エミール・ガボリオ ライブラリ

名探偵ルコックを生んだ19世紀フランスの作家ガボリオの(主に)未邦訳作品をフランス語から翻訳。

第二部 第五章 8

2019-06-25 11:02:32 | 他人の金

「私はてっきり、あなたの遅刻の原因は別のところにあると思ってましたよ。褐色の髪の、とても綺麗なご婦人に……」

マクサンスの頬に朱の色が広がった。

「え? え? 御存知だったんですか?」

「あなたがその……お知合いの方のところへ急いで話をしに行ったのだろうな、と思ってました。昨日、私の顔を見た途端、あなたが思わず叫び声を上げてしまった理由を話しに」

今度ばかりは、マクサンスも取り繕うことが出来なかった。

「どうして」彼は言った。「そんなことまでご存じで?」

ド・トレガール氏は微笑した。

「私はたくさんのことを知っていますよ、親愛なるマクサンスさん。でも、私のことを妖術使いのように思われても何ですので、私がどこから情報を仕入れたか、お話しましょう。あなたの家の門が私には閉ざされていた間、あなたの妹さんの消息をどうやって手に入れられるか、長いこと思案した挙句、ようやく彼女がイタリア人の老音楽家ジズモンド・プルチ先生のレッスンを受けておられることを突き止めました。で、私もこの先生のもとに赴き、彼の生徒になったのです。ところが最初の頃、先生は私の顔をいやにしげしげと眺めているので、私はそのわけを聞いてみました。すると先生の仰るには、以前若いお針子の娘さんが近所に住んでいたことがあり、彼女が私に非常に似ているというのです……」

「バティニョールでのことですね?」

「そう、バティニョールです。私は、そのことを全く気にも留めず、やがてすっかり忘れてしまいました。ところがごく最近、ジズモンド先生が、その彼女の姿を見かけたというのです。あなたの腕に寄りかかって。しかも、二人でオテル・デ・フォリーに入って行ったというのです。それで、先生は私と彼女がとても似ているという話をまた熱心に語り始めたので、私はこの際はっきり確認したいと思ったのです。それで私はこっそり観察しに行きました。そしてこの目で見て、確かにジズモンド先生の言ったことは間違いではない、と分かりました。そしてこれこそ、自分が探していた武器になるかもしれない、と思ったのです……」

口をぽかんと開け、目を真ん丸にしたマクサンスは、びっくり仰天を絵に描いたようであった。

「ええっ! こっそり見てたんですか!」

別にどうということはない、という身振りでド・トレガール氏は指をパチンと鳴らした。

「確かに」と彼は答えた。「ここ一ヶ月、私は奇妙な仕事をしていたのは事実です。しかし、安楽椅子に座ったまま現代の腐敗を糾弾していても、私の目的は達せられないでしょう。目的を持つ者は手段を持たねばなりません。悪い奴らがいけしゃあしゃあと甘い汁を吸うのを野放しにしているのは、正直な人間が騙されやすいからです。悪い奴らと同じ武器を持つのは人倫に悖るなどという感傷的な理屈を並べ立てて……」6.25


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