様々な物を作り出すものたちがいる現創界クラフティアへの侵攻を企てる真王の一人、真駆。
真王の宴に期間だから、他の真王の管理する世界にだって手を出せはするんだけど、まさそれが真姫ちゃんの管理する世界だなんて。
「それで真駆はどの程度まで侵攻してるんだ?」
声の主である元勇者の神屋サイトさんは、この世界の勇者として戦う黒竜の化身ガルド・ベルクに問いただす。
「我の知るところでは地方での異変は確認されているが、それほど大したものではないのですぐに撃退できた」
身長180cmを超え軽戦士のような革鎧をまとうサイトさんと、さらにそれを上回る体躯を誇り全身を漆黒の鎧で覆うガルドさん。
この二人が顔をつきあわせて不穏な会話をしているだけでも、世界の危機に立ち向かうファンタジー世界の冒険者たちをイメージさせる。
「ですがその頻度も上がってます。その原因もこの前現れた真駆の波動を中継する竜のような存在のせいではないかと」
真紅の衣をまとう美女が二人に意見する。
この美人さんガルドさんのお付きの魔導師、メルレーンさん。
ガルドさんとの馴れ初めは知らないけど、どうもガルドさんには好意以上のなにかを抱いているようで。
「じゃあ、あの変なのがもっとこの世界に潜んでいると」
簡素な街人の衣装に身を包むボク、如月マトが口を挟み、その言葉に一同は眉間にしわを寄せた。
事実ここ数日の出動ですら事後対応でしかなく、どこにその中継地点となりうるものが潜んでいるのかは不明だった。
「これがここ最近異変が出現した場所の分布図ですが」
メルレーンさんが魔法の映像投影で中空にこの周辺の地図と異変が出現した地点を示す。
「おい、これって……」
サイトさんが声を上げる。
「ああ、次第に王都に近づいてるな」
重い口調でガルドさんが応える。
地図に記された異変出現ポイントは、東西南北を問わず最初は遠方からだったけど、今ではそれが徐々に王都へと近づいてきている。
「この前の竜頭モドキはあれ以来静かだけどどうなってんだ?」
「たぶんですが、この前の傷がまだ癒えていないのではないかと思います」
サイトさんの問いにメルレーンさんが簡潔に応え、
「ですから、真駆の中継地点としての機能が発揮できないのではないかと」
「つまり他のなにかがこの王都に集まった時が、決戦の時というわけか」
メルレーンさんの推測にドスの利いたサイトさんが漏れる。
「それまでに王都の守りも固める必要があるし、もしスランプなどで不調を訴えるものがいるなら、そのものへの対処も必要だろう」
「ああ、下手に真駆の尖兵にでもされたら、王都内部から攻撃されるしな」
重々しいガルドさんの言葉にサイトさんも応え、
「このままで進めば予想到達時間はどのくらいだ?」
「それが思ったよりも早く、数日内には到達する可能性があります」
サイトさんからの質問を受けたメルレーンさんが顔を曇らせながら答える。
「つまりボクたちには時間がないということですね」
ボクが声を上げると、サイトさんたちは互いに目配せしながら大きく頷き、
「そうだな、今はやるしかない」
不敵な笑みを浮かべながら僕を見つめ、サイトさんが言葉を発する。
元勇者のこの人にとっては世界を救うことはもう経験があることなんだな。
サイトさんの笑みにボクも妙な安心感を抱き、自然と笑みがこぼれる。
「それでは今後も警戒を怠らず、万が一の事態に対応できるように国王陛下にも報告し、王国騎士団が非常時に対応できるよう対処しておきます」
事務的な口調で今後の対応を話すメルレーンさん。
「そうだな。我らはその時に備え万全の態勢で臨めるよう待機するとしよう」
勇者然とした口調で話すガルドさん。
それを確認するとボクたちは行動を開始した。
その日の夕方、ボクとサイトさんは王都西区画にある食堂街の軽食屋で落ちあい、夕飯を食べながら話し合う。
「街の中にはスランプに陥っている人もいたようですけど、王国医師団からお触れが出たらしく、そういう方たちは非常時という建前で、休養という名目で仕事場を離れ地方の保養所に移されたそうです」
「それが本当のスランプなら休みも必要だろうが、万が一にも真駆のそそのかしによる混乱と絶望なら異変化もありうるからな」
ボクの報告にサイトさんが鶏のから揚げを口に放りこみながら応える。
「それでサイトさんの方はどうですか?」
ボクの問いかけに、
「騎士団は装備一式、とまではいかないが、腕のたつ連中にはハリウスお手製の軽くて頑丈な超鋼鎧があてがわれたよ。さらに団長クラスにはハリスが魔法付与した魔法の武具まで与えられたそうだ」
ハリウスさんとハリサさんの名前がでた瞬間、ボクは一抹の不安を感じ思わず、
「あの!……あの二人、上手くいってますか?」
以前異変と化したハリウスさんとその原因ともなったハリサさんの魔法の武具。
ボクは嫌なものを感じたが、
「問題ないよ。ハリウスもそれは割り切ってる。というよりは、ハリウスが作った武具にハリサが魔力付与をしているから、ただでさえ軽量頑丈強力な武具が、さらに魔力付与されたんで、周りからしてみれば下手な伝説級武具を超えるとまでもてはやされているくらいだ」
サイトさんがニヤニヤしながら楽しそうに話す。
「それじゃあ」
「兄妹合作の最高武具の登場だ。ハリサは確かに魔法付与の才能はあったが武具職人としての適性は年の功もあってハリウスの方が遥に上だ。ただ兄妹が自分たちの長所を合せればさらに強力な武具が作れる」
楽しそうに話すサイトさんの言葉を聞きながら、ボクも自然と笑みがこぼれる。
「じゃああの二人、もう大丈夫なんですね」
「今では互いに補い合ってる。いい腕だ」
二人の近況を聞いてボクもデザートの甘味を口に運ぶ。
甘く爽やかな風味が口に広がりボクの顔もほころんだ。
翌日、王城の広間では国王様と勇者であるガルドさん、魔導師のメルレーンさん、王国騎士団や衛士隊を交えた協議が執り行われた。
その席で万が一異変が発生した場合、ガルドさんや騎士団が盾として異変を抑えている間に衛士隊は住民たちの避難誘導や災害からの救出を行うよう方針が決められ、王城のあちらこちらの掲示板には住民に向けてのお触れが張り出され、またそのことを喧伝するために役人たちが街角で立つこととなった。
会議場を出て王城の部屋へと戻ったボクは椅子に腰かけ息を吐いた。
「疲れたか、マト?」
サイトさんが少し楽しげの声をかける。
「ええ、皆さん威風堂々とした方たちばかりですし、なんかすごく緊張しちゃって」
ボクは素直に感想を話す。ゲームの中ではよくある光景だけど、実際目の前に王様や騎士団が勢揃いしている光景は、ボクみたいな一般人には馴染みのないことだし。
「じきに慣れるよ」
優しげな声でサイトさんが応える。
その懐かしいものを見るような視線から、きっと最初はサイトさんもそうだったんだろうな、とボクは思う。
「それでここでなければ話せないというのはどういった内容だ、メルレーン」
声を低くしてメルレーンさんに尋ねるガルドさん。
「王城の方たちや騎士団にはお話できないことが」
「真駆のことか?」
メルレーンさんの言葉にサイトさんがすかさず返す。
「はい。あの真駆の波動を中継する竜頭の存在についてはデーターが少ないために、無駄に王城の方たちの恐怖心を煽るのもなんですし、対処するにも方策を決めかねるので」
メルレーンさんの厳かな声。
「それに各地の異変発生場所が、まるでこの王城に近づくような形で発生してきていますから」
「各地で発生している異変の数とかはわかるか?」
「サイトさんの助力で倒せたものとガルド様単独で倒したものを合せれば20ほど。発生地点は異変の密集度から推測するに先日の竜頭も含めて6です」
怜悧な声で応えるメルレーンさんの言葉に、思わず腕組みをするガルドさん。
「あの竜頭みたいなのが、あと5つもあるというのか?」
低く唸るような声。
無理もないと思った。ガルドさんは典型的パワーファイターだけど、その一撃をあの竜頭の装甲は受けつけなかったんだし。
「弱点がないわけでもないだろ」
気楽な声で言葉を返すサイトさん。
竜頭の目を射抜き手傷を負わせたサイトさんの言葉には力がある。
「……そうだな。弱点を突きさえすれば勝機は十分ある」
一瞬逡巡したようだけど、ガルドさんも納得がいったようで笑みをこぼす。
「それじゃぁ、今日もお互いできることやろうぜ」
「ああ」
「そうですね」
サイトさんの声にガルドさん、メルレーンさんも立ち上がり、部屋を出るためドアに近づいた途端!
「た、大変です!」
突如重い部屋の扉が開かれ、騎士団の若き騎士が賭けこんできた!
「どうした? なにかあったのか」
尋常でない騎士の様子にガルドさんも驚き声を上げるが、
「そ、外に……王都の外に巨大な影の群れが!?」
「……何だと……」
岸の憔悴しきった声にガルドさんが呻き声を上げ騎士の指示した方向へと走り出す。
今にも倒れそうな騎士のことを使用人に頼んで、ボクたちもガルドさんのあとを追う。
騎士が指示した先にあるのは、王都を一望できるバルコニー。
いつもなら眼下にはオレンジ色の屋根屋根が広がる街並みが広がり、高い城壁の彼方には緑色の森と青々とした山並み、そして青空が広がる、そんな素敵な光景が望める場所だ。
だけど……
「なんだありゃぁ……」
ボクたちが目にしたのは、全く違う光景だった。
森が動き、大地が揺れ鳴り響く。
ユラユラと動きながらゆっくりと王城へと歩み寄るそれは、まるで悪夢から生み出された産物だった。
「おい、なんだありゃ? 翼や角が生えた巨大な女の子に機械仕掛けの不格好なロボットモドキ、それにヤカンや鍋や、あれは鐘か? それが合体した不気味な人型に特撮にでてきそうな巨大な怪人モドキ……」
サイトさんが困惑とも呆れ声ともつかない様子で目にしたものを言葉にする。
「それと空飛ぶ羽衣どころか空をヒラヒラ飛び回る巨大なドレスや布の集合体ですね……」
ボクも目にした怪異を口にする。
「でも、あれはなんですか?」
メルレーンさんが柄にもなく不安げな声を上げる。
その視線の先には……
「白銀に輝く空飛ぶ塊? いや違うな。あれは……金属製のうろこでおおわれた腕か?」
「あっちにも同じものがあります」
サイトさんの声にボクも続く。
「じゃあ、あれは脚だな」
ガルドさんが指差す先には、金属製の鱗で覆われた頑強そうな脚が。
ただ、人のものではない。獣か爬虫類のような……
「待て、あっちにもいるぞ! それにあれは……翼と尻尾の生えた胴体か?」
サイトさんが別の方向を見て口走る。
そこには、他の手足よりも大きい金属の鱗で覆われた白銀の輝きを放つ胴体が空を飛んでいる!
すべてが化け物染みた光景だった。あえていうなら、巨大な白銀の竜を五体バラバラにして空中に浮かべているような、そんな異様な光景だった。
「あいつら、少しずつ集まりながら王都に近づいてくるぞ!」
「騎士団に伝令! 王都より出撃! あの化け物どもを王都に近づけるな!」
「衛士隊、住民の避難を急げ! 誰も捨て置きされないように! 早く!」
同じ光景を目にした王城の人たちは一瞬で騒然となる。
矢継ぎ早に指示が飛びはするが、中にはパニックに襲われへたりこむ人やフリーズする人が続出。
「こいつぁ、俺たちが突っこまないとダメだろうな」
「あの数を我々だけで、か?」
周りを見回しながら呟くサイトさんに、ガルドさんが嫌そうな声で応える。
「ガルド、お前が勇者だろ? 勇者らしく戦えよ。俺だってそうしたんだからさぁ」
笑いながらサイトさんはそういうと、
「行ってこいよ、勇者様! ついてくぜ」
ガルドさんの背中をバンと叩く。
心底嫌そうな表情を浮かべてはいるものの、勇者の使命とサイトさんのニヤけ顔、メルレーンさんの期待と憧れが溢れんばかりの熱い視線に感じてか、ガルドさんは一度大きく息を吸い、そして深々と吐き出すと、
「ああ行ってやる! 行けばいいのだろう! 我勇者ガルド・ベルク! 伝説成就のため、この世界の安寧と人民の平和のため、先陣を仕る!」
やけ気味とも鼓舞ともつかない口調で声を上げ、ガルドさんはバルコニーから空へと旅立つ!
「この脅威に満ちた状況でさえ己を見失わずに先陣を切るとは。さすが私のガルド様ですわ!」
メルレーンさんが黄色い声を上げながらあとに続く。
「俺たちも行くか、マト」
導く手と共にさしだされるサイトさんの優しい声。
「うん」
ボクは頷きサイトさんの手を握り一緒にバルコニーから飛び立つ。
後からは王城の人たちからの声援と騎士たちの咆哮、眼下からは街の人たちが声が上がる。
「勇者様って凄いですね」
ボクが思わず出した声に、
「だからこいつらは誰も殺させない。今度こそはな」
いつもとは違い混じりけのない真剣なサイトさんの声。
ドラグさんから聞いたサイトさんが勇者だった頃の出来事。
『だから……』
サイトさんに手を握られ飛び続けるボクは、その時のサイトさんの気持ちに思いを馳せる。
「敵は目の前だ。準備しろ」
サイトさんの言葉で我に返る。
眼前には怪異なる異変たちが迫っていた。
先陣を切ったのはドレスの布の怪異だ。
体にまとう布をまるで鋼鉄の刃のようにくりだし、ボクたちを両断しようとするが、
「所詮な布ならば……メルレーン!」
「わかりました」
ガルドさんの言葉と共にメルレーンさんが呪文の詠唱に入る。
その間も僕たちを襲うべくくりだされる布の刃だが、そのことごとくをガルドさんとサイトさんがかわし、受け流し続け、そして
「深淵より噴き上がる紅蓮の炎神よ! 今我が怨敵を業火により滅却されたし!」
メルレーンさんの口より呪文が発せさられるとドレスの変異に向け突きだされた杖の先端から超高熱の焔の奔流がほとばしる!
炎に巻かれ炎上するドレスと布の異変!
悶え回転しながらその身を炎上させる異変は護っていた布がなくなったためにコアを顕わにする!
「そこかぁぁぁぁぁぁ!」
その間を逃さず異変に突撃するガルドさん!
両腕に装備したパワーガントレットから魔法の粒子を上げながら破壊の一手が撃ちこまれる!
瞬時に粉砕される異変のコア!
「まずは一つ!」
ガルドさんはガントレットを構え直すと地上にいる異変へと目を向ける。
怪人のような異変とロボットモドキの異変が前にでる。
「次はこいつらか」
ガルドさんが勇んで突っこむけど、
「待て!」
声を上げるサイトさんの視線の先には、翼の角の生えた女の子の異変が魔法のようなものを撃ちだそうする姿。
「どちらか一体倒せばなんとかなる!」
制止の声も聞かず、右腕のパワーガントレットを大きく振りかぶるガルドさん。
撃ちこむはロボットモドキ!
でも……
「ぐお!」
ガルドさんの横合いから怪人の異変が殴りつける。
咄嗟に左手で受けるが右の拳は繰りだせない。
その姿に女の子の異変はガルドさん目がけ魔法弾を撃ちだした!
「まずいぞ!」
らしくなく声を上げるサイトさん!
「ちぃぃぃぃぃぃぃ!」
なんとか魔法弾を避けようと必死に体勢を立て直そうとするガルドさん!
「ガルド様!」
悲鳴にも似たメルレーンさんの声!
ガルドさんを射留めた魔法弾の閃光が周囲を満たし、ボクたちの視界を奪う。
「馬鹿、な……」
サイトさんの驚愕の声が、光に満ちた空間から力なく聞こえる。
光が薄れボクの目に飛びこんできたもの。それは……
「巨大ロボ?」
確かにそれはロボットだ。全高20mほどの、まるでロボットアニメにでてくるような。
巨大な盾を持ち、亀を連想させる黒い頭部を持つ。
「なんでコイツがここにいんだよ……」
サイトさんは呆気にとられたまま声を漏らす。
「……まさか……」
なにかを悟ったようにサイトさんが空に視線を向けた刹那、
『オレたちもいるぞぉぉぉ!』
上空より声が轟き、三つの巨大な影が舞い降りる!
全高20mの巨大な人型ロボット。
一機は白く機動性と格闘性能が高そうな虎の頭部を象った顔を持ち、もう一機は青く三叉槍を構え流線的なフォルムと竜を象った顔を持つ、そして最後は紅く鳥のような巨大な翼と猛禽類の頭部を象った顔を持っている。
ボクはこのロボットたちを知っていた。
「ドラグの四天王……」
サイトさんが苦々しげに言葉を吐く。
数度死闘を繰り広げ、また窮地を助けられた仇敵とも旧友ともつかない仲の元魔王、ドラグ・セプト。
そのドラグさんが作り出したのが四天王で、彼女たちの鎧と呼んでいたのがこの巨大ロボットたちだった。
『ドラグ様の命であなたたちを助けます』
青いロボットから怜悧な声が響く。
『オレたちがきたからには百人力だぜ!』
赤いロボットからは覇気に満ちた声が轟く。
『だからぁ、ドラグ様には感謝しないとダメですよ☆』
白いロボットからは可愛らしい声が流れ、
『早く……この化け物たちを……倒す』
魔法弾から手にした盾でガルドさんを守った黒いロボットより口数少なげな声が漏れる。
「ロン、スーク、ターガ、ケーブ……じゃあ、アイツも?」
「お察しの通りだ、神屋サイト」
サイトさんの驚きと不審に満ちた呟きに応えるように、空間が黒く歪み人影が現れる。
金色の装飾が施された漆黒の鎧を身にまとい、白く輝くウルフカットの髪と白い肌、彫りが深く整った容貌に紅色の瞳を持つ長身痩躯のその人をボクは知っていた。
「ドラグさん……」
憧れとも嫌悪ともつかない感情がボクの中に流れる。
確かにボクはこの人が好きだ。
でも……サイトさんをいいように利用したこの人だけは許せない。
そんな感情が渦巻いているのがボクにもわかる。
「なんでここにきた?」
「今説明が必要かい」
ドラグさんはサイトさんの毒づく言葉を軽くいなし、
「今必要なのは異変を撃退すること、だろ」
優しげな笑みを浮かべる。
「そうだな。だったら早いとこ撃退しよう」
「ああ」
ガルドさんの声にドラグさんは表情を改め異変と向き合う。
「それじゃぁ四天王たち、抑えをよろしく」
『はい!』
ドラグさんの呼びかけに嬉しげな声を返す四天王。
その言葉と共に四天王たちの巨大ロボットは異変たちに組みつき、体の自由を奪っていく!
巨大ロボット対巨大な異変の戦い!
一見異種バトルにも見えるけど、性能では四天王たちが勝っているようで、異変たちは次々と組み伏せられていき、メルレーンさんの魔法によりコアが暴かれる。
そこをガルドさんが潰して回っていった。
「なんだこりゃぁ」
あまりにも数の暴力ともつかない光景を見せつけられ、サイトさんが呆れたような声を漏らす。
「これはあくまで前哨戦だよ」
「前哨戦?」
ドラグさんの言葉に疑問を返すサイトさん。
「私たちの相手は真王である真駆。そのために私は真姫様より遣わされた」
「じゃあ、真駆がここにいるってことか?」
「上を見なよ」
サイトさんの疑問にドラグさんが応える。
「あのバラバラになったドラゴンモドキ。あれが今真駆のいる拠点とも呼べるものだ」
「でもバラバラじゃないか」
バラバラのドラゴンを見上げ微笑むドラグさんの横顔に不審の眼差しを向けるサイトさんに、
「まぁ、見てなよ」
落ち着いた声でドラグさんが応える。
すると……
大地が鳴動する。
「これは……」
超然とするドラグさんたちを除き、ボクやサイトさん、ガルドさんにメルレーンさん、それに王都の人たちは動揺を隠しきれず思わず声を上げる!
「なにか……地の底から出てくる!」
「まさか!」
動揺するボクの声になにかを察したガルドさんの声、地を割る音が重なりあい、そして!
「あのドラゴンモドキか!」
サイトさんが地中より現れたものを見て叫ぶ!
それは前に撃退した金属でできた竜頭だった!
それが空に浮く手足や銅と共鳴し、電撃を放ちながら、一つの存在への合体しようとしている!
「あれが真駆の拠点」
「そう、ドラゴンパレス……竜宮城だよ」
思わず出たボクの呟きにドラグさんが楽しげに微笑みながらその名を声に出す。
今電撃を放ちながら白銀の巨大竜へと合体したそれは、ボクたちの眼前で巨大な咆哮を上げる。
いま現創界を守る最後の戦いがはじまった。
真王の宴に期間だから、他の真王の管理する世界にだって手を出せはするんだけど、まさそれが真姫ちゃんの管理する世界だなんて。
「それで真駆はどの程度まで侵攻してるんだ?」
声の主である元勇者の神屋サイトさんは、この世界の勇者として戦う黒竜の化身ガルド・ベルクに問いただす。
「我の知るところでは地方での異変は確認されているが、それほど大したものではないのですぐに撃退できた」
身長180cmを超え軽戦士のような革鎧をまとうサイトさんと、さらにそれを上回る体躯を誇り全身を漆黒の鎧で覆うガルドさん。
この二人が顔をつきあわせて不穏な会話をしているだけでも、世界の危機に立ち向かうファンタジー世界の冒険者たちをイメージさせる。
「ですがその頻度も上がってます。その原因もこの前現れた真駆の波動を中継する竜のような存在のせいではないかと」
真紅の衣をまとう美女が二人に意見する。
この美人さんガルドさんのお付きの魔導師、メルレーンさん。
ガルドさんとの馴れ初めは知らないけど、どうもガルドさんには好意以上のなにかを抱いているようで。
「じゃあ、あの変なのがもっとこの世界に潜んでいると」
簡素な街人の衣装に身を包むボク、如月マトが口を挟み、その言葉に一同は眉間にしわを寄せた。
事実ここ数日の出動ですら事後対応でしかなく、どこにその中継地点となりうるものが潜んでいるのかは不明だった。
「これがここ最近異変が出現した場所の分布図ですが」
メルレーンさんが魔法の映像投影で中空にこの周辺の地図と異変が出現した地点を示す。
「おい、これって……」
サイトさんが声を上げる。
「ああ、次第に王都に近づいてるな」
重い口調でガルドさんが応える。
地図に記された異変出現ポイントは、東西南北を問わず最初は遠方からだったけど、今ではそれが徐々に王都へと近づいてきている。
「この前の竜頭モドキはあれ以来静かだけどどうなってんだ?」
「たぶんですが、この前の傷がまだ癒えていないのではないかと思います」
サイトさんの問いにメルレーンさんが簡潔に応え、
「ですから、真駆の中継地点としての機能が発揮できないのではないかと」
「つまり他のなにかがこの王都に集まった時が、決戦の時というわけか」
メルレーンさんの推測にドスの利いたサイトさんが漏れる。
「それまでに王都の守りも固める必要があるし、もしスランプなどで不調を訴えるものがいるなら、そのものへの対処も必要だろう」
「ああ、下手に真駆の尖兵にでもされたら、王都内部から攻撃されるしな」
重々しいガルドさんの言葉にサイトさんも応え、
「このままで進めば予想到達時間はどのくらいだ?」
「それが思ったよりも早く、数日内には到達する可能性があります」
サイトさんからの質問を受けたメルレーンさんが顔を曇らせながら答える。
「つまりボクたちには時間がないということですね」
ボクが声を上げると、サイトさんたちは互いに目配せしながら大きく頷き、
「そうだな、今はやるしかない」
不敵な笑みを浮かべながら僕を見つめ、サイトさんが言葉を発する。
元勇者のこの人にとっては世界を救うことはもう経験があることなんだな。
サイトさんの笑みにボクも妙な安心感を抱き、自然と笑みがこぼれる。
「それでは今後も警戒を怠らず、万が一の事態に対応できるように国王陛下にも報告し、王国騎士団が非常時に対応できるよう対処しておきます」
事務的な口調で今後の対応を話すメルレーンさん。
「そうだな。我らはその時に備え万全の態勢で臨めるよう待機するとしよう」
勇者然とした口調で話すガルドさん。
それを確認するとボクたちは行動を開始した。
その日の夕方、ボクとサイトさんは王都西区画にある食堂街の軽食屋で落ちあい、夕飯を食べながら話し合う。
「街の中にはスランプに陥っている人もいたようですけど、王国医師団からお触れが出たらしく、そういう方たちは非常時という建前で、休養という名目で仕事場を離れ地方の保養所に移されたそうです」
「それが本当のスランプなら休みも必要だろうが、万が一にも真駆のそそのかしによる混乱と絶望なら異変化もありうるからな」
ボクの報告にサイトさんが鶏のから揚げを口に放りこみながら応える。
「それでサイトさんの方はどうですか?」
ボクの問いかけに、
「騎士団は装備一式、とまではいかないが、腕のたつ連中にはハリウスお手製の軽くて頑丈な超鋼鎧があてがわれたよ。さらに団長クラスにはハリスが魔法付与した魔法の武具まで与えられたそうだ」
ハリウスさんとハリサさんの名前がでた瞬間、ボクは一抹の不安を感じ思わず、
「あの!……あの二人、上手くいってますか?」
以前異変と化したハリウスさんとその原因ともなったハリサさんの魔法の武具。
ボクは嫌なものを感じたが、
「問題ないよ。ハリウスもそれは割り切ってる。というよりは、ハリウスが作った武具にハリサが魔力付与をしているから、ただでさえ軽量頑丈強力な武具が、さらに魔力付与されたんで、周りからしてみれば下手な伝説級武具を超えるとまでもてはやされているくらいだ」
サイトさんがニヤニヤしながら楽しそうに話す。
「それじゃあ」
「兄妹合作の最高武具の登場だ。ハリサは確かに魔法付与の才能はあったが武具職人としての適性は年の功もあってハリウスの方が遥に上だ。ただ兄妹が自分たちの長所を合せればさらに強力な武具が作れる」
楽しそうに話すサイトさんの言葉を聞きながら、ボクも自然と笑みがこぼれる。
「じゃああの二人、もう大丈夫なんですね」
「今では互いに補い合ってる。いい腕だ」
二人の近況を聞いてボクもデザートの甘味を口に運ぶ。
甘く爽やかな風味が口に広がりボクの顔もほころんだ。
翌日、王城の広間では国王様と勇者であるガルドさん、魔導師のメルレーンさん、王国騎士団や衛士隊を交えた協議が執り行われた。
その席で万が一異変が発生した場合、ガルドさんや騎士団が盾として異変を抑えている間に衛士隊は住民たちの避難誘導や災害からの救出を行うよう方針が決められ、王城のあちらこちらの掲示板には住民に向けてのお触れが張り出され、またそのことを喧伝するために役人たちが街角で立つこととなった。
会議場を出て王城の部屋へと戻ったボクは椅子に腰かけ息を吐いた。
「疲れたか、マト?」
サイトさんが少し楽しげの声をかける。
「ええ、皆さん威風堂々とした方たちばかりですし、なんかすごく緊張しちゃって」
ボクは素直に感想を話す。ゲームの中ではよくある光景だけど、実際目の前に王様や騎士団が勢揃いしている光景は、ボクみたいな一般人には馴染みのないことだし。
「じきに慣れるよ」
優しげな声でサイトさんが応える。
その懐かしいものを見るような視線から、きっと最初はサイトさんもそうだったんだろうな、とボクは思う。
「それでここでなければ話せないというのはどういった内容だ、メルレーン」
声を低くしてメルレーンさんに尋ねるガルドさん。
「王城の方たちや騎士団にはお話できないことが」
「真駆のことか?」
メルレーンさんの言葉にサイトさんがすかさず返す。
「はい。あの真駆の波動を中継する竜頭の存在についてはデーターが少ないために、無駄に王城の方たちの恐怖心を煽るのもなんですし、対処するにも方策を決めかねるので」
メルレーンさんの厳かな声。
「それに各地の異変発生場所が、まるでこの王城に近づくような形で発生してきていますから」
「各地で発生している異変の数とかはわかるか?」
「サイトさんの助力で倒せたものとガルド様単独で倒したものを合せれば20ほど。発生地点は異変の密集度から推測するに先日の竜頭も含めて6です」
怜悧な声で応えるメルレーンさんの言葉に、思わず腕組みをするガルドさん。
「あの竜頭みたいなのが、あと5つもあるというのか?」
低く唸るような声。
無理もないと思った。ガルドさんは典型的パワーファイターだけど、その一撃をあの竜頭の装甲は受けつけなかったんだし。
「弱点がないわけでもないだろ」
気楽な声で言葉を返すサイトさん。
竜頭の目を射抜き手傷を負わせたサイトさんの言葉には力がある。
「……そうだな。弱点を突きさえすれば勝機は十分ある」
一瞬逡巡したようだけど、ガルドさんも納得がいったようで笑みをこぼす。
「それじゃぁ、今日もお互いできることやろうぜ」
「ああ」
「そうですね」
サイトさんの声にガルドさん、メルレーンさんも立ち上がり、部屋を出るためドアに近づいた途端!
「た、大変です!」
突如重い部屋の扉が開かれ、騎士団の若き騎士が賭けこんできた!
「どうした? なにかあったのか」
尋常でない騎士の様子にガルドさんも驚き声を上げるが、
「そ、外に……王都の外に巨大な影の群れが!?」
「……何だと……」
岸の憔悴しきった声にガルドさんが呻き声を上げ騎士の指示した方向へと走り出す。
今にも倒れそうな騎士のことを使用人に頼んで、ボクたちもガルドさんのあとを追う。
騎士が指示した先にあるのは、王都を一望できるバルコニー。
いつもなら眼下にはオレンジ色の屋根屋根が広がる街並みが広がり、高い城壁の彼方には緑色の森と青々とした山並み、そして青空が広がる、そんな素敵な光景が望める場所だ。
だけど……
「なんだありゃぁ……」
ボクたちが目にしたのは、全く違う光景だった。
森が動き、大地が揺れ鳴り響く。
ユラユラと動きながらゆっくりと王城へと歩み寄るそれは、まるで悪夢から生み出された産物だった。
「おい、なんだありゃ? 翼や角が生えた巨大な女の子に機械仕掛けの不格好なロボットモドキ、それにヤカンや鍋や、あれは鐘か? それが合体した不気味な人型に特撮にでてきそうな巨大な怪人モドキ……」
サイトさんが困惑とも呆れ声ともつかない様子で目にしたものを言葉にする。
「それと空飛ぶ羽衣どころか空をヒラヒラ飛び回る巨大なドレスや布の集合体ですね……」
ボクも目にした怪異を口にする。
「でも、あれはなんですか?」
メルレーンさんが柄にもなく不安げな声を上げる。
その視線の先には……
「白銀に輝く空飛ぶ塊? いや違うな。あれは……金属製のうろこでおおわれた腕か?」
「あっちにも同じものがあります」
サイトさんの声にボクも続く。
「じゃあ、あれは脚だな」
ガルドさんが指差す先には、金属製の鱗で覆われた頑強そうな脚が。
ただ、人のものではない。獣か爬虫類のような……
「待て、あっちにもいるぞ! それにあれは……翼と尻尾の生えた胴体か?」
サイトさんが別の方向を見て口走る。
そこには、他の手足よりも大きい金属の鱗で覆われた白銀の輝きを放つ胴体が空を飛んでいる!
すべてが化け物染みた光景だった。あえていうなら、巨大な白銀の竜を五体バラバラにして空中に浮かべているような、そんな異様な光景だった。
「あいつら、少しずつ集まりながら王都に近づいてくるぞ!」
「騎士団に伝令! 王都より出撃! あの化け物どもを王都に近づけるな!」
「衛士隊、住民の避難を急げ! 誰も捨て置きされないように! 早く!」
同じ光景を目にした王城の人たちは一瞬で騒然となる。
矢継ぎ早に指示が飛びはするが、中にはパニックに襲われへたりこむ人やフリーズする人が続出。
「こいつぁ、俺たちが突っこまないとダメだろうな」
「あの数を我々だけで、か?」
周りを見回しながら呟くサイトさんに、ガルドさんが嫌そうな声で応える。
「ガルド、お前が勇者だろ? 勇者らしく戦えよ。俺だってそうしたんだからさぁ」
笑いながらサイトさんはそういうと、
「行ってこいよ、勇者様! ついてくぜ」
ガルドさんの背中をバンと叩く。
心底嫌そうな表情を浮かべてはいるものの、勇者の使命とサイトさんのニヤけ顔、メルレーンさんの期待と憧れが溢れんばかりの熱い視線に感じてか、ガルドさんは一度大きく息を吸い、そして深々と吐き出すと、
「ああ行ってやる! 行けばいいのだろう! 我勇者ガルド・ベルク! 伝説成就のため、この世界の安寧と人民の平和のため、先陣を仕る!」
やけ気味とも鼓舞ともつかない口調で声を上げ、ガルドさんはバルコニーから空へと旅立つ!
「この脅威に満ちた状況でさえ己を見失わずに先陣を切るとは。さすが私のガルド様ですわ!」
メルレーンさんが黄色い声を上げながらあとに続く。
「俺たちも行くか、マト」
導く手と共にさしだされるサイトさんの優しい声。
「うん」
ボクは頷きサイトさんの手を握り一緒にバルコニーから飛び立つ。
後からは王城の人たちからの声援と騎士たちの咆哮、眼下からは街の人たちが声が上がる。
「勇者様って凄いですね」
ボクが思わず出した声に、
「だからこいつらは誰も殺させない。今度こそはな」
いつもとは違い混じりけのない真剣なサイトさんの声。
ドラグさんから聞いたサイトさんが勇者だった頃の出来事。
『だから……』
サイトさんに手を握られ飛び続けるボクは、その時のサイトさんの気持ちに思いを馳せる。
「敵は目の前だ。準備しろ」
サイトさんの言葉で我に返る。
眼前には怪異なる異変たちが迫っていた。
先陣を切ったのはドレスの布の怪異だ。
体にまとう布をまるで鋼鉄の刃のようにくりだし、ボクたちを両断しようとするが、
「所詮な布ならば……メルレーン!」
「わかりました」
ガルドさんの言葉と共にメルレーンさんが呪文の詠唱に入る。
その間も僕たちを襲うべくくりだされる布の刃だが、そのことごとくをガルドさんとサイトさんがかわし、受け流し続け、そして
「深淵より噴き上がる紅蓮の炎神よ! 今我が怨敵を業火により滅却されたし!」
メルレーンさんの口より呪文が発せさられるとドレスの変異に向け突きだされた杖の先端から超高熱の焔の奔流がほとばしる!
炎に巻かれ炎上するドレスと布の異変!
悶え回転しながらその身を炎上させる異変は護っていた布がなくなったためにコアを顕わにする!
「そこかぁぁぁぁぁぁ!」
その間を逃さず異変に突撃するガルドさん!
両腕に装備したパワーガントレットから魔法の粒子を上げながら破壊の一手が撃ちこまれる!
瞬時に粉砕される異変のコア!
「まずは一つ!」
ガルドさんはガントレットを構え直すと地上にいる異変へと目を向ける。
怪人のような異変とロボットモドキの異変が前にでる。
「次はこいつらか」
ガルドさんが勇んで突っこむけど、
「待て!」
声を上げるサイトさんの視線の先には、翼の角の生えた女の子の異変が魔法のようなものを撃ちだそうする姿。
「どちらか一体倒せばなんとかなる!」
制止の声も聞かず、右腕のパワーガントレットを大きく振りかぶるガルドさん。
撃ちこむはロボットモドキ!
でも……
「ぐお!」
ガルドさんの横合いから怪人の異変が殴りつける。
咄嗟に左手で受けるが右の拳は繰りだせない。
その姿に女の子の異変はガルドさん目がけ魔法弾を撃ちだした!
「まずいぞ!」
らしくなく声を上げるサイトさん!
「ちぃぃぃぃぃぃぃ!」
なんとか魔法弾を避けようと必死に体勢を立て直そうとするガルドさん!
「ガルド様!」
悲鳴にも似たメルレーンさんの声!
ガルドさんを射留めた魔法弾の閃光が周囲を満たし、ボクたちの視界を奪う。
「馬鹿、な……」
サイトさんの驚愕の声が、光に満ちた空間から力なく聞こえる。
光が薄れボクの目に飛びこんできたもの。それは……
「巨大ロボ?」
確かにそれはロボットだ。全高20mほどの、まるでロボットアニメにでてくるような。
巨大な盾を持ち、亀を連想させる黒い頭部を持つ。
「なんでコイツがここにいんだよ……」
サイトさんは呆気にとられたまま声を漏らす。
「……まさか……」
なにかを悟ったようにサイトさんが空に視線を向けた刹那、
『オレたちもいるぞぉぉぉ!』
上空より声が轟き、三つの巨大な影が舞い降りる!
全高20mの巨大な人型ロボット。
一機は白く機動性と格闘性能が高そうな虎の頭部を象った顔を持ち、もう一機は青く三叉槍を構え流線的なフォルムと竜を象った顔を持つ、そして最後は紅く鳥のような巨大な翼と猛禽類の頭部を象った顔を持っている。
ボクはこのロボットたちを知っていた。
「ドラグの四天王……」
サイトさんが苦々しげに言葉を吐く。
数度死闘を繰り広げ、また窮地を助けられた仇敵とも旧友ともつかない仲の元魔王、ドラグ・セプト。
そのドラグさんが作り出したのが四天王で、彼女たちの鎧と呼んでいたのがこの巨大ロボットたちだった。
『ドラグ様の命であなたたちを助けます』
青いロボットから怜悧な声が響く。
『オレたちがきたからには百人力だぜ!』
赤いロボットからは覇気に満ちた声が轟く。
『だからぁ、ドラグ様には感謝しないとダメですよ☆』
白いロボットからは可愛らしい声が流れ、
『早く……この化け物たちを……倒す』
魔法弾から手にした盾でガルドさんを守った黒いロボットより口数少なげな声が漏れる。
「ロン、スーク、ターガ、ケーブ……じゃあ、アイツも?」
「お察しの通りだ、神屋サイト」
サイトさんの驚きと不審に満ちた呟きに応えるように、空間が黒く歪み人影が現れる。
金色の装飾が施された漆黒の鎧を身にまとい、白く輝くウルフカットの髪と白い肌、彫りが深く整った容貌に紅色の瞳を持つ長身痩躯のその人をボクは知っていた。
「ドラグさん……」
憧れとも嫌悪ともつかない感情がボクの中に流れる。
確かにボクはこの人が好きだ。
でも……サイトさんをいいように利用したこの人だけは許せない。
そんな感情が渦巻いているのがボクにもわかる。
「なんでここにきた?」
「今説明が必要かい」
ドラグさんはサイトさんの毒づく言葉を軽くいなし、
「今必要なのは異変を撃退すること、だろ」
優しげな笑みを浮かべる。
「そうだな。だったら早いとこ撃退しよう」
「ああ」
ガルドさんの声にドラグさんは表情を改め異変と向き合う。
「それじゃぁ四天王たち、抑えをよろしく」
『はい!』
ドラグさんの呼びかけに嬉しげな声を返す四天王。
その言葉と共に四天王たちの巨大ロボットは異変たちに組みつき、体の自由を奪っていく!
巨大ロボット対巨大な異変の戦い!
一見異種バトルにも見えるけど、性能では四天王たちが勝っているようで、異変たちは次々と組み伏せられていき、メルレーンさんの魔法によりコアが暴かれる。
そこをガルドさんが潰して回っていった。
「なんだこりゃぁ」
あまりにも数の暴力ともつかない光景を見せつけられ、サイトさんが呆れたような声を漏らす。
「これはあくまで前哨戦だよ」
「前哨戦?」
ドラグさんの言葉に疑問を返すサイトさん。
「私たちの相手は真王である真駆。そのために私は真姫様より遣わされた」
「じゃあ、真駆がここにいるってことか?」
「上を見なよ」
サイトさんの疑問にドラグさんが応える。
「あのバラバラになったドラゴンモドキ。あれが今真駆のいる拠点とも呼べるものだ」
「でもバラバラじゃないか」
バラバラのドラゴンを見上げ微笑むドラグさんの横顔に不審の眼差しを向けるサイトさんに、
「まぁ、見てなよ」
落ち着いた声でドラグさんが応える。
すると……
大地が鳴動する。
「これは……」
超然とするドラグさんたちを除き、ボクやサイトさん、ガルドさんにメルレーンさん、それに王都の人たちは動揺を隠しきれず思わず声を上げる!
「なにか……地の底から出てくる!」
「まさか!」
動揺するボクの声になにかを察したガルドさんの声、地を割る音が重なりあい、そして!
「あのドラゴンモドキか!」
サイトさんが地中より現れたものを見て叫ぶ!
それは前に撃退した金属でできた竜頭だった!
それが空に浮く手足や銅と共鳴し、電撃を放ちながら、一つの存在への合体しようとしている!
「あれが真駆の拠点」
「そう、ドラゴンパレス……竜宮城だよ」
思わず出たボクの呟きにドラグさんが楽しげに微笑みながらその名を声に出す。
今電撃を放ちながら白銀の巨大竜へと合体したそれは、ボクたちの眼前で巨大な咆哮を上げる。
いま現創界を守る最後の戦いがはじまった。
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