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映画・演劇のレビュー

島本理生『ファーストラヴ』

2018-11-03 22:03:01 | その他

シンプルで甘いタイトルに騙されてはならない。というか、作者には毛頭、騙すつもりなんかない。島本理央はこのタイトルで腹を括っている気がする。この残酷な「初恋」という想い。これはあまりといえばあまりな残酷さ。こんなものをファーストラブと信じなければ生きていけなかった少女のゆがめられた人生。

父親を刺殺した22歳の娘の裁判を巡るお話は、彼女の心の闇を抉るだけではない。彼女を取材する臨床心理士の主人公と弁護士を通して彼らの心の底に巣食う闇をも焙り出すミステリ仕立てだ。(ふたりは以前、恋人同士だった。今彼女は彼の兄と結婚している。それってなんだか、適当な、作られたお話のようにも思える。安易な設定にも見えそうな、でも、そこが実に上手いのだ。)なぜ、こんな事件を起こすことになったのかが、炙り出されていく。

 

これはリアルなお話ではなく、とてもよく作られたお話。それだけに、核心部分を切り裂いていく切り口は鮮やかだ。それぞれが抱える闇がリンクしていく。ドキドキする。彼女たちに何があったのか。

そういえばこの小説と前後して見た『search/サーチ』の失踪する娘が抱える闇もこの小説に似ているな、と気づく。あの映画の彼女の失踪もこの小説くらい書き込まれていたなら、と惜しまれる。父親と娘の関係を描くという意味で両者には接点がある。

余談だがあの映画の最初の方で、父親が最後の連絡を受けたときの様子が描かれるのだが、その時彼女の首のところに誰かに絞められた傷のようなものが見えたのだが、あれは何だったのか、とても気になった。(そこが伏線ではなく、映画はそこをスルーした)

この小説の女子大生は終盤で証言を変える。そこからの展開が凄い。明らかになる父親との関係が、ファーストラブか、と想像していたのだが、それも見事に裏切られる。実によくできた小説で直木賞受賞も当然と思わせる。

ジャンル:
小説
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