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げきだん S-演s?『仮説『I』を棄却するマリコ』

2017-09-24 15:38:14 | 演劇

 

S-paceの10周年を記念して旗揚げされたコヤ付き劇団。民間の劇場が、新しく劇団を旗揚げするなんて、かつてなかったことではないか。劇団が自分たちの本拠地として劇場を持つということなら、今までもなくはなかったけど、劇場がまずあり、そこに劇団を作るのである。だいたい個人が自前で劇場を持つということは、普通はない。みんなしたいと思っていても、なかなか簡単にはできることではない。S-paceのオーナーである関川祐二はそれをやり遂げ、10年間維持してきた。そして満を持しての劇団設立なのである。思いつきの企画ではないことはわかりきっている。10周年のイベントとしての旗揚げなんかじゃない。ずっと企画を練り、考え抜いた末の旗揚げである。劇場創設11年目になる今年、ついに新劇団がスタートした。

 

劇団に集まったメンバーの中にはシニアも多数いた、ということに快哉を叫んだ。若い子たちが芝居にうつつを抜かす(?)のではなく、シニアが新しいスタートとして、集まり、芝居に挑む。しかも、よくあるシニア劇団を選ぶのではなく、新劇団の創立に関わる。安全圏で芝居に取り組むのではなく、ちょっと危険を冒すくらいのチャレンジ。なんだか、素敵な話ではないか。「関西での演劇の在り方に一石を投じる集団になっていきたいと思います」という挨拶文の一節は関川さんの確かな想いとして受け止められる。彼女たちのために3人芝居に2人のキャストを書き加えた(ダブルキャストになっているから4人)台本は結果的に作品に奥行きではなく、広がりを与えた。

 

さて、芝居自体も実に挑発的で、素晴らしい。まず驚いたのは、作者のはせひろいち氏にこの戯曲をS-paceのため書き直してもらう、という作業を依頼したこと。僕は関川さん自身が許可を得て、はせさんの本をS-pace用にリライトするのだろうと、思っていたから、劇場でそのことを聞いて感心した。一切妥協はしない。完璧を目指す関川さんの意気込みが伝わってくる。この戯曲はもともと、ウイングフィールドに当て書きされたものだ。劇場の構造を生かして書かれたもので、それは他の劇場でそのまま持ってこられるモノではない。

 

自前の劇場であるS-paceのために、もう一度この芝居を見直すところから芝居作りは始まったようだ。まず、そこでは、この劇場の構造を大切にして、戯曲が書き直される。電車の線路沿いにあること、住宅地にあること。2階建ての倉庫。正面のシャッター。広くて雑然とした空間。そんなことのひとつひとつに検証がなされる。

 

初演の深津演出とは違うアプローチがなされる。じっくり見せる。2時間という上演時間は台本の見直しによるランニングタイムの拡大だけではない。ミステリーだけど、謎解きに重点が置かれるのではない。冒頭の警察での聴取のシーンの緊張感と弛緩のバランスが見事だ。それは演じた斜あまりのキャラクターが生かされた。彼女だけではなく、メインキャストの3人が実にいい。まず、丁寧に彼らの役作りがなされてあるから、この不可解で難解な芝居から取り残されない。彼らを見ているだけで、少しくらいわけがわからなくても、大丈夫。これはまず、この場所のための芝居だ。ここに閉じ込められた女が何を見て何を思うかを追いかける。それだけで充分に楽しめる。シャッターの開け閉め、電車の音。それがアクセントになり、「I」を棄却するに至る心情が伝わってくる。取り残された男ふたりが(しかも、ふたりとも車椅子に乗っている)茫洋としている瞬間まで、2時間を堪能できる。

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