小川洋子の小説の映画化だ。幻想的で官能的。映画は台湾を舞台にした。どことも知れない場所、という設定だけど。日本語と中国語が行き交う。
海辺の寂れたリゾート地。そこにある小さなホテル。日本人女性が経営している。そのホテルの娘(陸夏)は、ある客(永瀬正敏)に心惹かれる。彼女は、その男が嵐の夜、部屋に商売女を連れ込み暴力を振るっていたのを目撃する。怖いと思う気持ちを感じつつも、同時に彼に興味を抱く。
. . . 本文を読む
なんと2時間56分に及ぶ長尺映画である。しかも、娯楽アクション映画のはずなのに、とんでもなく暗くて重くてしんどい。お話だけではなく、実際の映像がとことん暗くて、何をしているのか、よくわからないほどなのだ。映画館の暗闇の中で見ているのに、である。こんな大スクリーンで見ているのに、である。それってどういうことよ、と思う。アート映画ではなくハリウッド映画がこんなにも照明も使わずに、夜の闇の中でアクション . . . 本文を読む
今年の大阪アジアン映画祭最大の期待作だ。2011年台北映画祭で上映された37分の短編映画『焉知水粉』を見たうちの妻が大絶賛したチャン・タンユエン監督、待望の劇場用長編デビュー作である。2時間半に及ぶ超大作だ。
90年代後半から30年に及ぶ時代を背景にしてベトナムから新移民として(嫁不足の地方の男のためにやってきた女性)台湾に嫁いできたひとりの女性の物語。クロニクルというよりも、彼女の見た、過ごし . . . 本文を読む
大阪アジアン映画祭の1作。これは一応ドキュメンタリー映画という分類でいいのかもしれないけど、それにしても映画としてはあんまりだ。おもちゃ映画という不思議なものが昔あったらしい。そんなフィルムをかき集めて1篇の映画作品を作った。時系列に並べて、そこから垣間見える日中戦争への道。それがどんなふうに浮かび上がってくるのかには興味があった。庶民に提示された個人向けのおもちゃとしての映画。そんな家庭で見るた . . . 本文を読む
城定秀夫が監督し、今泉力哉が脚本(城定との共同とクレジットタイトルにはあるけど、それは城定が手を入れたのだろう)を務める。城定、今泉コンビによる2部作の1篇。(次の『猫が消えた』は城定脚本、今泉監督)タイトルだけ見ると今泉の『愛がなんだ』と姉妹編のような感じ。
こういう小さなお話は嫌いではないけど、あまりに単純で安直すぎた。古本屋の店主(31歳)が女子高生に恋されるというお話に、店主の好きな女性 . . . 本文を読む
いやぁ、こんな小説があるんですなぁ。僕とほぼ同じ年の女性が主人公で、同じように定年退職して、再就職を探している。いろいろ心当たりのあるようなことも描かれるので、興味津々で読み始めた。僕は彼女と違い今は働く気はないけど、急に社会とのつながりがなくなるのは、怖いと思った。しかも、コロナのせいで自由が利かなかったし。定年の後、再雇用で1年働いて、61歳で辞めたけどなかなか「働かない生活」には慣れなかった . . . 本文を読む
あまりに単純だ。90分という尺もそのことを裏付ける。お話に奥行きがないから、ペラペラだ。宣伝用のチラシに書かれてある粗筋だけで、すべてが語られる。そんな映画があるとは思わなかった。せはつまらないのか、というとそうではない。なのに、映画自体は悪くはないのだ。もしかしたらこれを傑作だと、言う人もいるだろう。ケイト・ブランシェットが絶賛して彼の次回作をプロデュースするとチラシに書かれてあったし。
こう . . . 本文を読む
今年も金蘭会の卒業公演を見ることができたのがうれしい。3年間の集大成である。彼女たちがここで金蘭演劇を生きた時間のすべてが、この作品の中には表現されている。彼女たちの不幸はコロナだ。コロナ禍で、満足な活動ができなかった。さらには、下の学年の部員たちも従来のように多くはない。今までの先輩たちによる金蘭演劇を知っているけど、それと同じようなものが作れない。状況が変わってしまったからだ。それでも、伝統を . . . 本文を読む
75歳、認知症気味の引きこもり老人が30代の女性漫才師とコンビを組みデビューする。これはそんなお話。10年以上やっているのに売れない漫才コンビ。美人と超肥満女。主人公は肥満体の方。彼女がバイトとして行ったところがある老人の家。息子との二人暮らし。昼間は老人はひとりになる。そんな彼の世話をするのが彼女の仕事。
頑固な老人とぶつかり合いながら徐々に関係を育んでいく、とかいうようなよくあるパターンを想 . . . 本文を読む
『そしてバトンは渡された』で本屋大賞を受賞した後の受賞後第1作という事らしい。昨年、『そしてバトンは渡された』は映画化もされ、再び話題になっていたけど、ふつうなら期待の新作であるはずのこの本を僕はたまたま読んでなかった。2020年10月に出版されている。ノートを調べたらやはり読んでなかったので、これはラッキーと思い読み始めた。こういうことはたまにある。読んでいたつもり、とか、反対に読んでいないと思 . . . 本文を読む
ようやく配信が始まったので、さっそく見ることにした。昨年TVシリーズを見ている。主人公の3人のやり取りが楽しいし、この独特な世界観が笑える。こんな異常な高校があればきっと楽しいことだろう。近未来のお話なのだけど、ところどころ超アナログで、設定の異常さに引きずられることなく、彼女たちのオタクぶりを笑いながら、(心から共感し)暖かく見守る。特に主人公の斎藤飛鳥がすばらしい。ありえないような人見知り、そ . . . 本文を読む
2021年のキネマ旬報ベストテンで第4位になった作品だ。凱旋興行で、再びロードショーされたので、ようやく見ることができた。公開時は今更デビッド・バーンのライブ映画なんて、と少し腰が引けたのだが、これだけの高い評価の訳が知りたいと思い、劇場に向かう。それとこの映画がスパイク・リーの作品だったことを後で知り、それじゃぁ、気になるよ、と思う。ジョナサン・デミが手掛けた『ストップ・メイキング・センス』は傑 . . . 本文を読む
昨年のカンヌ映画祭で審査員賞を受賞したタイのアピチャッポン・ウィーラセクタン監督の新作。パルムドールを受賞した『ブンミおじさんの森』から7年。待望の1作だ。だけど、そう言えば前作『光りの墓』があまりのことで驚き、(少し期待外れで、という意味で)今回も、もしかしたら、という不安もある。あまりの説明のなさゆえ、ついていけない部分があるのだ。
そんな不安は的中した。冒頭延々と薄暗い中、ベッドが映される . . . 本文を読む
藤井道人監督の新作だ。今や飛ぶ鳥も落とす勢いで新作を連打する若手監督のリーダーだ。しかも、特定のジャンルではなくさまざまなジャンルの作品を手掛ける。今回は恋愛もので、難病ものというある種の定番に挑む。昔はバカにされたお涙頂戴映画だ。その王道をいく作品を彼が手掛けると、どうなるのか。
奇を衒うことなく、堂々たるメロドラマになる。実話をモデルにした作品だろうが、こんなに泣けるのに、それがあざとくはな . . . 本文を読む
2019年に『魔法がとけたあとも』として出版された単行本を改題して文庫化した。オリジナルタイトルは5編の短編全体を象徴させたが、今回は5つの中の一編のタイトルを使う。だけど、こうすることでさらにこの作品集全体に共通するイメージが明確になった気がする。『魔法がとけたあとも』現実は続く、というよりも「彼方」にあるもの(主人公たちの「アイドル」)を見つめることが、現実の先に向かう我々の大事だ。
20年 . . . 本文を読む