満天横丁に住まう妖怪のひとり言

満天横丁に住む満天と申します
最近、猫妖怪化してきており更新は不定期ですが…
ひとり言にお付き合い頂ければ幸いです。

WILL 作:本多孝好

2010-11-15 | 本の紹介


以前に紹介した「MOMENT」の続編である
※「MOMENT」のレビューはコチラからどうぞ~

前作の「MOMENT」名詞で使うと「一瞬」または「瞬間」
今回の「WILL」名詞だと「意志」また「遺言」なんて意味もあるらしい。

前作は、主人公「神田」という大学生が、アルバイトの掃除夫として働いていた病院で
ヒョンな出来事から「余命わずか」な人々の、最後の願いを叶えることとなってしまい
それなりに粛々とだが、熱く要望を叶えようと奮闘している物語であった。

末期患者の最後の願いを叶える為に、彼が奔走した行動の一つ一つに
「普通…そんな風に出来るのかい?」ってな、賢さが垣間見えていて
作者の都合でスムーズに話が運んでいるだけかも?とか思う場面もチラチラ記憶にあった。
が…神田君は、本当に賢かったらしい。

チラっと前作でも某有名大学に在学ってなフレーズがあったが
あれから7年経った本作「WILL」では、アメリカで翻訳の仕事をしているらしい。
7年経ったと言えども未だ29歳。マジで賢さの度合いが伺える

っと言う訳で、前作の主人公が不在なので、今回の主人公は前作でもチラっと出てきた
神田君の幼馴染で葬儀屋を営む女性、「森野さん」が主人公である。
森野さんだって神田君と同じ歳の29歳。ギリとはいえ20代である。
葬儀屋の社長の椅子に座るには、まだ若い。

彼女は18歳で両親を事故で失ってしまい、
寂れた商店街の片隅にある、小さな葬儀屋を継がねばならなかった。

そんな彼女の亡くなった両親への、子供としての「思い」と
葬儀屋として、死者を葬る作業の一つ一つにこもった「思い」と
残された者たちの心にある「思い」など、様々な「思い」が交錯する話となっているのだが

これが、実に…読んでいて重い。
(ハードカバーだから重い訳ではないだ。確かに文庫より重くって肩が凝ったがな…笑)

前作の死に行く人々の「思い」や「願い」を綴った作品よりも
生きている人の思いを通り越した「思惑」の方が、遥かに変な重みを感じてしまう。

前作では大学生の神田の方が、若くして葬儀社を引き継いだ森野より子供であったのが
この7年で神田も就職したり、会社を退職したり、海外で翻訳の仕事をしたりと
様々な経験を積んだせいか大きく人として成長が見られた。

それにひきかえ森野の方は、乗り越えなければならない両親への思いを
未だに引きずった状態で、同じ場所に低迷している感がある。
ただ、やっぱり29歳にしては、誰にも甘えず、一人で踏ん張ろうとする強さもある。

辛いこと苦しいことは経験しないで済むのなら、しない方が良いと誰もが思うが
そういう出来事を経験した方が、本当は、人は大人になれる。

我が社に居る35歳を過ぎても、未だベタベタと甘えた口調で話す女子達を見ていると
もそっと苦労を経験して、大人になれよ…とか思ってしまうのは私だけか?(笑)
さすがに35歳を過ぎれば。大人年齢だよな…とは自分でも思っているらしいのだが
「可愛い、可愛い」と育った子供の末路か? それが抜けないから、見ていて悲しくなる。

彼女達は皆、同じ事を言う。
「親に叱られたことがない」っと…。「親に殴られたことがない」っと…。

むやみに殴ったり叱ったりしない親の元で育ったのは良かったね。っと言っておこう
しかし、叱られなかったからって、良い子だったとは限るまい(笑)
そんなに胸を張って言うことなのか?っと何時も「へ~」っと曖昧に答えながら聞いている

そんな彼女達の学生時代は「校内暴力」の盛んな時代でもあった。
もちろん彼女達が校内暴力の主導者ではない。そんな根性があったとは思えない(笑)
ただ傍観し流れに身を任せていたのだろう。自分たちで何かを変えようともせず
ただ可愛い子でいれば、誰にも怒られず、暴力も受けずに済むのは、親で実証済みだから。

森野はそんな生き方をしていない。29歳、いや、親が亡くなった17歳の時から
自分の行動に責任を持ち、人より早く大人にならなければいけなかった。
でも、彼女が本当の大人になるためには、もう一つの階段を登らなければならない。
それこそが先に述べた我が社の甘えたオバサン達が、常日頃やっている事。
他人に甘えるということなのだ。

世の中とは不思議なものだ。

オバサンになっても平気で甘え続ける人も居れば
若いのに甘えることが出来ずにいるひとも居る。

オバサンになっても叱られたことがないっと自慢げに言う人もいれば
なにかと衝突ばかりを繰り返してしまっていた、っと悲しげに言う人もいる

どちらも人生に不器用だが、私は森野の方が好きだ。

きっと森野の方が自然に歳を取って行くことが出来るだろうと思うから。

7年たって本書を書いた作者にも、何か変化があったらしい。
どことなくクールな文章が、ほんの少しだが読者を慮る気持ちが生まれたようだ(笑)
まだ、細かい所で急ぎ足となる所も気になったが、今後が楽しみな作家さんかも?

この本ばかりは、順番通り読むことをオススメする。
その方が7年の変化を楽しめると思う。

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