Luna's " Tomorrow is a beautiful day "

こころは魔もの。暗い地下でとどろくマグマのような…。

「カネがあるんだ、しあわせなんて必要じゃない」

2012年08月12日 | 名言・名セリフ





わたしはウィーン大学にいたときに、ある縁があって、ここのところ難民キャンプの救援活動をやっています。

『信濃毎日新聞』でも呼びかけてくださって、長野の方からたくさんの衣類やその他のものを送っていただいたのですが、衣類、薬品、医療機械、いわゆる募金と現物の寄付を集めて、これを海外の難民キャンプに運んでいくわけです。

一回運ぶと、薬やなんかでだいたい300キログラム以上になる。ご存知のようにエコノミークラスで行くと20キログラムしか飛行機には積めません。それ以上のものは超過料金を取られる。超過料金を払っていたら募金はなくなってしまいますので、わたしたちは航空会社に交渉します。そうすると日本の航空会社でそういうことを引き受けてくれるところはどこもないです。いいですよ、難民キャンプを助けるんだったら、うちはタダで積んであげますよと言ってくれるのは、ドイツのルフトハンザとオランダのKLM、オランダ航空です。

こういうことひとつをみても、日本の企業がいかに品位がないというか、低級で未熟。利益以外にまったく教養がない。もうけ以外のことは考えたことがない非文化的な企業であることがわかると思います。


1995年の3月、阪神大震災の被災者で、避難所に避難している子どもを25人、春休みのあいだ、ヨーロッパにホームステイに招待されて連れて行ったんですが、被災者の子どものためにそのときもいろいろな航空会社に交渉しました。そういうお子さんだったら格安で乗せましょう、と気持ちよく言ってくれたのは、やはりルフトハンザです。飛行機に乗っているときも、地震で心が傷ついた子どもたちを、なんとか楽しませようとして、アシスタント・パーサーがジュースを持ってきてくれたり、パイロットが操縦しているコックピットに子どもたちを入れて見せてくれたり、わたしたちからいえば、そういうことは日本の航空会社がやらなきゃいけないことだと思うのですが、どこもやってくれませんでした。

それだけではありません。震災(阪神の地震)で家を全部失って福井県のおばあさんのところに母子で疎開している被災者がいました。そのお子さんも、元気になるために海外へのホームステイを希望し、参加しました。関西空港から出発しますので、そのお子さんはお母さんといっしょに前日に大阪に出てきて、メールパルクに一泊したのです。わたしは、せめてこの母子のために宿泊代を割り引いてください、とメールパルクにたのんだのですが、まったくとりあってもらえませんでした。メールパルクは郵便貯金を原資としている公共性の高いものです。それがこのありさまなのです。

ところがフランクフルトに着いて、フランクフルトのホテルに、25人の子どもは一泊したのですが、このとき、フランクフルトのホテル・シェラトンでは、子どもたちのために料金を三分の一にしてくれました。



こういうことを目の当たりにしたとき、わたしは日本がなぜ行き詰っているのかということに気づかされた思いでした。日本の戦後50年は、物を作って売る以外のことについてはまったく知恵がなかった。カネだけしか見えず、社会が見えない企業は方向を誤ります。人間の心がわからないと、ほんとうの需要を探し当てることができません。









暉峻淑子・てるおかいつこ・埼玉大学名誉教授/ 「ほんとうの豊かさとは」(1995年6月3日の講演の記録)より


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この文章が書かれて17年がたった。昨年には阪神大震災を上回る海底地震が起こり、津波で戦後最大規模の被害が生じた。とくに原発を襲った津波によって、大量の放射能汚染が生じたのは衝撃だった。

それでも被災者への冷淡な視線は17年前と変わっていなかった。天皇陛下が尾もまいに来た時、被災者の態度が悪いと、被災者をバッシングした出来事にはさすがのわたしもマジキレした。

この文章が書かれてから12年後にはサブプライム危機が生じ、それがリーマンショックにいたり、日本では原発事故にまで発展してなお、人間を踏みにじるメガ企業主導の規制緩和、社会保障削減路線の経済政策がとられ続けている。企業法人税減税の埋め合わせのための消費税増税が決行されることになった。

日本のトップは何を求めているのか。



「しあわせになんてなれなくていいさ、カネがあるからな」(「ロング・グッドバイ」/レイモンド・チャンドラー・作)




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