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映画・演劇のレビュー

くじら企画『海のホタル』

2019-01-25 22:31:23 | 演劇

 

大竹野没後10年記念公演として、くじら企画が再演したのが、この作品だったということに驚きを禁じ得ない。なぜ、『海のホタル』なのか。これはあまりに暗すぎる。しかも、わけがわからない。大竹野は、たった2作品だけ、女性を主人公にした作品を書いている。その2本のひとつだ。もう1本の作品『夜、ナク、鳥』もすでに再演したが、いくらなんでも、こちらはしんどい。

 

だが、今回数ある作品の中からこれを選んだ。これは大竹野らしくはない歯切れの悪い作品だ。だが、この気味の悪さは、大竹野の感じていた女たちへの想いなのかも知れない。女は怖いし、よくわからない。その闇の部分に迫ろうとして討ち死にした、って感じだ。

 

今回この芝居のヒロインを林加奈子が演じる。作品の選択は、彼女からのリクエストだったらしい。最初はおどおどしながら、だんだん開き直って、最後は絶叫する。女の心の中に或るどうしようもなさが理屈ではなく描かれていく。訳のわからないドロドロしたものが渦巻く。バカな男に騙されてしまう愚かな女のフリをして(いるようで)、実はそうではない。だが、それは「したたか」という訳でもない。つまらない男と結婚して、なのに、彼を棄てられなくて、でも、彼を殺し、大事な子どもにさえ手をかける。自らの力で破滅していく。

 

書きながら大竹野自身もこの女がわからなかったのではないか。でも、彼女に引き摺られるようにして、書き上げたのかもしれない。殺される息子を演じる森川万里の「お母さん!」という声が、作品全体を強引に終息させる。理にかなわない絶叫を見事に1人芝居で見せきった林加奈子の後を浚っていく。殺されても母親を慕うか。そこには何があるのか。親子の愛だとか、そんなきれいごとでは済まされない。

 

数ある作品からこの作品を再演した。演出の後藤小寿枝(「くじら企画」名義)は、大竹野演出では出せなかった答えへと行き着いた。くだらない男たちに翻弄されながら、彼女がたどり着いた場所が見事に提示されるラストが感動的だ。お金を使い、お金に身を滅ぼされ、お金のために息子すら殺し、それでも生きている女のおぞましさ。それを「わからないもの」としてではなく、「愚かなもの」としてでもなく、混沌とした「闇そのもの」として提示する。深くて暗い闇の底から聞こえる「お母さん」という叫びを聞け。

 

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