その子はとても感じの良い子供だった。但し、これといって目立つようなところはなかった。彼女の年齢は、女中頭に聞いたところでは、御者のヤンの話とぴたりと合った。彼女は傍から見る限り、可愛らしいというより端正な顔立ちの子供であったが、彼女がやって来たことで、待っていた機会が私に訪れた。そもそも私は、この小さな女相続人にはすぐに会えるだろうと確信していた。というのは、家に誰か新顔が入り込んで来ると、子供は特に興味を示さなくとも、年若い乳母(原語:nurseイギリスの裕福な家庭では母親の代わりに乳幼児の世話をする若い女性を住み込みで雇う習慣があった。自身乳幼児を抱え、授乳も行うウェット・ナースと授乳を行わないドライ・ナースがあった。この場合後者であろうが、ここではこう訳すことにする)なら必ず顔を見に来るものだからだ。
「あのちっちゃいお嬢ちゃまは、お母様をお亡くしになったんですね」と私は女中頭に尋ねた。この人はあっけらかんとした率直な老婦人だった。私たち密偵は口が堅いものだが、どういうわけか、開けっぴろげな、正直な物言いをする人々には大いなる敬意を持っている。
「そうなんだよ」と女中頭は言った。「シェドリー嬢ちゃまはママの顔をご存じないのさ」
「本当ですか! どういう訳なんですか? あの、そこの白蝋を取って貰えません? ああ、有り難うございます」
「シェドリー奥様は産褥でお亡くなりになったんだよ」
「まぁ何ということ。お気の毒に!」と私は言った。それから、ちょっと間を置いて尋ねた。「あなたは奥様をご存じだったんですか?」
女中頭は、ちょっと気を悪くした様子で顔を上げた。が、すぐに普段の機嫌の良さを取り戻し、こう答えた。
「そう、私はね、あの方のお母様にお仕えしてたんだけど、その後お父上にもお仕えしてね、あの方が結婚なさったとき、この家に一緒に越して来たのさ」
「おやまぁ! それじゃその方の御臨終に立ち会われたんですね、お可哀想な奥様の?」
「言っとくけどね」老女の女中頭は言葉を続けた。「奥様のことをお可哀想という理由なんて、ありゃしないよ。あの方を、私はいつもあの方のお母上の名前で呼んでたんだけどね、レディ・シャーリーって。あの方は十分徳をお積みになったから、死後の心配なんてないのさ」
「その方は安らかにお亡くなりになったんですか、デュマーティさん?」
「そうだったと聞いているよ」
「あら、それじゃ、その場にはいらっしゃらなかったんですね?」
「ああ、そうなんだよ。御臨終のとき、よそに行ってたなんて、金輪際わたしゃ自分を許すことが出来ないね。でもね、赤ん坊が生まれるのはまだたっぷり二カ月も先のことだと私たちは思っていたのさ。ところが奥様が急に苦しみ始めなさったんだよ。ああ、私は自分が許せないんだけどね、そのとき親戚に会いに故郷に帰ってたのさ。つまり、私と奥様の故郷だよ。私たちは同じ土地の出身だからね」
「まあ、それは!」と私は言った。当てが外れたのだ。デュマーティ夫人というこの女中頭は私の証人としての価値がなくなってしまったからである。9.10
「あのちっちゃいお嬢ちゃまは、お母様をお亡くしになったんですね」と私は女中頭に尋ねた。この人はあっけらかんとした率直な老婦人だった。私たち密偵は口が堅いものだが、どういうわけか、開けっぴろげな、正直な物言いをする人々には大いなる敬意を持っている。
「そうなんだよ」と女中頭は言った。「シェドリー嬢ちゃまはママの顔をご存じないのさ」
「本当ですか! どういう訳なんですか? あの、そこの白蝋を取って貰えません? ああ、有り難うございます」
「シェドリー奥様は産褥でお亡くなりになったんだよ」
「まぁ何ということ。お気の毒に!」と私は言った。それから、ちょっと間を置いて尋ねた。「あなたは奥様をご存じだったんですか?」
女中頭は、ちょっと気を悪くした様子で顔を上げた。が、すぐに普段の機嫌の良さを取り戻し、こう答えた。
「そう、私はね、あの方のお母様にお仕えしてたんだけど、その後お父上にもお仕えしてね、あの方が結婚なさったとき、この家に一緒に越して来たのさ」
「おやまぁ! それじゃその方の御臨終に立ち会われたんですね、お可哀想な奥様の?」
「言っとくけどね」老女の女中頭は言葉を続けた。「奥様のことをお可哀想という理由なんて、ありゃしないよ。あの方を、私はいつもあの方のお母上の名前で呼んでたんだけどね、レディ・シャーリーって。あの方は十分徳をお積みになったから、死後の心配なんてないのさ」
「その方は安らかにお亡くなりになったんですか、デュマーティさん?」
「そうだったと聞いているよ」
「あら、それじゃ、その場にはいらっしゃらなかったんですね?」
「ああ、そうなんだよ。御臨終のとき、よそに行ってたなんて、金輪際わたしゃ自分を許すことが出来ないね。でもね、赤ん坊が生まれるのはまだたっぷり二カ月も先のことだと私たちは思っていたのさ。ところが奥様が急に苦しみ始めなさったんだよ。ああ、私は自分が許せないんだけどね、そのとき親戚に会いに故郷に帰ってたのさ。つまり、私と奥様の故郷だよ。私たちは同じ土地の出身だからね」
「まあ、それは!」と私は言った。当てが外れたのだ。デュマーティ夫人というこの女中頭は私の証人としての価値がなくなってしまったからである。9.10







