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映画・演劇のレビュー

『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』

2016-12-23 10:24:17 | 映画
今年2本目の三木孝浩監督作品だ。夏の『青空エール』はあまりのパターンにうんざりさせられるような企画だったのに、それを逆手に取り、新鮮な作品に仕立てていて、さすが、と思わされた。デビュー作『ソラニン』から一貫して青春映画を撮り続け、(『くちびるに歌を』のような作品もあるけど、あれだってある種の青春映画だと呼べる)なのに常に新しい作品を作り続ける。そのモチベーションの秘密ってなんなんだろうか。それぞれの作品で描かれるのは別人によるひとりひとりのかけがえのないドラマなのだ、という当たり前の認識が彼の中にはあるのだろう。だから、同じような青春映画なのにひとつとして同じ話はない。



今回はちょっと特殊な話だ。いつもの、どこにでもあるような恋愛映画ではない。だが、こんな題材であろうとも、彼はいつものように「初めてのこと」として描く。変わらない姿勢を貫く。ただ、この特殊な仕掛けはお話を不自由にする。ここではもう帰着点が決定している。30日後、ふたりは離れ離れになる。そのことが彼女には出会う前からわかっているし、彼だって15日目で気付くことになる。映画は始まってちょうど半分のそこで、メインタイトルが出る。この後すぐ『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』のだ。ここからは、その痛みを抱えながら過ごす後半の15日間のお話である。



彼女の抱えてきた痛みを理解して、自分もこれからそれをちゃんと受け止めて生きていこうと決意したところからこの映画は本当のスタートをする。だから、映画が始まって1時間近くが経ったところで、メインタイトルが出るのだ。奇を衒ったのではない。そこで始まるからだ。それは諦めではない。覚悟をして、受け入れて、生きる。たった30日間の恋。でも、それが一生に値するものになる。映画ならではのロマンだろう。とても切ない。現実ではなかなかないようなお話を映画はちゃんと提示できる。それは『ローマに休日』の時代から、ずっと続く映画の王道なのだ。



先月公開の『溺れるナイフ』に続いて、ここでも小松菜奈がすばらしい。今まで彼女のことは(個人的に)あまり好きではなかったけど、今回の清楚で芯の強い女性を演じきった彼女を認めないではいられない。すばらしい。どこにでもありそうな恋愛を通して、運命の人との生涯をかけた命がけの恋をする。簡単そうに見えて、これは難しい。泣いてばかりの女の子をリアルに演じる。嘘くさくなるとそれだけでこの映画は終わる。芝居臭くなるともっと簡単にエンドである。そんな危険な綱渡りをやり遂げた。



主人公2人以外ほとんど誰も登場しない映画である。この映画の描く世界には彼らしかいない。彼らにはお互いしか見えないからだ。それはより切実になる映画の後半顕著になる。前半は恋に浮かれていたから周囲が見えない、ということで納得できるけど、後半戦はそうじゃないからだ。彼女を受け止める福士蒼汰もすごくいい。理不尽に気づいたとき、最初は混乱してパニックになるけど、相手のことを想うことで自分の愚かさに気づき、彼女に負けないように15日間を生きなくてはと思う。こういう強さがこの映画を支える。アイデアだけのお話ではなく、ちゃんと血の通った作品にして観客を夢心地にしながら、感動させる。さすが三木孝浩だ。
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