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映画・演劇のレビュー

南船北馬『さらば、わがまち』

2018-03-05 21:54:33 | 演劇

常に果敢に新しい挑戦に挑む棚瀬美幸の新作は、社会的マイノリティをテーマにした。オーディションで自ら社会的マイノリティであると自認する人たちを集め、彼らに自分を演じてもらう。もちろん、すべてが事実である必要はない。自分をモデルにした人物を演じるのだ。ベースとなるお話はソートン・ワイルダーの「わが町」なのだが、筋書きをなぞるわけではない。それどころか原作の骨子すら残さないくらいのオリジナルになっている(はず)。彼らの抱える問題と向き合う。オムニバス・スタイルで8人のキャストたちが自分の内面を告白する。もちろん原作通り、進行役(門田草が演じる)がいて、7人のお話をナビゲートする。

この町がどこなのかをあえて厳密にはしない。どこかの、どこにでもあるそんな町。一応大阪のとある町ということにしておこう、というくらいのこと。そこで暮らす8人の男女のお話だ。彼らがお互いにどういう関係性を持つか、ではなく、彼らがそれぞれ抱える問題とどうむきあっているのかが、テーマになる。そして、そこからどこに向かうのかが描かれる。タイトルにあるように最後にここから出て行くまでのお話である。狭い世界を棄てて、新しい場所へと向かう。だが、それは逃げでもないけど、旅立ちでもない。今までの日々の延長線上にある。

 

彼らが抱える問題はさまざまだ。聾者や身体障がい者、というわかりやすいものから、LGBT,在日という目に見えにくいものも、さらには日雇い労働者に元エリート会社員、シングルマザーまで。状況も事情も様々だけど、それぞれ自分の置かれた状況と戦っている。彼らの断片を拾い集めて紡いでいく。ドキュメンタリーのようなタッチで掬い上げる。一貫したストーリーを持たない。答えが欲しいのではなく、この現実と向き合う姿を見せたい。棚瀬さんはちゃんと見つめようという姿勢を貫く。自分自身を晒しながら、その先へと自分たちを進ませるために、この芝居がある。「さらば」というのは今までの自分に向けてのメッセージだ。それは演じる者だけではなく、当然、見ている僕たち観客に向けてのものでもある。

 

物語はやがて、『さらば、わがまち」というタイトルへとたどりつくことになる。彼らはこのまちを出ていくのだ。それはお話としてではなく、気持ちとして、である。ストーリーとしての必然性はそこにはないけど、ここではないどこかへ旅立とうという想いは確かに伝わる。今いる場所から逃げるのではなく、新しい世界へと旅に出る。この芝居はそこに至るまでのお話である。

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