カラヤン/キャスリーン・バトル「ニューイヤーコンサート1987」


 残暑お見舞い申し上げます。お盆休みの田舎の風景写真などを息抜きにアップしたいところですが、事情によりデジカメが貸し出し中なので見送りです。

 大好きなキャスリーン・バトルです。手許にあるキャスリーン・バトルの歌曲CDの録音年次をみると「ザルツブルクリサイタル」が1984年8月、「グレイス」が1995年11月なので、この10年間に一番活躍したんだと思います。
 最近も来日しているようなのでおそらくまだ現役なのでしょうが、表舞台からはすっかり姿を消してしまいました。透明感があって表現力も豊かで、なんといってもチャーミングな歌声を聞かせてくれました。オペラなどでKathleen Battleのクレジットがあるとそれだけで聴いてみたくなったものです。

 それが見かけによらずとんでもない我がままだったらしく所属していたメトロポリタン歌劇場から解雇されてしまいました。読んだところでは、オペラ公演でどんな役だろうと、終演後のカーテンコールで最後の登場を要求したんだそうです。確かにキャスリーン・バトルは上手くて人気もありましたが、それでも準主役級(キャサリーン・バトルはリリック・ソプラノなので小娘、召使などのコミカルな役が多い)が主役よりも後に出るなんてことはありません。温厚なジェームズ・レヴァインですら我慢できなかったのであれば仕方ありません。
 その後、どうなるのかと思っていたら、結局、もう有名歌劇場でのオペラには登場しなくなりました。ソロリサイタルとたまの録音生活です。大バカ者です。才能の無駄遣いに悲しくなります。

 そんな身の程知らずのキャスリーン・バトルですがその魅力には抗し難いものがあります。同世代に活躍した歌手でこれだけうっとりさせる歌唱を聞かせてくれる女性歌手はいませんでした。
 もうじき子供が生まれるのでどんな曲が子守唄にいいんだろうと考えていました。歌謡曲では夏川りみの「童神(わらびがみ)」ですが、クラシック音楽ではなんだろうかと考えるとキャスリーン・バトルが歌う「シューベルト 夜と夢」に思い当たりました。ジェームズ・レヴァインが伴奏するシューベルト歌曲集に入っている1曲ですが、こんなに優しい音楽、歌はそうありません。柔らかい絹の肌触りのような音楽。最弱音の透明感、消え入るような音にも想いが溢れるようにこもっている。レヴァインのピアノも素晴らしいです。キャスリーン・バトルはソロだとレヴァイン伴奏のディスクがなんといってもいいです。

 このシューベルト歌曲集を取り上げるつもりで聴き直してみたのですが、ディスク全体としては若干マイナーな曲が多く、自分でもこれまで夜と夢以外はあまり聴いてこなかったことに気付きました。
 そこで、キャスリーン・バトルのディスクをいろいろと聴き直してみました。感動的な黒人霊歌が入っているコンサートのディスクも捨て難いのですが、辿り着いたのはカラヤン/ウィーンフィルの「ニューイヤーコンサート1987」です。ウィーンフィルのニューイヤーコンサートとしては初めてソリストで登場して「春の声」を歌ったものです。NHKのテレビで見ていて、真っ赤なドレスを着た黒人女性が現れた時にドキドキしたのを覚えています。春の声は聴いたことはありましたが、歌付の曲とはこの時初めて知りました。弦やオーボエやフルートの音よりも人間の声のほうが魅力的であることを知ったのもこの演奏ではなかったかと思います。
 春の声に限らず、コンサート全体もカラヤンによるスケールが大きく絶妙のテンポのゆったりとした音楽です。当時はご多分に漏れず、クライバー=天才、カラヤン=録音技師と教科書で教わっていて賛同していたのですが、カラヤンのほうがいいなんてこともあるんだと感じたのを思い出します。

 クラシック音楽関係で今でも後悔していることが一つあります。1989年2月に真冬のニューヨークにいて、カーネギーホールでカラヤン指揮ウィーンフィルによるシューベルト未完成交響曲とウィンナワルツを演奏するコンサートが行われました。チケットはもちろん売り切れていましたが、当日劇場に行くとダフ屋がいて声をかけてきました。記憶が定かではないのですが、5万円か10万円くらいの値段だったと思います。学生にはとんでもない値段でしたが何故か出せる財布状態にあったことは覚えています。ただ、雰囲気に圧されて止めました。あまりにも場違いだと感じたからです。勇気を奮ってチケットを購入していれば・・・カラヤンとウィーンフィルのウィンナワルツを生で聴けた一生一度のチャンスだったんだと思いますが仕方ありません。

 キャスリーン・バトルを取り上げたのですが、またまたカラヤンの話しになってしまいました。


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