エミール・ガボリオ ライブラリ

名探偵ルコックを生んだ19世紀フランスの作家ガボリオの(主に)未邦訳作品をフランス語から翻訳。

20-4

2020-11-27 09:28:43 | ソーンダイク博士

「これは、あなたが犯人とみなしている男の肖像写真ですか?」とミラー警視は聞いた。

「いや、彼の肖像写真は持っていないのですよ、残念ながら。これらは彼の三本の指から取った指紋写真です。採取できた指紋全部です。それから裏面に彼の人相の特徴を書いておいたので、彼を特定するのは訳ないことでしょう。前もって電報で人相の特徴を伝えておいて、あちこちの港に配布すればいいでしょう。特に、ドーバーとフォークストンで警戒を強化するよう進言しますよ。そのルートを彼がよく使っていることが分かっているのでね」

「指紋と言えば」とミラー警視が言った。「例の手紙から指紋は見つかったのですか?」

「調べてみたのですがね」とソーンダイク博士は答えた。「ごく念入りに粉末を振りかけて探したのですが、一つも見つかりませんでした。検知される危険を察知して、書く時には手袋をしていたのでしょう」

警視は考え込みながら、包みをポケットに入れ、しばらく思案した後もう一度ソーンダイク博士の方を向いた。「あなたは犯人を捕まえるための情報をくださった、ドクター。しかし、それだけです。仮に、私がその男を見つけて拘留したとしましょう。それからどうなるんです? 私は、その男があの女性を殺害したことを事実として掴んでいるわけではありません。あなたはどうですか?ドクター・ジャーディーンはその人物を特定できないし、他の誰も彼を目撃した人はいないようです。あなたが彼を犯人だと思う確かな根拠を握っておられることに、私は全く疑いを持ってはいませんが、その根拠というのはどのようなものですか?」

ソーンダイク博士は答える前に、しばらくじっと考え込んだ。「あなたの言うことは尤もだ、ミラー警視」彼はついに答えた。「『反証なき限り十分たる』情報がなくてはならない。しかし、今回の事件の場合、私はこれ以上のことは言えないのです。もしあなたがその男を捕まえたら、私は彼が有罪と立証するに足る証拠をあなたに差し出すことが出来る、と約束しましょう。どうでしょう、それで構いませんか?」

「あなたがそう言われるなら、私はそれで十分です」ミラー警視はそう答えながら立ち上がり、コートのボタンを留めた。「この人相書きをすぐに各部署に手配します。ああそうだ、もう一つ。死んだ女性の名前はサムウェイでしたね。容疑者と同じ名前だ。二人の関係は?」

「彼女は妻ということでした。おそらく事実そうだったのでしょう」

「ああ、そうですか」とミラー警視は言った。「分かりました。それで彼女は事情を知っていたのですね。それはそれは。あんな危険を冒すとは勇敢な女性だ。それなのに、その勇気が報われず、酷い結果になってしまったというわけですね。しかし、この世で不正や不幸に苦しんだ人でも報われる場所があるというふうに、私たちは教えられています。それが真実であることを願いますよ、彼女のために---それに彼のためにも」と彼は最後の言葉を、それまでとはがらりと異なる口調で付け加えた。11.27


コメント   この記事についてブログを書く
« 20-3 | トップ | 20-5 »

コメントを投稿

ソーンダイク博士」カテゴリの最新記事