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映画・演劇のレビュー

乗代雄介『それは誠』

2023-09-10 10:18:17 | その他

大切な修学旅行の1日、班別自由行動の日に彼ら4人は「日野」というところに行く。どこだ、そこは。なんでそこなんだ。

 
主人公の誠が行きたいと言ったからだ。彼はそこで暮らす2年前に別れた叔父に会いに行きたい。ただ、会うために、そんな誠のわがままにクラスの3人は貴重な1日を使って同行する。同じ班の女子たちも協力する。
 
誠は叔父さんに育てられた。だが、生き別れになった。15歳の時、諸事情から祖父母に引き取られて引き離されたからだ。そのへんの事情はあまり描かれないから、わからないけど、今回修学旅行で東京に行くから、叔父さんに会いたい、という想いだけははっきりしてくる。自由行動の時間を使って単独で叔父の家に行くつもりだった。だけど、クラスのメンバーは彼と行動を共にする。
 
たった1日を丁寧に描き、叔父との話ではなく、クラスメイトとの時間を全面に出す。人生でたった一度の貴重な高校の修学旅行を彼の勝手な心情に付き合って別の意味で特別なものにする彼らのささやかな冒険。
 
だいたい連絡もなくいきなり行っても叔父さんに会えるかどうかもわからないけど、彼は会えなくても構わない。行くだけでいい。それは彼にとってはひとつのけじめなのだ。
 
誠の旗のもと、まさか本当に1日を費やす彼ら。だいたい日野市ってどこなんだか、しかも新選組ゆかりの町(ここから彼らは京都を目指したらしい)だなんて行くまで知らなかったし。だが、この小さな旅が彼にとっては大きな一歩になる。そしてきっとたまたま同行した友人たちにとっても。これはそんな不思議な旅を描いた作品。これは乗代雄介のコロナ禍の旅を描いた傑作『旅する練習』の姉妹編になる秀作。
 

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