習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

妄想プロデュース『夜の瞳』

2010-12-08 09:34:29 | 演劇
 妻の浮気を疑う主人公が、探偵に調査を依頼する、というとっかかりの部分は悪くはない。だが、次から次へと広がっていく世界の収拾がまるでつかないまま、ありきたりなイメージの連鎖をドタバタとして見せていくうちに、見ている方が疲れてきてしまうのだ。もっとポイントを絞り込むべきだった。彼の中にある不安の正体を見極めるだけで充分おもしろい芝居になったはずである。

 ありえない幻を見て、怯える。彼の瞳の奥にいる女。浮気は妻ではなく、自分であり、それが現実の浮気ではなく、妄想の中でのことであること。夜の瞳に映った幻に取り込まれて始まる冒険。このストーリーライン自体には間違いはない。だが、過剰は時に作品の可能性すら摘んでしまうこともある。抑えるところは抑えて見せた方がいい。


 110分の芝居は果てしない堂々巡りを繰り返していく。説明のための説明が、余計に芝居を見えなくしてしまう。わかりやすさは必要だが、それは説明なんかではない。

 構造をシンプルにして主人公たちのエネルギーを爆発させ、それにドラマが突き動かされて行く。そんなふうに描けばいい。それこそが池川くんが目指すアングラなのではないか。自らの心の内に目を向けて、その混沌の中に潜む闇の正体を見極めるためだけにドラマを紡いでいく。その結果、ドラマは迷走に次ぐ迷走を繰り返していき、収拾がつかなくなるかもしれない。だが、それでいいではないか。自分の視点さえぶれなければ、話なんかどんどん横滑りしていってもかまわない。なのに、今回はへんにそれをまとめようとして、結果的に作品をつまらないものにしてしまった。

 作り手の中に迷いがあり、その迷いが自由な発想を損なっていく。これは見ていてかなりつらいことだ。走り屋3部作を通していろんなしがらみから自由になり、ここから新たなる旅立ちが始まるはずだったのに、残念でならない。

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