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映画・演劇のレビュー

エイチエムピー・シアター・カンパニー『忠臣蔵・序 ビッグバン 抜刀』

2018-07-08 20:55:12 | 演劇

 

アイホールで2週間のロングラン興行中のこの作品は見逃せない。今回も『四谷怪談』に続いて2バージョンによる公演だが、今回はどちらか1本にしよう、と思ったのに、はやり2本とも見てしまった。笠井さんは絶対にどちらも見なくては、と思わせる仕掛けを用意し、もちろん、観客を満足させる。

それにしてもこの話は一体どこにむかうのか。見終えたとき、茫然とさせられた。この大胆な解釈に圧倒される。柳沢が下す政治的判断が、彼の首を絞めることになる。だが、吉良、柳沢、大納言という全員悪人に立ち向かうことになる大石という図式が弱いからエンディングがいまいち盛り上がらない。柳沢は綱吉を操っていたはずが、自信が持てなくなる。自分の判断は綱吉の判断だ、と言い切っていたはずなのに。大納言や吉良に翻弄される。

 

お話の面白さ、それを見事に見せる演出の力に引き込まれる。僕が最初に見たのは男性たちが演じヴァージョンだったのもよかった。完成度には劣るこちらは、納得に行かないところも含めてとても魅力的だ。

 

さて、この芝居は「忠臣蔵」を3部作で描く連作になる。原作は『仮名手本忠臣蔵』なのだが、お話の中心を政治劇として設定して、大胆な脚色(台本はくるみざわしん)を施す(まだ、第1部なのでこの後の展開はわからない)ようだ。今回は「抜刀」までを描く。単純なエンタメではないが、あっと驚くストーリー展開(解釈)にハラハラドキドキさせられる。浅野内匠頭と吉良との確執をお話の中心に置き、松の廊下での刃傷劇から一気に浅野の切腹までをクライマックスに持ってきて、畳みかけるように見せる。

まず、正攻法で見せる松組(男性だけのヴァージョン)を先に見て正解だった。完成度の高い亀組(女性ヴァージョン)はお話の細部がクリアに描かれるので、こちらから見ると、イメージが限定されてしまうのではないか。お話の全体像を曖昧なまま見せることになった松組はとんでもないことが起こるのではないかという予感のようなものを感じさせるところがいい。役者たちが広い舞台を縦横に使い、壮大なドラマの幕開けを混沌としたまま見せていく。役者たちが決して上手くはないから、そのぶん、ドラマに余白が生まれ、想像力が刺激される。お話の核となる柳沢吉保を演じた竹内宏樹が強引さと弱さを合わせ持つ微妙なキャラクターを好演している。終盤の大納言(坂本正巳)との駆け引きのシーンが白眉。それに引き換え、ラストの大石と吉田のシーンが弱いのが難点。

 

 

その点、亀組は完璧すぎるくらいの完成度。役者たちが上手くて、安心して見ていられる。主役の2人もキャラクターの描き分けが明確。森田祐利栄の吉良の小心者、米沢千草の浅野の正義漢を中心にして、柳沢の水谷有希の圧倒的なかっこよさ、と、とてもわかりやすい図式。当然、はたもとようこ、条あけみによる大石、吉田コンビが見事にラストを締めてくれる。だが、上手すぎて余白がないのが難点。こちらは狭い空間で濃密なドラマを展開する。

 

舞台装置の表側と裏側をそれぞれ舞台にして、両サイドに客席を用意し見せるという大胆な劇場の使い方は空前絶後の仕掛けだろう。それを同じ台本まるで違うキャストで見せる。

 

そして何よりの見どころは、忠臣蔵というテキストを使って、日本では起きたことのなかったクーデターを描こうとする野心作であること。仇討ちが「革命」へと向かうのだ。合言葉「忠臣」が「中心」に向かうドラマなのである。本来なら主君に向けての(はずの)「忠臣」が、誰にむけての「忠臣」へと進化していくか、そこがこの作品のメインテーマとなる。敵は吉良ではなく、そのうえにいる柳沢ですらなく、今回は姿を見せない将軍(徳川綱吉)であり、さらには天皇であるということが最初からはっきりと明言される。倒すべきは幕府だけではなく、天皇制に対してもその刃を突き付けてくる。

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