クリストファー・マクドゥーガル「BORN TO RUN走るために生まれた」

            

 これは驚異的な本、問題作です。

 ボーントゥラン、走るために生まれたという書名を読むと、根っからの走り好きのランナーの話しかと思いきや、人間が二足歩行になった理由を突き詰めると弓矢の発見までの約200万年間、初期の人間が走って狩りをしていたことに行き当たる、つまり人間は持久走を得意とし走るために生まれてきた。

 物語はランナーであるジャーナリストが、メキシコに住むタラウマラ族に関心を持つことから始まります。高機能シューズを履いて走っている我々が故障がちなのに、裸足あるいはスリッパ程度で何十キロと山岳地帯を走り回るタラウマラ族が平気なのはどうしてか。

 タラウマラ族に同化してしまったブランコという奇人探しをきかっけにタラウマラ族の走りに関する記録、加えてアメリカにおけるウルトラランナーやウルトラレースの紹介、最後はブランコが主催したタラウマラ族の俊英とアメリカのウルトラランナーのレースまで。

 その間に著者が調査してきた走りに関する科学、スポーツメーカーの取り組みが紹介、暴露されます。高機能シューズを履くことでどれだけ故障率が上がっているのか、つまり、人間は裸足で走ることで足の裏を強くすることができる。ヒールの厚い靴を履き、踵から入る走り方は間違いである。しかも、そのことをナイキをはじめとしたシューズメーカーはよく知っていること。

 踵から入ることに疑問というか、漠然とした不自然さを感じていたこともありここでの表記には納得感があります。多くの大学教授、研究者の検証が紹介されていますが、反対意見もあるのではないかと思います。ランナーの宿命のようにかかえる足、膝の故障の原因が本当に高機能シューズの厚いヒールなどによるものなのか正直分かりません。ただ、裸足で前足を中心に着地していけば故障は減るという理論、主張にも納得できる点が多くあります。後は個人差もあるでしょうから自分の走りの中で実践、判断していきたいと思います。

 それと本書のまとめでの人間は走るために生まれた理論。これについても諸説の中の一つなのかもしれませんが、これを検証するために実際に草食動物を走って追いかける猟を実行したこと、これを行っている部族がいまだにアフリカにいることを探し出したことなどは興味深いです。

 高機能シューズが足に悪く裸足がいいこと、人間は走るために生まれ走るように進化してきたことは、これまでの常識を覆すことであり、とても刺激のある著書でした。





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