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淀川工科高・吹奏楽部 大阪城ホール満杯の秘密=学芸部・出水奈美

2009年02月23日 | スクラップ

 

■信頼が紡ぐ幸せな音

 チケットが売れない。音楽関係者の悲鳴を日常的に耳にするようになった。そんな不況のただ中で、ある高校の吹奏楽部のコンサートチケット1万枚が約2週間で完売した、と聞いて耳を疑った。しかも会場は、浜崎あゆみや安室奈美恵ら人気歌手が盛大にライブを開く大阪城ホール!? 怪物的な人気を誇る吹奏楽部の秘密を知りたくて門をたたいた。

 その学校は大阪市旭区と大阪府守口市の境界に建つ府立淀川工科高校。全校生徒約1000人のうち5人に1人が吹奏楽部に入っている。吹奏楽の甲子園、全日本吹奏楽コンクールで金賞を22回受賞している強豪校で、吹奏楽少女だった私も中学時代から知っているあこがれの学校だ。

 その淀工吹奏楽部が先月18日に創部50周年記念演奏会を開き、全国のファンの間でチケット争奪戦が起きたのだ。客席には作曲家のキダ・タローさんやオーケストラの楽団員ら、プロの姿もずらり。「翼をください」で特大サイズの作り物の鳥を飛ばしたり、「月光仮面」の主題歌では自転車に乗った月光仮面を登場させたり。“楽しませてなんぼ”の3時間半。最後は3年生に贈る言葉でほろりとさせる。泣き笑い満載のさわやかなコンサートだった。

 淀工吹奏楽部を実力、人気ともに全国の頂点に押し上げた名物顧問がいる。約40年間指導している丸谷明夫先生(63)。部員の半数以上は楽器の初心者。なのにエースプレーヤーを集める学校に負けない、圧倒的な存在感を放つバンドに短期間で育てる名伯楽だ。

 指揮者の佐渡裕さん(47)は35年前の記憶を鮮明に覚えている。「中学で吹奏楽部に入って、吹奏楽コンクール関西大会を聴きに行ったらびっくりするくらいうまい学校があった。それが丸谷先生の指揮する淀工だった」。その魅力を「強烈な幸福感が漂うサウンド」と表現し、「あれだけ自分たちの意思を音にできる学校はない」と言い切る。

 淀工の練習場を訪ねた。合奏室をのぞくと、一斉に「こんにちは」の声が飛んで、どこからともなくいすが差し出され、笑顔の男子生徒が熱いお茶をいれてくれた。なんと素早い動き。丸谷先生の携帯電話がなると、生徒が先生のかばんから手帳を取り出してペンと一緒に手渡す。感心していると、「これが自然にできるようになったら、なぜか楽器の腕も上達してるねんで」と丸谷先生が笑った。

 先生の合奏指導は厳しくて楽しい。顔を真っ赤にして、容赦ない言葉を生徒に投げる。

 「(音がそろわないと)千枚通しで頭をチャッチャチャッチャつついたろか」

 「アホみたいな顔して吹くなー!」

 「おまえら甘いんじゃ」

 字面で見るとパンチの利いた言葉だが、丸谷先生が言うとなぜか笑える。吉本新喜劇を見るようなテンポ感と愛嬌(あいきょう)が同居している。しかった後にはフォローも忘れない。にやっと笑って「まあ、顔のわりにはよう鳴っとるわ」。

 バリトン・サックスの3年生、立石沙和子さん(18)がこっそり教えてくれた。「先生はすごいけんまくで怒るけどあれはつくった姿。私らのことを思ってあんなふうに演じているんだと、みんなでよく話すんですよ」

 丸谷先生は64年に淀工に赴任し、吹奏楽部を指導してきた。といっても電気科の先生。音楽の専門教育を受けていない。指揮法も独学。朝比奈隆、斎藤秀雄ら名指揮者の著書を枕元に、夜な夜な理論を頭にたたき込んだ。それを生徒の前で実践しては体に刻み、自らの指揮スタイルを確立した。

 「子どものころから音楽が好きで、中学も高校も吹奏楽部に入ってたんや。音大進学の夢はかなわなかったけど、ここで子どもと同じ目線で音楽を楽しんできた。音大卒の先生より、ずっと楽しんできたかもしれへんな」

 自宅も学校のすぐそばに置き、深夜まで練習に付き合う。気になる生徒がいればラーメン屋に連れ出し、席を並べて話を聞く。休みは元日だけ。そんな暮らしを長年続けてきた。生徒たちもそんな熱意に応え、早朝から自主練習に励んで夜中まで音楽に向き合う。

 クラリネットの3年生、西畑実希さん(18)は「丸谷先生が指揮台に立つと音が変わる」という。なぜ? と聞くと、しばらく考えて「たぶんみんなの信頼だと思う」と答えてくれた。

 ここの生徒はみんな自分の言葉で語る。それが気持ちいい。丸谷先生は建前が嫌いだ。「本音で語れ」。口癖のように言ってきた。

 何度か通ううちに、指揮棒を握る先生の右腕にサポーターが巻きついていることに気づいた。「男の乳がんや、珍しいやろ。10年くらい前に手術して、後遺症で指揮をしたら腕がパンパンにはれる。これで振るとちょっとはましやねん」

 そんな先生の体を生徒たちも気遣う。打楽器の2年生、小川慶子さん(17)は先生のマッサージ係に手を挙げた。「体に触ると今日は寝不足だなとか、甘いもの食べ過ぎたなとか、分かるようになった」。休憩になると先生の背中にスッと回り、腕や首筋をもむ。

 音楽漬けの3年間で、生徒たちは人間的に大きく成長する。丸谷先生と生徒たちの飾らない実直な人柄がそのまま、淀工サウンドに表れているのだと思う。

 3年生は大阪城ホールのコンサートを最後に引退した。だが音大に進学する者はいないという。大半が就職し、春からは社会人だ。ここは音楽のエリートを育てる場ではない。教育の場なのだと改めて実感した。


 

毎日新聞 2009年2月18日 大阪朝刊


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3 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

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Unknown (キダタロー)
2009-02-25 18:16:53
おおきにな
キダタローは永遠に偉大です
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Unknown (A氏)
2010-02-22 11:03:40
淀工最高!
吹奏楽部のトップ!!
皆が輝いてる。
だから強い。
自然と涙出る。
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A氏さんへ (ルナ)
2010-03-01 02:12:07
おめでとうございます。
よかったですね。
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