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映画・演劇のレビュー

たなぼた『台風一過』

2019-02-07 21:44:46 | 演劇

 

こういうタイプの家庭劇って最近少なくなった気がする。とてもオーソドックスな芝居だ。特別なことは一切ない。ある家族の風景を切りとる。父親の3回忌の法要に集まった家族の1日。昼過ぎに実家に帰ってきたところから始まり、接近する台風のさなか、その日の夜の団欒が描かれる。台風が近付くドキドキが子どもの頃を思い出させる。4人家族だった。典型的な核家族だ。人と人とのつながりが希薄になってきた今という時代に一家団欒の風景は懐かしい。過去のものになろうとしている。この家族もそうだ。2人の子どもたちは大人になり家を出て行き、老夫婦は2人暮らしだった。3年前に夫が死に、母親はここでひとり暮らしをしている。2人の子どもたちもそれぞれ自分の家族を持ち、独立している。4人家族が別々に生活する(父親の不在は、彼が死んだためなのだが)風景は今の時代、目新しいものではなく、当たり前のものになっている。唯一ドラマチックな展開を見せる父親の秘密を巡るお話も、さらりとした描き方で悪くはない。これは基本的には何も起きない話でいいのだ。

 

こんな時代に、再び家族がみんなで集まり、一夜を過ごす時間は愛おしい。それだけでいい。そこから家族の再生とか復活とか、そんなものを描くわけではない。過ぎ去った過去を追い求めても意味はないし、不可能だ。今の自分たちの在り方、今後のこと、そこを見いだすことが大切であるということは言うまでもない。台風一過、さわやかな朝の風景で幕を閉じる。お約束である。

 

彼らはまた日常に戻り、再び別々になって生活するが、ひとりここに残される母親は決して不幸ではない。子どもハウスのボランティアを通して彼女は外の世界との関わりを持つ。彼女は決してひとりではない。地域のコミュニティが彼女を支え、ここにはいない子どもたちも離れてはいるが、ちゃんと彼女を守ってくれるからだ。だが、それは60代の母親だからできることで、彼女が80代になり自由に動けなくなったなら問題が生じてくる。だが、それはこの芝居においてはまた別のお話である。介護が必要になると、状況は変わる。

 

ひとり暮らしの母親が、自身の寂しさと向き合いながらも、けなげに生きていこうとする姿を描くことがこの作品のテーマであり、それを夫の三回忌の法要の後の短い時間を通して描いた。これはそんなささやかなドラマなのである。

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