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映画・演劇のレビュー

『焼肉ドラゴン』

2018-06-25 21:52:59 | 映画

1969年から71年までの3年間のできごと。伊丹空港の横にあった朝鮮人集落の焼肉屋を舞台にしての家族の物語。最近見る映画はなぜかみんな家族をテーマにしたものばかりだ。たまたまなのだろうけど、なんだか不思議。これもたまたま昨日見たのだが、『月と雷』という映画もそうだった。壊れてしまった家族のお話。ひとりの女が、そこから再生していくまでの。(安藤尋監督作品だからDVDを借りてきて見た。)

 

こちらは3姉妹のお話。最初は末の弟(中学1年生)の視点から描かれる。暖かくほのぼのとしたお話を期待していたら、肩すかしを食らう。でも厳しい現実を描く社会派を期待しても同じように肩すかしを食う。では、何なのか、と言われると、難しい。等身大の「ある『家族の肖像』」、というとなんだかかっこつけのようで、それもなんだかなぁ、と思う。27年続いたこの場所が国の都合で(ここはもともと国有地で彼らが不法占拠していた、というのだが、戦後の混乱期にここの所有権を確かに購入したのだと主人公である焼肉屋の主人は主張する。(確かに彼はこの土地を買っているのだが不法転売だったようなのだ)

 

次女の結婚から始まり、この場所の解体まで。高度成長期の日本のかたすみで、生きた人々のドラマだ。在日を主人公にして描いているのだが、普遍的なお話である。山崎貴監督の『ALWAYS 三丁目の夕日』に近い感触だ。鄭義信はどうしてこういう映画に仕立てたのだろうか。これは想像以上に甘い映画だ。だが、この甘さは単なるノスタルジーとは一線を画する。主人公はあくまでも父親と母親。その店主夫婦を「隻眼の虎」のキム・サンホと「母なる証明」のイ・ジョンウンが演じる。3姉妹を真木よう子、井上真央、桜庭ななみ、長女の幼なじみ・哲男を大泉洋がそれぞれ演じる。

 

このキャスティングがこの映画の要となる。次女の結婚から始まりラストまで、彼らがここに集まり酒を飲みながら騒ぎでいる姿を描く。時々挟まれるロケーションのエピソード(外の世界の風景)にホッとさせられる。(末の弟の学校でのイジメのシーンはそうではないけど)

 

閉じられた世界ではない。だが、この場所は必ずしも心落ち着く世界でもない。野戦病院のような場所なのだ。だから、やがてはここから出て行かなくてはならない。このお話の優しさはそこに尽きる。悲惨な現実が待ち受けることは重々承知の上だ。ここを出て行き、3姉妹が北朝鮮、韓国、日本とばらばらの場所に散っていく。そこでの悲劇を描くのではない。旅立ちを描くのだ。たとえ、今日がどんなに悲惨でも、明日はいい日になる、というテーマは安易な気持ちではない。確かな覚悟の想いなのだろう。

 

済州島から大阪にやってきた男と女はここで出会い、新しい家庭を作った。戦後27年を経て、ここから出て行く。自分たちが信じたものが壊れていくなかで、それでも生きていく。永遠なんてない。そんなことはわかっている。先週見た『万引き家族』もそうだった。この映画が描くものも同じだろう。この映画の期限付きの優しさをしっかりと受け止めたい。彼らだってわかっていたはずなのだ。だから愛おしい。悲しい。ここで生きると覚悟した父親はここを離れていかなくてはならないということを誰よりもよく理解していた。彼の諦念がこの映画を貫く。キム・サンホが素晴らしい。

 

 

 

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