PSW研究室

専門職大学院の教員をしてる精神保健福祉士のブログ

リカバリーとスティグマ

2010年09月14日 12時16分57秒 | イベント告知
「リカバリー全国フォーラム2010」は、約1200人に達する大盛況でした。
本郷の文京学院大学の仁愛ホールは、満席状態で、別室モニターも設けました。
昼休みには、お弁当を食べる参加者が、中庭のベンチや階段にあふれていました。
ふだんの学生の姿はなく、ちょっと年齢の高い華やいだキャンパス風景になりました。

僕は、当事者と支援者8名による「ライブトーク」の司会を担当させてもらいました。
舞台からフロアを見ると、びっしり席を埋め尽くした聴衆の、真剣なまなざし。
言葉を刻み込むように、耳を傾け、細かくメモを取る当事者・家族の姿が多く新鮮でした。
ライブ感覚の熱気のある集会というのは、舞台とフロアが一体になれるものですね。

僕は、初日丸一日、大ホールの進行責任者として、ずっと暗い舞台の袖にいました。
音響機器が総入れ替えになったばかりということで、調整不足は否めず…。
計9本のマイクは、プチハウリング状態、気を抜けず、なんかバタバタしてました。
舞台上の主人公たちにセッションは委ねられていますが、見えない裏方も、まぁ大変です。

今回のフォーラムは、昨年にも増して、分科会は23会場もあり、パワーアップ。
精神保健医療福祉施策から、家族支援、権利擁護、ピアサポート、恋愛結婚育児まで。
WRAP、IMR、ACT、IPSといった、今が旬のプログラムも盛りだくさんです。

僕は、第6分科会「アンチスティグマとリカバリー」を舞台袖から、ずっと見ていました。
かつて上司だった高橋清久さん(精神・神経科学振興財団)の司会・コーディネートです。
ひとりひとりの発言時間も延びて、休憩なし2時間35分のセッション。
僕はモニターをにらみ、シンポジストの表情を、3台の遠隔操作カメラで追いました。

リカバリーの大きな阻害要因となるのが、スティグマ(烙印)です。
欠格条項や偏見等の、外なるスティグマと、自身の中にある、内なるスティグマ。
7人のシンポジストが、当事者・家族の立場から、それぞれスティグマを語りました。
僕の司会したライブトークでも、当事者・支援者自身の病気への偏見が語られました。

「患者よりも、まず人として接して欲しかった」と語った外村さん。
「自分の中にも、最初偏見はあった」と医療機関で働く坂本さん、本田さん。
「病気を恥じ、隠す気持ちはあった」とコンシューマースタッフの磯田さん、永田さん。
「専門家でなく、ボランティアの視線を大事にしたい」と語った藤井さん。
「医療従事者が一番、偏見が強い。市民には、むしろ無い」と言い切った広田さん。

スティグマを形成するのは、当事者との接触体験の乏しさです。
施設建設反対運動など、接触体験のない人ほど、「怖い」イメージが肥大化します。
じかに当事者に接するようになると、市民の目線は穏やかなものに変わっていきます。

では、日頃病者に接している、医療従事者の偏見は、どのように除去できるのでしょうか?
精神科病院の中のスティグマを、PSWは自らの課題として、取り組めているでしょうか?

DSMとか精神医学の診断基準そのものが、リカバリーを阻害しているとしたら?
今日自明の薬物療法そのものが、リカバリー阻害の要因になっているとしたら?
そして、当事者のリカバリーを一番阻害しているのが、実は精神科病院だとしたら…。

精神障害者にかかわるアンチスティグマは、世界中で取り組まれている課題です。
障害者権利条約を批准できるように、この国の差別的な国内法の整備は必要です。
でも、それとともに、内なるスティグマの除去は、大きなテーマです。
むしろ、心の内側に刻印されたスティグマこそ、容易に消えることはありません。

願わくば、リカバリー概念が、精神科医療そのものを変えていくことを…。
まさに「日本の精神保健福祉サービスを『当事者中心』に変革するために」…。


※画像は、コープランドさんの記念講演を聴く、会場風景。
 舞台袖からの、こんな記念撮影、なかなか無いでしょう?(笑)
 僕の目に映っていた「リカバリーフォーラム2010」は、ずっとこんな風景でした。


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