住人がお互いをよく知っている田舎だと、このような破廉恥な事態が起こるのは殆ど不可能であるが、パリではそう珍しいことではない。人々はいわば群衆の中に溶け込んでしまい、世間の手前という歯止めがないからだ。二年間、可哀想なこの娘は実質上の継母の支配下に置かれ、凄絶な苛めに耐えなければならなかった。十八歳になったばかりのとき、ある夜父親が彼女を脇に呼んだ。
「わしは再婚することにした」と彼は言った。「しかし、その前にお前に夫を見つけてやらねばならん。いろいろ探してついに見つけたぞ。そりゃまぁ、素晴らしい花婿とは言えないかもしれん。が、どうやら律儀な若者らしい。働き者で節約家だから、自分の道を切り開いていくだろう。お前にはもっと良い婿を、と思っておったが、今は厳しい御時勢だ。商売の方も思わしくない。つまるところ、お前には持参金を二万フランしかつけてやれんのだ。あれこれ選り好み出来る立場じゃない。明日、お前をその男に会わせるよ」
そして翌日、この御立派な父親は自分の娘をヴァンサン・ファヴォラル氏に引き合わせたのである。この男は彼女の気に入らなかった。が、嫌だと言う勇気も彼女にはなかった。ヴァンサンは二十五歳になったばかり、特に人を惹きつけるようなところも、嫌悪を催させるところもない、ごく目立たない人間の一人だった。彼はほどほどの身なりはしていたものの、内気で不器用で、穏やかで控えめで、せいぜい並み程度の知能の持ち主で、極度に自分に自信のない様子だった。自分は非常に不完全な教育しか受けていないこと、そして世の中のことについて非常に無知なこと、を彼は告白した。資産としては殆ど何もなく、ただ職業を持っているのみだと告げた。そのとき彼は、サンタントワーヌ界隈にある大きな工場で、会計係として年四千フランの給料を得ていた。
若い娘だったファヴォラル夫人は躊躇しなかった。彼女が毛嫌いし、軽蔑しているあの女との絶え間ない接触に較べれば、すべてが好ましかった。彼女は結婚を承諾し、初対面の日から二十日後、彼女はファヴォラル夫人となった。
ところが、六週間も経たないうちに、彼女は自分が虎口を逃れて竜穴に入ってしまったことを知った。といっても、夫が彼女に酷い仕打ちをしたわけではない。彼はまだそこまで行っていなかった。しかし、彼は自分がどんな人間か、の判断材料を十分彼女に与えたのである。彼は周囲の人々を枯渇させてしまう自分勝手な人間の一人だった。いわば日陰に生えている栗の木のようなもので、そこからは何も生まれないのである。彼の表面的な冷静さは頑迷を隠しており、温和そうに見えて実は鉄のような頭の固さを持っていた。彼が結婚したのは、女性というものが必要な歯車の一つだと考えていたからであり、自分が支配する世界を持ちたかったからであり、とりわけ二万フランの持参金に誘惑されたからであった。というのは、この男にはある情熱があったからだ。それは金だった。彼の無表情な顔の下には激しい所有欲が蠢いていた。彼は金持ちになりたかった。しかるに、彼は自分の価値について幻想を抱くことは全くできなかったし、一攫千金を狙えるような才覚も働きもないことを自覚していたので、財産を築くには一つの方法しか思いつけなかった。
「わしは再婚することにした」と彼は言った。「しかし、その前にお前に夫を見つけてやらねばならん。いろいろ探してついに見つけたぞ。そりゃまぁ、素晴らしい花婿とは言えないかもしれん。が、どうやら律儀な若者らしい。働き者で節約家だから、自分の道を切り開いていくだろう。お前にはもっと良い婿を、と思っておったが、今は厳しい御時勢だ。商売の方も思わしくない。つまるところ、お前には持参金を二万フランしかつけてやれんのだ。あれこれ選り好み出来る立場じゃない。明日、お前をその男に会わせるよ」
そして翌日、この御立派な父親は自分の娘をヴァンサン・ファヴォラル氏に引き合わせたのである。この男は彼女の気に入らなかった。が、嫌だと言う勇気も彼女にはなかった。ヴァンサンは二十五歳になったばかり、特に人を惹きつけるようなところも、嫌悪を催させるところもない、ごく目立たない人間の一人だった。彼はほどほどの身なりはしていたものの、内気で不器用で、穏やかで控えめで、せいぜい並み程度の知能の持ち主で、極度に自分に自信のない様子だった。自分は非常に不完全な教育しか受けていないこと、そして世の中のことについて非常に無知なこと、を彼は告白した。資産としては殆ど何もなく、ただ職業を持っているのみだと告げた。そのとき彼は、サンタントワーヌ界隈にある大きな工場で、会計係として年四千フランの給料を得ていた。
若い娘だったファヴォラル夫人は躊躇しなかった。彼女が毛嫌いし、軽蔑しているあの女との絶え間ない接触に較べれば、すべてが好ましかった。彼女は結婚を承諾し、初対面の日から二十日後、彼女はファヴォラル夫人となった。
ところが、六週間も経たないうちに、彼女は自分が虎口を逃れて竜穴に入ってしまったことを知った。といっても、夫が彼女に酷い仕打ちをしたわけではない。彼はまだそこまで行っていなかった。しかし、彼は自分がどんな人間か、の判断材料を十分彼女に与えたのである。彼は周囲の人々を枯渇させてしまう自分勝手な人間の一人だった。いわば日陰に生えている栗の木のようなもので、そこからは何も生まれないのである。彼の表面的な冷静さは頑迷を隠しており、温和そうに見えて実は鉄のような頭の固さを持っていた。彼が結婚したのは、女性というものが必要な歯車の一つだと考えていたからであり、自分が支配する世界を持ちたかったからであり、とりわけ二万フランの持参金に誘惑されたからであった。というのは、この男にはある情熱があったからだ。それは金だった。彼の無表情な顔の下には激しい所有欲が蠢いていた。彼は金持ちになりたかった。しかるに、彼は自分の価値について幻想を抱くことは全くできなかったし、一攫千金を狙えるような才覚も働きもないことを自覚していたので、財産を築くには一つの方法しか思いつけなかった。








