よしもとばなな「まぼろしハワイ」


 ようやくというか初めて吉本ばななの「キッチン」を読みました。吉本ばななは女性が読むという印象が強かったのでなんとなく避けてきたのですが、面白かったです。繊細な感受性が切ない。
 孤独、愛、死、家族、人との触れ合いなどを織り込んだ私小説風なのですが、設定の面白さ、ストレートな表現、なにげない日常の捉え方が冴えていて純文学を超えた娯楽性があります。今更、私が説明するまでもないよしもとばなな風な文体・タッチなのでしょう。
 現在、私には妻と小さな娘がいて、これからの人生を家族と歩むことに迷いはありませんが、若かった頃、自分の将来がどうなるのか分からず夜になると不安に襲われた頃の気持ちを思い出しました。


続けて、「まぼろしハワイ」という新作(短編3作)を読んでみました。1987年の「キッチン」から20年目の節目の作品、ハワイ大好きばななさんが5年をかけて書き下ろした本人曰く「入魂」の作品とのことです。よしもとばなな×ハワイ、期待は膨らみます。

 ちらっと斜め読みした書評にもありましたが、「キッチン」の作風と全く変わらないです。肉親の誰かが死んだ(でいる)設定、一人ぼっち、日々のちょっとした出来事の積み重ね、肉親以上に親しい他人との交流を通じて、泣いて泣いて、再生していく・・・。
 読んでいる途中は、また死んでるよ、また泣いてるよと多少うんざりすることもあるのですが、魅力的な会話、美味しそうな食事シーン、天候・空気の表情などディテールの表現が印象的で、最後には小さいけど何か希望を見出す主人公に共感できて、爽やかな読後感があります。旅行先としてのハワイを舞台としていますが、主役は上記のようなばなな風設定でハワイは名脇役といった感じです。

 続けて読むと満腹感がありますが、心が疲れたときなどにさらっと読むと心に沁みる作家なんだろうと思います。


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