PSW研究室

専門職大学院の教員をしてる精神保健福祉士のブログ

学生にとっての病院PSWのイメージ

2011年01月31日 19時48分38秒 | PSWのお仕事

 

国家試験が終わりましたね。
例年より問題が難しくなったと、もっぱらの評判ですが。
受験生の皆さん、お疲れ様でした。
民間会社の速報解答で、もう皆さん、答え合わせして、一喜一憂でしょうが。
合否ラインが、どの程度で設定されるかは、わからないですからね。
結果は、合格発表まで待つしかありませんね。

15年位前、大学生達に「PSWの仕事」について、何回か話をする機会を頂きました。
リッチモンドやらバイステックやらは、当然に知っているであろう彼ら彼女らです。
ワ-カ-の業務指針の話をしても、リアリティに乏しく、話す意味がないと思いました。
とにかく現場の話を、精神医療の現実の中でのPSWの実践を話すようにしていました。

話し終わると、大抵シ-ンとしてしまいました。
その後、急に学生たちがガヤガヤと話し始めるのを、何回か体験しました。
真剣に聞いていた緊張が解けて、一気に困惑が噴出したかのような感じでした。
進路の一つに考えていた、病院PSWのイメ-ジが崩れてしまったらしいです。

僕の語った「PSWの仕事」は、そんなにズレていたのでしょうか?
逆に、僕の方から、学生達に病院PSWのイメ-ジを尋ねてみました。
今度はこちらがびっくりしてしまいました。

白衣を着て、カルテやファイルを胸に抱えて、病院内を歩いているイメージ。
困っている家族の話を聞き、関係者の調整を行なう専門家。
一日に2~3件面接があって、患者さんのお話を伺う。
病棟のケ-スカンファレンスに出て、時には意見を述べる。
関係機関ににこやかに電話連絡をして、問題を解決する。
時には、患者さん達のレクレ-ションに付き合って、楽しい時間を過ごす。
常にやさしい笑顔で患者さんと接し、皆から感謝される職種。
企業のような利潤追求とは縁遠く、とてもやりがいのある仕事。
看護職と違って、日勤帯で終わる、残業のない仕事…。

まだ、精神保健福祉士が資格化されていない頃の話しです。
学生たちには、綺麗なイメージばかりが、肥大してしまっているようでした。
精神病院が、社会福祉士の実習対象施設になっていないこともあったと思います。
なんかイメ-ジ先行のカタカナ職種になってしまっているな~と思いました。
大学の先生たちは、何をどう伝えているんだろうと思いました。

そんな学生たちも、実際に実習に来ると随分見方は変わりました。
「自信が無い。でもやってみたい」という意欲的な学生も出てきます。
でも、意欲に燃えて就職しても、経験3年未満で約半数が退職していく現実もありました。

それを、どこまで伝えて良いものかと、考えてしまいました。

一方で、PSWの養成校は、3年前くらいからピークを超えて、減少に転じています。
学校そのものは変わらず運営されていても、PSWの課程だけ募集停止になったりとか…。
僕が講義に行ってた専門学校2校も、どちらも今、PSWの課程はありません。
専門学校は、どこも定員割れを起こしているのが実情です。

何が変わったのでしょう?
需要を超えて、供給過剰に至っていたという指摘はあります。
養成校が乱立して、粗製濫造が進んだという批判もあります。
そもそも、精神障害領域に特化した狭い国家資格だったから、と揶揄する声もあります。

それらも、当たってはいるのでしょう。
でも、何よりも若い世代にとって、イメージが良くないのだと思います。
勉強して、国家資格を得て、夢を持って仕事する感じには、なれないのでしょう。
求職先も、病院より地域の方が、今や人気のようです。
精神科病院のPSWは、すごく大変そう、キツそう、しんどそう、という印象らしく。
求人を出すと、地域には多数応募があっても、病院はごくわずかの応募しかないようです。
PSWにはなりたいけど、病院はイヤという学生も増えているようです。

精神科医も、どんどん病院から離れて、地域に展開しています。
街中のクリニックの増加とともに、病院では医師の過疎化が進んでいます。
指定医はおろか、特定医師の確保もままならなくなっています。
志のある看護師も、病院を辞めて、訪問看護に移りつつあります。
作業療法士も、高齢者分野に限らず、地域に展開しつつあります。
変化に敏感な若いPSWや学生たちも、地域へという志向性が強いようです。

脱施設化が進行しています。
患者でなく、職員の脱施設化。
収容医療でなく、生活支援がメインになりつつあります。
待ち受ける医療ではなく、アウトリーチが鮮明になりつつあります。
それは、ある意味で健全な、当たり前のベクトルなのでしょう。
病院職員自身が、施設症を抜け出し、社会復帰することは必要なことではあります。
時の流れとともに、精神科病院はいずれ無くなって、良いのですが…。

でも今、精神科病院から、PSWがいなくなるって…。
新しいPSWの力と風が、病院に入らなくなるって…。
病棟に残された患者さんたちは、どうなるのでしょう?
病院は、これから大きく変わらなきゃならないはずなのですが…。
PSWには、まだまだ病院でやるべきことが、たくさんあるはずなのですが…。

自分自身が、病院から転職した身で、言うのもおこがましいところはありますが。
多くの若い志を持ったPSWたちに、精神科病院に入って欲しいと思います。
しんどい仕事を回避しないで、ぜひ取り組んで欲しいと思います。
自ら学ぶべきことの多い、この仕事の面白さや喜びを、もっと発信して欲しいと思います。

それにしても、現在の状況を招いてしまったのは、僕たちの世代かも知れませんね。
国家資格化以前のPSWとして、責任の一端を感じています。
病院PSWのネガティブイメージ、なんとかしなきゃ……。

※画像は、小平の「いろりの里」の土塀。精神科病院の壁じゃありません(笑)