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映画・演劇のレビュー

加藤千恵『卒業するわたしたち』

2014-02-07 23:42:38 | その他
 この歌人の作者が書く短編集は、短歌のような味わいがある。余白がたくさんあるように見えて、俳句のようにはそれが多くはない。どちらかというと、ちゃんと言いたいことが20ページにも満たないほどのコンパクトな分量の中に収まりきれている。上手い。

 13篇から成る短編連作だ。お題はいずれも「卒業」。もちろん、学校からの卒業が中心になるけど、13とも一応すべて微妙にシチュエーションは異なるようには設定されている。でも、あまり厳密ではない。もちろん、そのほうがいい。型にはまったものより、自由度の高いもののほうが、面白いからだ。

 ただ、読んでいて、中途半端な感じは否めない。瞬間を切り取るには長すぎて、でも、ドラマになるには短すぎる。そんなもどかしさが魅力になればいいのだが、そうもいかない。だから、それを中途半端と呼ぶ。

 中3の吹奏楽部の女の子が一つ年下のクラブの後輩を好きになる話が一番よかった。卒業を目前に控えた時間。残された日々の中で、彼と過ごす時間なんかもうほとんどない。だいたい「彼と過ごす」なんていうシチュエーションすらないからだ。クラブは引退しているし、授業はもうあとわずかしかない。校内ですれ違っても挨拶くらいしかしない。できない。卒業すれば、たぶん、もう会うこともない。そんな時間が描かれる。もちろん何も起きない。

 なんだか、切ないなぁ、と思う。ここに収められた作品はいずれもそういう話ばかりだ。そこがいい。でも、うあはりこれでは単調。仕方ないけど。こういう小説はなかなか難しい。さりげなさを武器にして、そのくせどこかに、ひやりとさせるような刃物を仕掛けなくてはならない。でも、この作品集は全体的に作りが甘すぎる。



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