習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『凶悪』

2013-11-09 22:29:32 | 映画
噂の犯罪映画をようやく見た。ファースト・ランでは、見逃したので、もうDVD発売を待つしかないか、と思われたのに、今週イブニングショーで1回だけテアトル梅田で緊急公開された。おかげで、なんとか、見ることが叶った。

だが、期待が大きすぎて(だって、キネ旬でなんか、『復讐するは我にあり』を凌ぐ傑作だなんて、誰かが書いていたのだ。それはないやろ、とは思ったけど、いろんなところで目撃した、たくさんの評論で大絶賛されているから、期待が大きくなるのは当然だろう。まぁ、普段は人からの情報は、あまり見ないのだが、今回はなぜか、いろんなところで、見てしまった。それくらいに、なかなか見れなかったことが気になっていたのだろう。)少し、がっかりした。悪くはないけど、そんなには、凄くはない。噂のリリー・フランキーは『そして父になる』のほうが、ずっと凄いと思った。

だが、この裏淋しい雰囲気は悪くない。地味な映画で、低予算の作品なのだが、とても丁寧に主人公を追っていて、この映画に賭ける白石監督の誠実な姿勢が伝わる。主役のジャーナリスト山田孝之は、受身の芝居で、前に出ることは一切ないけど、とても、いい。当然、この映画を引っ張るのは、ピエール瀧演じる死刑囚だ。彼の圧倒的な迫力の前ではすべてが無となる。刑務所の面会室で山田と彼は対面し、話す。この図式は『羊たちの沈黙』と同じだ。そこからすべてが始まるのも、同じ。

やがて、瀧が語る先生と呼ばれる男の不気味な姿が立ち現れてくる。ここまで、とても緊張感があるし、凄い映画を見ているという予感に包まれる。そして、満を持して先生が登場してくる。もちろんリリー・フランキーである。彼の不気味な笑顔をおぞましい。だが、僕たちはもうあのピエール瀧を見ているのだ。残念だが、期待が膨らみすぎた。

しかも、山田と先生が対面するシーンはラストまでない。先生はリアルタイムでこの清雅の中に登場するのではなく、話の中で回想シーンとして描かれるばかりなのだ。ここが、弱い。

先生が捕まるシーンと、法廷での姿、そして、ラストの面会。これだけしかリアルタイムの彼は描かれない。もちろん、そこもまた、作者の狙いなのだが、それだけではこの男の心の闇は描けない。

リリー・フランキーが登場したシーンから後で、映画は失速する。僕が読んだ評論では誰もその事実には触れられていないのはなぜか。力作であることは、認める。(この手の映画としては幾分長めの2時間8分という長尺である)。だが、終盤モタモタするし、山田の家族のシーンが取ってつけたようで、あまりうまく描けてない。(妻の池脇千鶴は相変わらず上手いのに)

  いい線まで、行っているけど、残念な仕上がりだ。





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