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映画・演劇のレビュー

佐藤まどか『一〇五度』

2019-08-03 09:09:17 | その他

 

こういう小説を読むとなんだか元気になる。それが児童文学であろうと、YA小説と言われるものであろうと、そんなことはどうでもよろしい。面白ければなんでもいい。これは昨年の課題図書に選ばれた作品なのだけど、中高生向けのはずなのに、専門知識を網羅して容赦ない。なのに、とてもわかりやすい。しかもマニアックな作品にはならない。読みやすく、ストーリーの面白さでどんどん引っ張っていく。コンクールに参加してどうなるかというようなよくある展開もあるのだが、そこがお話のメインではない。

デザイナーを目指す真とモデラ―を目指す梨々14歳の少年少女が自らの夢に向かって邁進していく姿は感動的だ。大人の挫折ではなく、子どもの夢への旅立ちがこんなにも心地よい。もちろん、簡単なことでなかろう。彼らの夢がかなうかどうかはわからない。でも、今はそんな未来なんかどうでもいい。今この瞬間を大事にしたい。中学3年になったばかりのふたりの男女が同じ夢に向かって手を携えていく。椅子作りなんていうマニアックな夢だ。そんなものを共有できる相手とたまたま出会い、そこから始まる夢の続き。

現実と向き合うのではなく、今を生きる。そんな14歳の冒険が描かれていく。自分たちの椅子作り。コンペへの出品。そこで描かれるのは日常のスケッチだけど、それがこんなにも素敵なひと夏の冒険譚になる。

14歳はまだ子どもだから、父親が怖いし、刃向かえない。でも、自分の夢は曲げたくはない。現実世界は彼が思うよりも厳しい。そんなこと父親に言われなくても想像がつく。だが、実際に大人の人たちからいろんな話を聞いたとき、さすがに凹む。それでは父親の思うつぼだ。ただ、それで諦めるわけにはいかない。話に通じる友と出会い、2人で夢に向かって少しずつ前進していく姿が美しい。1人では出来ないことがふたりなら出来る。一〇五度でお互いにもたれ合いながら、生きていく。2人の関係は恋ではなく、同志だ。こういう友情が成立する、そんな時代が美しい。この小説が素晴らしいには14歳という微妙な年齢だから出来ることをちゃんと描いてくれたところにある。

 

 

 


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