NHKが受信料を徴収できる根拠はもう存在しない…NHKが主張する「特殊な負担金」論のおかしな理屈
https://news.livedoor.com/article/detail/24343474/
NHKは国民から徴収する受信料を「特殊な負担金」と説明している。
『NHK受信料の研究』(新潮新書)の著書がある早稲田大学社会科学部の有馬哲夫教授は「NHKがあまねく全国に放送する特殊な存在だった時代には通用したが、インターネットが広がった今、国民に『特殊な負担金』の支払いを求める理由はない」という――。
総務省が設置した「公共放送ワーキンググループ」が5月26日、「スマホを持つだけで受信料を徴収することはない」と明言し、マスコミ各社がこれを報じている。
そもそも、「特殊な負担金」という文言は、1964年に「臨時放送関係法制調査会」の中で使われたものだ。
なぜ1964年、つまり今から59年も前の言葉をNHKは繰り返し引っ張り出してくるのだろうか。
インターネットが発達し、SNSが普及し、人々がスマホ・ネット中毒になっている現在、テレビ放送を視聴している人は少ない。
若者はほとんど見ていないし、今後も見なくなっていく。
そのNHKは、他局がまったく取っていない受信料を徴収している。これはおかしいだろうというのが私の指摘だ。
多くの日本人もおかしいと思っているので、NHKに対する不満が地下のマグマのように溜まってきている。
この不満にNHKが対抗して出してきたのが、冒頭の「NHK受信料は『視聴の対価』ではなく『特殊な負担』」。
つまり「見ていようといまいと、テレビやスマホを持っていようといまいと、NHKの組織の維持費なのだから払え」ということで、完全な開き直りだ。
ここで注目すべきは、「特殊な負担金」をNHKがプロパガンダとして使い始めたのは1964年になってからだということだ。
日本放送協会が発足したのは1925年である。
ということは、39年もの間「特殊な負担金」だと主張してこなかったということだ。
何故かといえば、それまでは受信料は「特殊な負担金」ではなかったからだ。
日本放送協会(以下協会とする)は、戦前の無線電信法(1915年制定)では「私設無線電話施設者」と規定されていた。
つまり、ラジオの放送局(無線電話施設)を私的に作った民間業者ということだ。
NHKは「公共放送」であるとして、まるで公共機関であるかのように思い込ませようとしているが、今も昔も、「私設無線電話施設者」であることに変わりはない。
当時の日本国民は、この「民間放送」を聴くために受信料を払った。
ここではコンテンツと対価の間に「特殊」なものは何もない。
人々は放送コンテンツが聴きたかったので対価として受信料を払った。
また、ラジオを買った人は、住所、氏名、ラジオ型番、設置場所、使用目的を電波管理局に届け出なければならなかった。
当時、電波は国のものとされ、軍事上重要なものとして厳重に管理されていた。
そうしなければ、敵性情報を得たり、軍事情報を発信したりする人間を取り締まれないからだ。
ラジオの購入者は、独占企業である協会の放送を聴く目的であることを証明するために、協会との「聴取契約書」を添えて逓信省に上述の届け出を出した。
終戦後に日本にやってきた占領軍は、このシステムを根底から覆そうとした。
彼らの目標は、放送を国家権力から引き離すこと、放送を民主化(アメリカ化)することだ。
つまり、電波監理委員会という政府から独立した行政機構に放送を任せ、政府に届け出なくても自由に放送を受信できるようにした。
電波は皆んなのもの(公共の電波)なので、電波を使用する事業者は皆んなのためになる放送サービスを無料で提供しなければならない。
人々はそれを自由に受信する権利があり、放送を通じて様々なことを知る権利がある。
だから、広告を流して利益を得ることはいいが、受信料を取ってはいけない。
受信料を払えるものが受信でき、払えないものが受信できないのでは、公共の電波の使い方として適当でない。
占領軍は既存の組織を維持するため、当座の便法として、受信料の徴収を認め、徴収率を高めるために、放送法の中に受信契約義務規定を入れるのを許してしまった(ただし「放送法の父」と、呼ばれる民間通信局分析課長代理のクリントン・ファイスナーは、憲法違反を指摘していた)。これが現在の受信料制度の起源だ。
民間放送は、東京のキー局と、経営上は独立の地方局がネットワーク契約を結ぶことで全国放送しているが、NHKは全都道府県に直営局があり、自前の放送ネットワークで全国放送している。
東京、名古屋、大阪の基幹局と地方局は自前の電波リレー網で結ばれており、この電波リレー網の建設と維持に巨額の資金が必要とされた。
そのための財源が受信料だったのだ。
1964年の「臨時放送関係法制調査会」の答申はこの事情を踏まえたものだった。
全国津々浦々まで電波リレー網を張り巡らさなければ、離島や山間部まで放送を受信できなかった時代はそうだろう。
だが、現在はインターネットで同じことができる。
インターネットの通信回線(光ケーブル)は電話会社・通信事業者のもので、NHKはその建設費も維持費も負担する必要はない。
NTTでさえ、通信回線の電波リレー網だったパラボラアンテナから、今や光ケーブルに置き換わり撤去されている。
もはや、国民に「特殊な負担金」の支払いを求める理由はない。
「NHK受信料は『視聴の対価』ではなく『特殊な負担金』」と言われても、みんなに必要とされる「公共性」がなければ、払う気にはなれない。
受信料は、かつてGHQが考えていたように、無料にすべきだ。
さもなければ、もともとそうであったように、コンテンツに対する対価という本来の形に戻すべきだ。
つまり、見た人が、見た分だけ払うという従量制だ。