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映画・演劇のレビュー

村山早紀『百貨の魔法』

2018-01-28 17:59:10 | その他

 

5つのエピソード。5人の話。地方のとある百貨店を舞台にした群像劇だ。百貨店という今ではもう消えていこうとする魔法の場所。風早という街にある創業50年を迎える星野百貨店。今では、郊外のショッピングモールに客を奪われて、もう少しで閉店か、という噂が飛び交う。時代の流れに抗えず、その使命を終えようとしている。これはここの守り神である魔法の白い猫を巡る夢のような物語。

 

エレベーターガール、新人のコンシェルジュ、宝飾品のフロアマネージャー、テナントのスタッフ、資料室の女性。等々。それぞれのエピソードも複数で主人公がいるから、5人のお話というわけではない。実は話の中心には新人コンシェルジュがいる。最後は、謎の女である彼女の秘密を巡る話になる。ここを愛する人たちの想いがつまった作品で、昭和の時代、百貨店が夢の場所だった記憶を大切にしながら、それが失われていくことを、哀切を込めて綴る。

 

この百貨店に入っている書店を舞台にした前作、『桜風堂ものがたり』の姉妹編のような作品だ。前作があまりに素晴らしかったから、最初は「少し、弱いな、」と思いながら読んでいたのだが、読み進めるうちに、これにはあの作品とは別種の魅力があるのだ、と気付く。僕はこういうアプローチって好き。安易な続編ではなく、その世界観を引継ながらも、全く別の展開を見せる。メルヘンなのだが、リアルな世界に根ざす。だってここはかつての夢の場所であり、今もここでは夢が売られているのだ。残念だけど、夢見る「お客様」が、少なくなっただけ。

 

百貨店という夢のありか。でも、そんな夢は今の世知辛い時代、通用しない。悲しい哉、夢を見ようとしない今の人々と、昔ながらのこの場所が齟齬をきたしている。なくなるものはなくなるしかない。でも、彼らは最後まで、ここにいる。いつでも、ここを必要とするお客様を迎える準備をして。これはそんな人たちの胸熱くなる物語。

ジャンル:
小説
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