坂口恭平「ゼロから始める都市型狩猟採集生活」

              

 リクルートの無料雑誌「R25」の本コーナーで知りました。

 無職・無一文、裸でこの都会に投げ出されたらどうなるのか・・・野垂れ死にするのか、いえ大丈夫、衣食住娯楽まで十分に生活できますよというノウハウ本。路上生活者から教わり、著者が調べた様々な手段が紹介されます。まずは福祉団体、教会などの慈善活動、そして飲食店関係の善意のお世話になって。そのままお世話になりっぱなしも可能だけど、色んなモノを拾い集めることで一定の収入を得て自立を模索することもできる。

 キーワードは都会のゴミ。生ごみを漁るということではなくて、モノ余りの現代ではある人には不要なものがある人には貴重な宝となる。「他人のほしがらないものが、きみの一番ほしいもの。こういう状態になると、じつに効率よく質の高いものを獲得することができる。」この言葉は多くの示唆に富んでいます。
 これまで知りませんでしたが、寿司屋、パン屋、個人系コンビニなどの飲食店の中には閉店後、不要となった余り物を店の前に置いて、それを必要とする人に提供するところもあるんだそうです。その御礼として、路上生活者が店の前・ゴミ置き場周辺を掃除する。こういう共存関係の中でなんとか生き延びる。

 大学で建築を学んだ著者が既存の設計、住宅に疑問を感じてドロップアウトし、理想の姿形として見出したのが路上の段ボールハウス、川沿いのビニールハウスです。これらの「家」の作り方を事細かに紹介した後で、ソローの森の生活や鴨長明の方丈記などの自給自足、掘立小屋生活の思想を引き継いだような現代日本の路上生活者のアイデア・自由を著者は称賛します。

 単なる変人によるノウハウ本かと思いきや(ここまでも十分に面白いのですが)、最後はボブ・ディランのように既存の生活・束縛からの解放、自由の獲得を呼びかけます。シンプルな本なのですが、読後、確かにこの都会の見方が変わってしまうような、大袈裟ですが過激で革命的な一冊です。



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