F & F嫁の “FFree World”

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英国ロイヤルオペラ 「 椿姫 」 全三幕

2010年09月18日 | Cinema & Musik

F 嫁 log





いつも軽快かつ絶妙な語り口でオペラ( 主にメト )を語る madokakip 師匠のブログ。
オペラをまったく知らない私でもとても面白く読め、時々お邪魔している。( Fもよくお伺いしている模様 )

そのブログにて以前、紹介された エルモネラ・ヤホ嬢
その美しさに飛びついたのはまずF。そして私も。

ヤホ嬢のオペラだったら観てみたいね…でも機会はないだろうね…と話していた私達。




しかし、しかし、偶然は突然起こるもの。
忘れもしない9月8日、Fが叫んだ。
「ヤホ嬢が来日するらしい」


英国ロイヤルオペラ日本公演の「椿姫」
 

タイトルロールのヴィオレッタを演じるアンジェラ・ゲオルギューが 娘さんの手術に立ち会うため降板
その代役として、ヤホ嬢が出演することになったのだ。


その日から、我が家はてんやわんや。
生オペラを観に行くのはずーっと先と思っていたのが、突然、嵐のように決まってしまった。




そして、嵐はもう一つ起こった。
12日、椿姫初日(神奈川公演)、アレルギーの為、ヤホ嬢が一幕で舞台を降りたのだ。
実は、携帯でオペラ情報を調べてた私、その日の舞台を観ていた方のtwitterでそのことを知った。
「大変だ~」


その日から、またもやハラハラドキドキ。
ヤホ嬢は観てみたいが、なにせ、生オペラデビュー。
できれば、オペラとお友達になれるような奇跡が起こると良いなとも思っていた。




ヤホ嬢は復活するのか…
それとも、代役(12日好演したアイリーン・ペレス)が磐石な舞台を演じてくれるのか…





嵐の海に漂う小舟のように翻弄される私達。





そして、奇跡は起こるのか!!









GRD3









さて、9月16日、夕方17時30分
私達は渋谷のNHKホールに到着した。だいぶ収まってはいたがパラパラ降る雨。冷たい風。


入り口で待つ間、周りの話し声に耳をそばだてると


「今日のヴィオレッタのエルモネラ・ヤオという人、初日、一幕で降りたのだって」
「代役のアイリーン・ペレスが良かったみたいよ」
「どうなるのかしら」


そこここで話している。
入場して、配役表をもらい、ヴィオレッタはヤホ嬢が演じることを再確認。
嬉しいような、心配なような…なんだか私の方が緊張してきた。


お席は3階の左サイド。
席に座ると、後列のおばさま三人組の会話が聞こえた。
「今日のヴィオレッタは初日の神奈川で…」



いやはや、今日の公演は大変だ。
客席はマイナスのオーラが漂っている。
ヤホ嬢はゼロから…ではなく、マイナス20ポイントくらいのハンデを背負っての東京デビューだ。










~前奏曲~


美しいピアニッシモ。
美しく謳うような演奏。
弦の音がつややかに一つの塊になって押し寄せる。
そして、流れるように囁くように管が謳う。
思わずFと顔を見合わせ「巧いね~」とつぶやき、ため息をつく。


バレエ公演ではありえません、この演奏(苦笑)



透ける幕の後ろに白い衣装を着たヴィオレッタ・ヤホ嬢が横たわる。





~第一幕~

パリのヴィオレッタの館





幕が開き、扉が開き、華やかな夜会が目の前に広がる。

ヤホ嬢は美しい…が、双眼鏡を覗くと少々固い表情。(いや、私の気のせいか)

そして、アルフレードを演じるヴァレンティ。背が高く、ハンサム。パッと目を引く。



やり取りがあり、有名な「乾杯の歌」が始まる。
CMなどでも馴染みの曲。


アルフレードのヴァレンティ、おおむね良い感じなのだが、歌が盛り上がって、盛り上がって、盛り上がってと
畳み掛けていく時に、最後の盛り上がりでちょっとパワーダウンしてしまうのが気になった。
「よっしゃ、こーい!!」と思っているときに手前で逃げられてしまうような…。


実は、この印象が舞台の最後まで拭えなかったのだ。


そして、ヤホ嬢。
歌い始めは悪くなかったと思う。(ど素人判断だが)
ただし、空気は完全にアウェー。
客席全員が身体を硬くして聞き入っている感じ。
だんだんヤホ嬢の声も固くなり緊張していくのがわかる。


またもや、Fと顔を見合わせる。「だめっぽい??」


でも、その後、夜会の客が帰り、一人物想いにふけり歌い出すヴィオレッタ・ヤホ嬢。
アリアの途中、何か吹っ切れたように喉がリラックスしたような感じがした時があり、その後からとても柔らかい
感じに変わってきたように思えた。





~第二幕~第一場

パリ郊外の家




淡いブルーの壁。無造作に置かれた絵画。


アルフレードは愛する人と暮らす喜びを語る。そして、召使アンニーナからヴィオレッタが生活費を工面するため
財産を処分していると聞き、パリへ金策に向かう。
そこへ、ヴィオレッタに別れることを頼むため、アルフレードの父が登場。




アルフレードの父、ジェルモンを演じるサイモン・キーンリサイド。


凄い。言葉が私の身体に染み入ってくる。
説得力。言葉の力。
一夜漬けに近い予習のため、言葉の一句一句はわからない。
だが、何を言っているのかわかる気がする。



それに対するヴィオレッタ。表情豊かに受け答える。



別れることを決意し、手紙を書くためにクルッと一回転してテーブル右端にストンと座るヴィオレッタ。


その時、奇跡は起こった!!


その身のこなしがとてもとてもシックリしていたのである。
私は突然、パリの田舎(いや、英国の田舎)にいるような気がした。


ジェーン・オースティンの映画(「高慢と偏見」や「ある貴婦人の肖像」「エマ」など)が大好きな私。
私もその緑の風景の中で息をしているような気がしてきた。



今まで二重にブレていた映像が何かの拍子にカタンとピントが合った・・・・・。
その後から、私の前に繰り広げられる舞台の全てが生き生きと動き出した。




アルフレードに「愛してる?」と涙ながらに確認するヴィオレッタ。


そして、置き手紙を残し去ってしまったヴィオレッタに絶望するアルフレードを慰めるジェルモンのアリア
「プロヴァンスの海と大地を」
息子を思い、幸せを願う父の気持ち。痛いほど染み渡る。


しかし、聞く耳をもたないアルフレードはヴィオレッタを追ってパリへ向かう。






~第二場~

フローラの館




黒い衣装をつけたヴィオレッタ。
オペラグラスで覗くと…弱々しい優しい顔。
(美しい~!!)
谷間の菫のようなか弱げな姿。
歌う姿もどこかか弱げで美しい。
ただし、歌声は艶やかに私の所まで届いてくる。


悲しい、哀しい、カナシイ…ヴィオレッタの静かな慟哭。


そして、全員によるフィナーレ。
それぞれの叫びが絡みあって大きなうねりとなる。
素晴らしかった。






~第三幕~

ヴィオレッタの寝室





枕元には血の跡が。
ヴィオレッタの命は尽きようとしているのがわかる。


ベットに起き上がり、歌うヴィオレッタ。


はっとするほど美しい。
歌う表情も美しい。


死を前にして、人生を悔やみ、運命を呪う。
でも、悲しみながら、どこか諦めているような優しい顔。
もうヤホ嬢演じるヴィオレッタから目が離せなかった。


「道を踏み外した女に許しを、神様」
と歌うヴィオレッタ。


駄目だ…涙が止まらない。


誰もが死を前に大なり小なり、あの時こうしていればと悔いるであろう。
貴方は道を踏み外したのではない、皆、同じなのよ。


ヤホ演じるヴィオレッタを抱きしめてあげたくてたまらなかった。



そして、誤解を解いたアルフレードが駆けつける。父、ジェルモンも。


突然、幸せに満たされるヴィオレッタ。
なんて幸せそうな顔、幸せそうな歌声。





「もっと生きていたい」





そこでヴィオレッタを抱き、歌うアルフレード。





「こんなにも若くして死ぬなんて」





オペラグラスをにぎり泣きながら「アルフレード、あんたがしっかりと歌わないからヴィオレッタが死んじゃうじゃないか~」と思う私。
「頑張れよ~アルフレード~男だろ~」


すると不思議や不思議…
アルフレードのヴァレンティの歌声、第三幕は盛り上がりに向けての声のヴォリュームが良くなってきたではないか。
「あ~もう~遅いよ~アルフレード~もっと早く…」


また泣く私。ちょっと興奮して混線気味の私の脳内。



そして、フィナーレで突然、ヴィオレッタは幸せに満ちた表情で
「止まったわ、苦しみの発作が…私は生きかえるのよ」
と言い、立ち上がり小走りに一周し、アルフレードの腕の中で息絶える。


そして、幕。





第三幕は、ヴィオレッタ・ヤホ嬢の独壇場であった。
彼女の表情、感情、声色、全てに魅了された。
ペネロペ・クルスに似た美人だな、と思ったのも第三幕の歌いだしの時であった。











長くなってしまったが、生オペラデビュー、とても印象深く良いものになった。
椿姫、いろんな人のものを観てみたい聴いてみたいと思う。


そして、エルモネラ・ヤホ嬢。
チャンスがあれば、彼女の別の舞台も是非観てみたい。







GRD3






最後にいろいろと教えてくださった madokakip さま、yolさま、そしてオペラヘッドの皆さま、本当にありがとうございました。
今回、私がオペラとお友達になれたかな…と思う瞬間は、ヴィオレッタを演じるヤホ嬢の身のこなしではありましたが、
その沸点に到達できたのは、素晴らしい沢山の「音」の力だったと思います。












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6 コメント

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これもまた運命 (Madokakip)
2010-09-18 13:20:49
素敵なレポートをこんなに早くあげてくださって、本当にありがとうございます。

私、今だから言えるのですけれども、
正直に言いまして、この日の公演のヤホ嬢の出演は
無理なんじゃないかと思っておりました。
yolさんに、”けれども、とてもそんなことFさんご夫妻に言えない、、。”と、
メールまでしていた有様です。
それが、彼女が全幕を歌えるようになったのみならず、
一幕は若干様子見的であったとはいえ、
三幕ではほとんど彼女の実力を出し切れたように伺え、
これもまた、Fさんご夫妻のヤホ嬢で聴きたい!という熱い思いを、
舞台の神様が聞き入れて下さったのだと本当にほっとし、嬉しく思いました。
神奈川の公演をご覧になった方、
今回の東京の初日をご覧になった方、
こうして遠くでお話をうかがっているだけでも、
こう、なんといいますか、それぞれの観客の方の舞台とのめぐり合わせとか運命のようなものを感じます。

もう全編レポートを楽しませて頂いたのですが、
舞台がクリックした瞬間のところなんて
(別れることを決意し、手紙を書くためにクルッと一回転してテーブル右端にストンと座るヴィオレッタ、というところですね。)、
特にわくわくいたしました。

熱気溢れるレポートに、つい、それぞれの場面が思い出され、
『椿姫』の録音を取り出して全幕聴いてしまった次第です。
祝! (yol)
2010-09-18 23:30:37
オペラ初鑑賞が満足いただけたようで、何故か私も自分のことの様に喜んでいます(一体何者だ!?)。

私が初めて本格的にきちんと勉強してオペラ鑑賞に望んだ演目も「椿姫」でした。その際、忙しい身でありながら、毎回の不躾で、突拍子もない私の質問に毎回きちんと答えてくれるmadokakipの数々のアドバイスが本当に有り難かったのですが、同じ様に彼女のブログがきっかけでこうして同じ様にオペラ・デビューを果たせたこと、私も嬉しく思いますし、心からお祝い致します。

初めてのものが感激いっぱいのものであればあるほど抜けられなくなりますが、それはそれで楽しいものです。

オーケストラのあの完璧な美しさはやはりバレエの比ではないですね、残念ながら。やはり視覚をより重視してしまうと聴覚にはさほど力は使えないのかもしれないですけれど、同じ様に総合芸術ですから、バレエのオケももう少し頑張れー。

「マノン」ではオケと指揮がちぐはぐな感じが否めなかったので、「椿姫」は期待したいです。

そしてキーンリーサイドも益々楽しみです。
彼の全幕は、私の苦手とする(でも彼は得意としている)モーツァルトしか経験がなく、ヴェルディ、、、、というかもうとにかく私の好きなイタリアものをどう歌ってくれるのか本当に楽しみです。

タッカーガラでのポレンザーニとの二重唱、ビゼーの「真珠とりの歌」では昇天しそうでしたもん、本当に。。。これがきっかけで彼にはまりました。

そしてそして、忘れてはならないのがヤホ嬢。
私、今出来るだけ彼女の情報を入れない様にしています。
まっさらの状態で聴くために。

さて、私は明日行ってきます。
明日がどんな出来になるのか、神のみぞ知るといったところですが、とりあえずは楽しんできます。

また近いうちにご一緒出来ることを願っています。
メトのライブ・ビューイングの演目も出ましたし、またどこかの会場でお会いしましょう!

madokakipさん、こんばんは!! (F嫁)
2010-09-19 00:38:25
いろいろ本当にありがとうございました♪

>私、今だから言えるのですけれども…

そうでしたか…お二人ともとてもお忙しいのに…気を揉ませてしまいました。すみません!!
お二人の心配してくださる優しい思いも、舞台の神様に届いたのでしょう。
本当に素敵な夜でした。ありがとうございます。


運命…といえば

ヤホ嬢が来日、見に行きたい!とFと一気に盛り上がったものの
チケット確保の段になり、実はちょっとクールダウン。
バレエ公演ではありえない数字でしたので…。

その時に、二年前に他界した私の母が
「生でオペラを見てみたかった」と言っていたのを思い出したのです。
ヤホ嬢が来日するのも何かの縁かも…これは行くしかないと最終的に決めたのは私でした。

しかし、嵐が吹き(笑)、公演当日まですっかり母のことを忘れていました。(許してください)

で、椿姫第三幕。
ヴィオレッタの気持ちの移り変わり、怒り・悲しみ・後悔・喜び…闘病最後の母を思い出しました。
静かな人生であった母にも後悔はあり、怒りもあり、…そして最後を迎える前日、
母にとって嬉しいことが起こり、生きる事を楽しむわと嬉しそうに話していたのです。

ですから、第三幕はとても現実的で心に迫ってきました。
これはヴェルディの力量、音楽の力かもしれませんが…
絵空事ではなく演じてくれたヤホ嬢にも感謝したのでした。

madokakip師匠の言われるように、「これもまた運命」と本当に思います。

そして、私を私たちをオペラの入口に立たせてくれたエルモネラ・ヤホ嬢は我が家のDIVA。




それから、youtubeにて、traviataの聴き比べを始めてしまいました。
声質はもちろん、ブレスの幅、取り方、音の取り方、長さ…本当に違いますね。
私はヤホ嬢がデフォになっているらしく、彼女の間合いがとてもしっくりきます。
そして、マリア・カラス♪素晴らしいです。気持ちが伝わる歌い方。

オペラの沼は深いですね♪
これからもいろいろ教えてくださいませ。ブログを楽しみにしています。
yolさん、こんばんは!! (F嫁)
2010-09-19 01:06:52
お世話になりっぱなしなのに、お祝いまで♪ありがとうございます。

yolさんにお会いできるかな…との軽い気持ちのメールだったのですが
気を揉ませてしまったようで…恐縮しています。

でも「私も初生オペラは椿姫でした」のyolさんのメールのどれだけ勇気づけられたか!!
感謝でいっぱいです。

>バレエのオケももう少し頑張れー
(笑)そうです、そうです。一番良いところでピーとかプーとかなんて論外で、せめて前奏でうっとり…(やはり、以下、自粛します 笑)

いよいよ椿姫公演、今日ですね。

素敵な時間になりますように。


それから、今回の舞台の色(背景など)がとても英国でした。
ロイヤルバレエの時も、なんとも言えないモヤッとした感じを受けるのですが。
オペラも同じ匂いがする…と後になって気付きました。
ただし、「ドンキホーテ」などのバレエ演目の時はこの英国調は裏目に出ますが、
椿姫はどうなのでしょうか?
私はしっくり見ていたのですが(比較するものがないので)。



再びお目にかかる時を本当に楽しみにしています。
では、今日が良い舞台になりますように祈っております♪
私信です。 (yol)
2010-09-26 11:04:18
この場をお借りして私信です。
事後報告になりますが新しいブログにもリンク貼らせていただきましたのでよろしくお願いします

CD全て用意ができましたがどうしましょう?
お送りしましょうか?

このあたりはまた別メールしますね。
ありがとうございます (F嫁)
2010-09-26 21:29:28
yolさん、リンク頂きありがとうございます。

そして、CD(!!)ありがとうございます♪
お手数掛けて申し訳ありません。
では、メールをお待ちしております。
(お忙しいと思いますので、お時間ある時で結構ですよ~)

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