村上春樹『古くて素敵なクラシック・レコードたち』




 昨年出た第1集は、選曲が余りにもマイナーかつ推薦盤も非メジャー系で売れ線とは距離を置く村上春樹らしいとはいえ、ちょっとなぁな一冊でした。正直これを楽しめる余裕はなかった。エッセイの中でも村上春樹の音楽モノは鉄板の面白さがありましたが初めてハズレの思いがありました。
 続編あるの!?と年末の突然の出版に驚いた第2集、今回はメジャーな楽曲も増えて、これぞという読み物になっています。第2集が先なら随分印象は違ったと思いますが、この2冊でバランスは良くなりました。相変わらず取り上げるディスクは昔のレコードということもあり、個性的ですが、始めの数年だけレコードで大半はCD世代の私でも楽しめます。
 それぞれ100曲程度、1曲につき4〜6枚紹介されているのでトータル1,000枚弱でしょうか。
 それにしても自由な蒐集、虚心坦懐に音楽に聴きいっている姿勢は羨ましいです。私はとにかく失敗を避けたくて世評の高い順に購入してきたマニュアル君なのでコレクションはどうしても画一的、標準的です。村上春樹の文章を読むと好きなように、自分の感性で聴けばいいんだよな、自分の時間、お金だしと当たり前のことを思い出せます。
 個別の評価への賛同はほとんど聴いていないので分からないのですが、所謂名盤へのスタンス、例えば、シェリングのバッハ無伴奏について、賞賛されているのは理解できるけど、「そのわかり加減がちっとばかり耳についてくる・・・ちょっとこれ、できすぎているんじゃないかという微かな違和感をなんとなく持ってしまうのだ」といったコメントは成る程なぁと思います。これは名盤を崇めるように聴いている立場からは出ない言葉です。自分の好みなのか、世評を追認しているだけなのか、改めて多くのディスクを聴き直したくなります。

 そして願いたいのは次はこれのジャズ版を是非に。

 大晦日です。大きな憂いもなく、いい本を読んで、いい音楽を聴いて、お酒を飲んで、年末を家族と迎えられるのは村上春樹のいうまさに小確幸あるいは中確幸です。

 

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