魔法を使えるよう、人気がなさそうな場所に移動した。
 周囲には人も、民家もなく、雑木林に囲まれたそこは、いつもの黄昏よりも暗く感じられた。

「それじゃあ、いきます」

 声と共に、レンが呼吸を整えて手を前に突きだす。
 その掌に、微かな燐光が見える?
 俺はさらにその掌に目をやった。
 手のひらからの燐光は蒼い光の粒子となり、粒子はやがて小さな渦へと変貌し、そしてその渦は蒼い光を周囲に躍らせながら、一つの物体を作りはじめた。

『これは……』

 やがてその渦が小さくなり、粒子へ、そして燐光へと光を弱めたその掌には、一万円札の札束が現れていた。

「お、おい!?」

 俺は急いでレンを見た!
 だがそこにいたのは……

 いつものレンの顔をしているそれは、だが髪はほどけて蒼い輝きを放ち、肌も青く、そしてその瞳は金色の光を放っていた。
 体にまとっていた着物はなく、胸を覆ううろこ状に衣服と、そして下半身は鱗に覆われた魚の体そのものだった。

「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 俺はとっさのことで叫び声を上げる!

「待って!」

 その化け物はレンの声で、そして俺に縋るように抱きつき、

「確かに私は人ではありません。でも……私は、あなたの愛してくれたレンなんです!」

 必死な声と今にも泣き崩れそうな表情で縋る化け物。
 その様子を見て、俺は平静さを取り戻し、

「お前……本当にレンなのか……?」

「……はい……今まで隠してきたことはごめんなさい。でも、あなたと逢って色々話したり、その……」

 レンは俺が逃げないのを悟ると縋るのをやめて、顔を俯かせて話しはじめた。

「私、あなたに会った数日前にこの世界に召喚されました。でも……」

「でも……なんだ?」

「召喚した人がいきなり急死して、私だけがこの世界に取り残されました。たぶん、召喚のために必要な体力がなかったんです……」

「それであの時……」

「はい。初めて会う人間があなたでした」

「なんで人の姿をしていたんだ?」

「それは、召喚した人の部屋にあった書物などで調べました。今この世界の衣装や風物、そして簡単な言葉なんかを」

 そう淡々と話すレンの様子には嘘が感じられなかった。
 俺は先を促した。

「だから、ただ閉じこもっていても、と思い、思い切って外に出てみました」

「そこで出会ったのが俺、というわけか?」

「はい」

「その召喚した人の家というのは墓地から近いのか?」

「ええ。歩いて数分のところにある古い屋敷です」

「っていうと、確か一人住まいの爺さんが住んでいて、夜な夜な怪光が見えたっていうあの屋敷か……」

「はい」

「じゃあ、その爺さんの亡骸は?」

「私が葬りました。ただ、私が異界へ帰る方法がわからなくって」

「だから俺に頼るようになった、というわけか」

「はい」

 そこまでレンは話すと、また押し黙る。
 だがその瞳は俺にあることを期待していた。
 その俺への慕情を募らせた視線を感じ、俺はフッと息を漏らし、

「いいよ、一緒になってやる。今までのこともあるし、化物だからって、はいサヨウナラ、というわけにもいかないしな」

 その言葉を聞いたレンの表情は輝き、そしてその瞳からは幾筋もの涙があふれかえった。

 それから俺たちの関係はとんとん拍子で進んだ。
 母の計らいもあり、俺たちは人として祝言を上げ、一つ屋根の下で暮らすことになった。
 レンは母の前では変身を解くことをせず、母もレンが人間だと思いこんで付きあっていた。
 やがてレンが、俺たちの子を妊娠した。
 レンが言うには、人間と魔物が子をなすには、魔性の縁という要素が必要で、どうやら俺たちにはその縁があったようで、俺たちは子宝に恵まれた。
 そして十月十日が経ち、レンは女の子を無事出産した。

「ミサキ、人前で変身してはダメですよ」

「うん!」

 俺たちはレンが出産するのを機に家を出てアパートを借りた。
 レンが言うには、産まれてくる子供が完全に人間の姿である保証もなく、もし魔物の姿で生まれればパニックを起こす。
 そうなれば俺たちが生きづらくなる、との事だったので、出産も誰の手も借りずそのアパートですませ、そして俺たちの新生活が始まった。
 ミサキと名付けられた娘は、レンの予想通り完全に人の姿ではなかった。
 肌は蒼く、目は金色の光を放つ。
 幸い下半身が魚ということはないが、それでもこの姿ではまずい。
 そう考え、母にもミサキがぐずるなどの言い訳をして、あまり会わせようとはせず、レンの魔法で人の姿に変えたミサキの写真を撮っては送る日々を送っていた。
 そしてミサキも大きくなり、その中で色々なことを体験し、自身の姿のコントロールも覚えていった。

 やがてまた数年が過ぎ、俺たちは父が眠る墓地への墓参りへと家族できていた。桜の花びらが舞い散る中、小さいながらも墓前に手を合わせて祈るミサキの姿を見て、

「でも、この後もずっとこれが続くのか?」

 俺はミサキの将来が不安になって、レンに尋ねた。

「いえ……たぶん、ミサキの姿も人としての時間が多くなればそちらにより近づくと思います。それに」

「なんだ?」

「もしこの子が他の人と恋に落ち、子供ができたとしても、その姿はより人間に近く、そしてさらに人間である可能性が高いでしょう」

「そういうものなのか?」

「魔性の縁は、最初のつがいである私たちが一番影響を受けます。でも世代を経るにしたがってそれも薄れ、やがてより血の強い方へと変わっていく」

「じゃあ、ミサキは魔法を?」

「この子は……たぶんもうすぐで……今は使えても、いずれ使えなくなります」

「……そうか」

 俺の少し落胆した声にレンは微かに笑い声を漏らし、

「フフ、残念そうな声」

「あ、いや、生活に困らなくてよかったんだけどなって」

「それなら、いいお婿さんを探してあげれば」

「それもそうだな」

「それに……これを」

 レンは俺に銀色の細工物に琥珀がはめられたネックレスを手渡した。
「これは?」

「私の心。あなたとの思い出や、ミサキの思い出を詰めこんだ、大切な私の心。あなたに持っていてもらいたいの」

「……ありがとう」

 ミサキがお参りする中、俺たちは小さな声を上げて笑いあう。
 その声に、ミサキが不思議な顔で振り返る。
 そんな優しい光景が広がる春の日差しの中、俺は桜の木々を見上げる。
 薄紅色の光る天蓋が、レンと出会った時と少しも変わらない光を、また俺たちに降り注いでいた。

「あなた! ミサキを連れて逃げて!」

「でもどうやって逃げればいいんだ! 窓も、ドアも、開かない!?」

 アパートから市営住宅に引っ越してから数年が経ったある暮の日。俺たちを怪異が襲った。
 部屋全体が不気味な碧い光で満たされ、そして窓もドアも頑として動かなかった。

「一体どうなってるんだ!」

 俺がパニックに襲われ叫ぶ!

「碧力結界?」

 レンがふと一つの言葉を呟く。
 すると……

「ご名答だ! レンシア!」

 玄関からいきなり声が聞こえ、そして俺たちのいる部屋のドアが開かれた!
 そこに立っていたのは、黒いフェルト帽を目深にかぶり黒スーツで身を固めた長身痩躯の三十代の男。
 声はややハスキーでシニカルな色を帯びていたが、その声には底知れない威圧感が宿っていた。
 そして黒スーツの男は部屋へと一歩踏みこみ、

「まさか、あの爺さんが召喚した魔物がここまで逃げてるとはな!」

 黒スーツの男が楽しげに呟く。

「おっとぉ、逃げられると思うなよ! この碧い光の名は碧力結界。この力が作用している空間は、他の空間と隔絶されて、音も、振動も、何も外へは聞こえはしない。試しに叫んでみるか、助けてぇ~! てな!」

 黒スーツの男は嗜虐的な口を歪め、そう言葉を吐く。

「だ、誰かきてくれ!」

 俺は恥も外聞もなく、黒スーツの男の言葉通り大声で叫んだ!
 だが……

「ん~、誰もこないねぇ……言ったろう、無駄だって」

 俺たちの狼狽を楽しむかのように、黒スーツは一歩、また一歩と俺たちに近づいてくる。

「レンシア~、色々探したぜ。あの爺さん、魔導書はかなりのものを持っていたが、残念ながら体力がなかった。何を考えてお前を召喚したのかは知らないが、この世に魔物を放置するわけにもいかんしなぁ」

 黒スーツの男はレンに言葉を投げかける。

「待って! この人たちは関係ない! 退魔士のあなただってそれはわかるでしょう?」

 レンが必死に応える。
 だが黒スーツは、

「退魔士! 随分と古い名前だなぁ」

 そう言ってけたたましい笑い声を上げた。

「今はデーモンハンターって呼ばれてるんだよ、レンシア! 正体見せたらどうだ?」

「……………………」

 デーモンハンターと名乗る黒スーツの声に、レンが押し黙る。

「はっ! やっぱり愛する人の前では魔物の姿をさらしたくない、か?」

 黒スーツが小馬鹿にしたような声を上げるが、俺は、

「……レン、かまわない。変身を解け!」

「……でも……」

「俺も、ミサキもすでに知ってるんだ。遠慮する必要はない!」

 俺の決意に満ちた声に、レンは頷き、

「必ず勝ってみせます!」

 そう叫びレンは変身を解いた!

 そして人魚のような魚の下半身と蒼い肌、青い髪に金色の瞳を持つ空中を泳ぐように漂う魔物、レンシアのレンと、黒いスーツで身を固めたデーモンハンターとの戦いがはじまった!

 レンは最初水の魔術を駆使し、激しい攻撃を繰りだしたが、たとえ攻撃を受けても黒スーツの男はひるまずに電撃をその掌から放つ!
 その幾筋かはレンを捉え、レンは悲鳴を上げるが、それでもさらに水の刃で襲いかかった!
 だがたとえ傷ついたとしても、黒スーツの男は不思議な技でたちまち傷を癒してしまい、決定打にはなりえなかった。
 やがて敵の攻撃が俺たちにまで及ぶようになると、レンはひたすら防戦一方へと転じていき、そして!

「いい加減くたばれよ! おらぁぁぁ!」

 強烈な電撃がレンの体を捉え、その体が激しく光り、そして床へと倒れ伏した。
 その瞳は一瞬俺たちの姿を認めたが、だがすぐにその色を失い、その体から生気が失せたことがわかった。

「ふん……手こずらせやがって」

 そう言うと、全身傷だらけの黒スーツの男はレンの心臓に奇妙な形の剣を突き立てた。
 そして、レンの体は光の粒子へと変わり。消えた。

 その光景におののいた俺は、

「お、俺たちも……やるのか……」

 そう恐怖に駆られて尋ねたが、黒スーツの男はあきれたように、

「魔物と交わったものを生かしてはおけない、という規則は今のところないんでな。俺も人殺しはしたくない」

「じゃ、じゃあ……」

「だが記憶は消させてもらう。レンシアと関わったすべての記憶を。お前のお袋の所にはすでに行ってきた。これであいつを覚えている奴は一人もいない。それで世界は平和になる」

 その言葉と共に、黒スーツの男は俺の頭に手をかける。
 不意に意識が飛ぶような感覚と、泣きじゃくるミサキの声が遠くに聞え、そのミサキの声もやがて聞こえなくなった……

 そして俺はいつしか眠りに就いていた。

 やがて目覚めた時、そこはいつも通りの市営住宅だった。
 部屋の様子に変化もなく、テレビではバラエティー番組が流れ、ミサキはそれを観て笑っていた。
 だが……レンはいなかった。

「おい、ミサキ? お母さんは?」

 俺はミサキの様子を変に思い、尋ねた。

「ママ? あそこじゃん」

 ミサキが部屋の一隅を指さした。
 そこには仏壇があり、そして……
 レンとは違う女性の写真が飾られていた。

「え、おい? これお母さんか? いつ死んだんだ?」

 俺の不安げな声にミサキは呆れ顔で、

「いつって、もうだいぶ前でしょ? ママ、買い物途中で交通事故に遭って……覚えてないの?」

「え……?」

 だかその写真の人物はレンではない。
 だが、俺はさっきまでのレンの戦いを覚えている。
 どういうことだ……

「もう、あの時パパ、泣きじゃくって大変で」

 ミサキはつまらなそうにそう言うとまたテレビに視線を戻して笑いはじめる。
 どういうことだ……これは……

 それから月日が流れた。

 最初俺は、レンが死んだこと、しかしその死が俺の知っている死とは違い、更にレン自体が存在していないということ。
 その現実と自分の知っている事実との齟齬に悩み、時には自身の正気を疑いながらも、俺は日々をなんとか過ごしていた。

 やがてミサキは高校へ、大学へと進んでいき、そして商社に勤め、その中で一人の男性と恋に落ちた。

『いいお婿さんを探してあげれば』

 ふいにレンの言葉が頭をよぎり、

「ミサキは自分でいい人を見つけたようだよ……」

 そう独りごちたのを聞いたミサキと彼氏は、レンに言った言葉とは知らずに互いに照れあい、仲睦まじい姿を見せつけた。
 そして一年後、二人は式を挙げた。

 それからも色々あったが、娘夫婦は喧嘩しながらも二児の子宝に恵まれた。
 俺はレンの残した魔性の縁の言葉が気になり、出産の知らせを聞いてすぐに産院に駆けつけたが、幸い魔物としての姿ではなく、人として生まれてきたようだ。
 ホッとしたためか、俺の喜びようは普通ではなかったらしくて、産院でも娘と孫思いの子煩悩なお祖父ちゃんとして有名になっていたようだ。
 すでに男やもめとして独り身の生活をしていた俺に、縁談を持ちかけてくる人もいたが、レンとの日々、そしてレンの最期の姿を思い浮かべたら、再婚する気にはならなかった。
 やがて幾つもの春が過ぎ、母も逝き、父と同じ墓に入った。
 その年も、桜は見守るように薄紅色の光を、俺たちに降り注いでいた。

 レンの死以降、もう黒スーツの男は現れなかった。
 魔性の縁の実効性が薄いことを知っていたのか?
 それとも……情けか……

 やがて幾つもの春が訪れ、そして俺たちは家族で桜の散る墓地を訪れていた。

「じゃあ、パパ。アタシ達、水と手桶持ってくるね」

 ミサキと旦那、そして孫たちが連れ立ってやってきて、楽しげに語らいながら、水道のある場所に去っていく。
 俺は片膝を突き、墓石に手をかける。
 ここには父と母、そして、亡骸はないがレンがたぶん……
 すると……

「あなた……」

 不意に聞き覚えのある声がした。ずっと昔に聞いた声。

「……レン……」

 俺は恐る恐るその名を口にする。
 すると、そこには最後に見た時のレンが、若く美しく、そして俺たちを守る気概と強さに満ちたレンが、花びらが舞い散る桜の木に手をかけて立っていた。

「お前……死んだんじゃ……」

 俺の不安な声を受け、レンは微かに笑い、

「それ……」

 そう言うと、あの日以来肌身離さず身に着けていた琥珀のペンダントを指さし、

「そこに私のもう一つの意識を留めておいたの。私たち魔物は、現世では人間たちに狩られる存在だし、あなたも見たでしょ。ああいう輩もいるから、万が一の措置として」

「じゃあ……」

「あなたとミサキのことは、私も見てました。あなたはミサキを大切に育ててくれた。私と同じように愛情をかけて、そして立派に育ててくれて……」

「うん……」

「私、人間のこと、少し馬鹿にしてました。人間は色香に迷いやすい弱い存在だって。知ってました?」

「……何が?」

「初めて会った時、私、あなたに魔法をかけてたんです。私を好きになるように。その術にかかったから、あなたは私を容易に信用し、そして付きあいはじめた」

「あの時のあれは……」

 俺のあっけにとられた顔を見てレンは笑い声を上げ、

「フフ、あの時のあなた、少し面白かった」

 そして舌を出し、意地の悪そうな表情をする。

「おいおい、最初からインチキだったのか?」

 俺も思わず笑い声を上げる。
 そして互いに少し笑うと、

「ごめんなさい。でも私もあの時はどうしようもなくって、手段を選んでいられなかったから。でも……」

「うん」

「あなたはそのあとも私を愛してくれた。私の本当の姿を見た時、あの時逃げ出してもおかしくなかったのに、あなたはそんな私を受け入れてくれた」

「うん」

「私、その時思いました。ああ、この人でよかったって」

「うん」

 舞い散る桜の中、静かな笑みを浮かべて語るレンの姿を見つめながら俺は、ただただその言葉を聞いていた。

「私が死んだ後も、ミサキのことは大変でしたね。どうやら、あの男の術が広範囲に効いていたようで」

 そこで俺は不審な点に気づく。

「なんで俺だけは大丈夫だったんだ?」

 その言葉にレンはフッと笑い、

「ペンダントの力。そのペンダントには記憶をつなぎとめておく力があるから」

「だから俺だけ……」

 そして俺はペンダントを手に取りしげしげと眺めた。

「今までのこと、ありがとうございます。あなたとの生活、私はすごく幸せでした。そしてあなたの私への想いと誠意も」

「じゃあ……」

「はい。大変よくできました。だから……これからは、いつも一緒……」

 その言葉と共にレンは手を差しだす。
 俺はレンに近づき、その手を握りしめ、そして……

「パパ、水持ってきたよ! あれ、パパ? どうしたの?」

 ミサキの声が聞こえる。孫たちの声も。

 すでに目は見えないが、感じることはできる。

 今日も桜の花びらは舞い散り、薄紅色の天蓋から優しい光が降り注ぐ。

 ここは……そう……俺たちだけの……桜の庭だ……

                                          『桜の庭(END)』

 ちなみにレンシアとはこんな魔物です☆

 

 独自作品と見せかけておいて、実は現代魔物召喚もの”デーモニックブレス”の短編小説だったという、設定使い回しリーズナブル作品!

 ”デモブレ”の世界観的なものもわかるよ☆
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【今日のイラスト】ケモ散歩

2017-05-28 15:41:30 | 今日のイラスト
 今日のイラストはケモ散歩☆

 

 うちのケモッ子たちをチビッ子にして、さらにそれをケモノ系お姉さんが散歩させているという、ケモノ系散歩のイラストです☆
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【今週のうちの子】ガザエル

2017-05-26 08:51:25 | 今週のうちの子
 今週のうちの子はボードシミュレーションゲーム”ソーサラー・オブ・ショールーン”より、敵役である妖術師のガザエルさん。

  

 この御仁、近代化により自然破壊が進む惑星ショールーンの未来に危機感を感じ、だったら文明壊せばよくね?という過激な思想に走っちゃった生真面目な人です。

 ちなみに元ネタは”Gガンダム”の”東方不敗”。
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【同人作品制作秘話】暗闇の中で

2017-05-25 11:57:02 | 同人作品制作裏話
 今回の同人作品制作秘話はこれだ!

 

 まるで市川崑監督の金田一シリーズみたいな、あるいはエヴァのサブタイトルっぽい感じのデザインですが、これが何かといえば、全編暗闇の中で展開するというAVG!

 うむ……まるで前衛芸術だぁ……(前衛芸術に失礼じゃないかな、とセルフツッコみ入れときます)。

 この着想となったのは、あれはそう……これを作ろうと思った少し前のことでした……

 マンガの”月刊少女野崎くん”という、無骨な男子高校生が実は売れっ子少女漫画家で、その周囲の男女が織りなす切なくも楽しい青春ストーリー、という、一見少女漫画っぽい内容ですが、中身が残念な人たちのスットコドッコイ珍生活を描いた4コママンガがあるんですよ。

 以前アニメ化もされましたねぇ。

 で、その6巻に収録されている第52回のお話の中に”暗闇の中で”というタイトルの小話があるのです。

 で、オチを言うと面白くないので割愛しますが、その中で主人公の野崎梅太郎が、全編暗闇でやれば楽できるんじゃないか、という趣旨の言動をするわけですよ!!

 それを読んでピコーンときました!

「じゃあ、全編暗闇で進行するAVG作れば、楽できるじゃん!!」



 ……あ、そこ、無視しないでぇ……読むのやめないでぇ……

 いや、確かに楽でしたよ、作画は。

 うん、サイズ分の原稿に黒塗って、あとは少し加工するだけだったから。

 で、一ヶ月も経たずにできたのがこの作品☆

 

 

 もうこの裏パッケージを見ればおわかりですね☆

 黒ベタに青い光と緑の光しかありません。

 主人公は暗闇で目覚め、周囲は完全に真っ暗闇。

 前に進むも戻るもできず、焦って色々探していたところ、緑の光の存在である”カテーナ”と遭遇し、カテーナの導きの元、青い光を辿り脱出を図るという内容です。

 この青い光が動きながら道を指示し歩いているように見せ、緑の光”カテーナ”が主人公であるプレイヤーに話しかけてくる仕様となっています。

 途中カテーナとの会話や道が分かれていたりすると選択肢がでてきて、その選択によってはバッドエンドになるという感じで、しかし難易度は低いので、初見でもクリアは可能な作りとなっています。

 AVGというより、軽い選択肢があるビジュアルノベルといった方がいいか。

 そんなこんなで作られていきました。

 さらにエンディングには実は!

 という内容なんですけどねぇ。

 さらにもう一つの試みとして、女の子の立ち絵やイベント画のないギャルゲーは成立するのか?というものもあり、そんな感じでカテーナに関しては可能な限り可愛くて健気な女の子にしてみました。

 で、そんなこんなで作られたゲームなんですが、独特過ぎたのか手抜き感満載がばれたのかは不明ですが、まったくといっていいほど人気なし!!

 うむ~、やはりキワモノ過ぎたかぁ……というか、まだ今の人類には早すぎた存在だったか……(それは違う)。

 まぁ、そんな感じのゲームなんですが、気になったらここからDLできるので遊んでみてくださいな。

 とはいえ……

 もし光を辿っている中で、暗闇の中に洞窟の輪郭がおぼろげでも浮かび上がったのであれば、うちの勝ちだな……
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【ゲーム制作】ケイト・ブエルの小さな冒険その6

2017-05-25 06:37:06 | ケイト・ブエルの小さな冒険
 去年の7月以降、更新が止まっていたRPG企画”ケイト・ブエルの小さな冒険”。

 いや、ただ止まっていたのではなく、これ自体が試作用の試験RPGとして色々なテストのために作られていたので、これの実践データーを元にしてRPG風AVG”君への想い”や短編RPG”GUN&TURN”が作られたんで、基本となる役割は果たしてたんよ。

 ただここで作られたいくつかの画像データーは残ったままで(一部は”GUN&TURN”に流用されたけど)、これをどうするかなぁ、と考えた。

 そして今年になっていじりはじめた3DRPG制作ツール”スマイルゲーム・ビルダー”に実装してみようという試みをやってみました~☆

 まず画像データーはこんな感じ。

 

 これはOPのケイト君の目覚めのシーン。以前のものよりも鮮明になってます☆

 そして街並みはこんな感じに変わりました!

 

 自分視点の3D!

 うむ。街ばかりかダンジョンもこんな感じになります。

 そしてお店に入るとこんなお姉さんがお出迎え~☆

 

 道具屋のお姉さんのミレイさん☆

 この子の立ち絵もでたりして、ちょっとしたAVG的会話シーンもあります☆

 そして戦闘シーンがこれだ!

 

 このダメージを受けるときもアニメーションします(これはツールのをそのまま使いました)☆

 こんな感じで新生しています。

 ちなみに試作型ですがテストプレイ動画第二弾はここで観れます☆

 現在制作中のAVG”Velkyuria~三人の姫君”の制作もすでに終盤に突入していて、旧版の部分はすでに出来上がり、あとは追加シナリオ部分の処理とおまけやCGモードの処理など、周辺の整備などに入ってきたので、こちらはもうすぐで完成、公開できると思います。

 そのため若干余裕ができてきたので”ケイト”の作業も再開したわけで。

 こちらはそれほどCGは使わないので、ある程度のペースで上がるかな、と。

 ただ数値的なものやイベントのフラグ管理などの関係で手間取るでしょうが、街やメインダンジョン部分もすでにマップとしては仮完成していますし、なんとかこっちも仕上げたいですね☆
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