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映画・演劇のレビュー

『キャプテン・フィリップス』

2013-12-26 20:56:19 | 映画
 これはトム・ハンクス入魂の一作であり、社会派ドラマの傑作だ。ただのアクション映画ではない。『ボーン』シリーズのポール・グリーングラス監督が、今までの手法を縦横に駆使して、このドキュメンタリードラマの王道を行く大作を作る。2009年ソマリア沖で起きた海賊によるコンテナ船強奪、船長の拉致事件を題材にした作品だ。

 派手なアクション映画を思わせる宣伝だが、そうではない。しかも、後半は救命ボートの狭い船内を中心にした密室劇だ。その小さな空間と、米軍の空母を中心にした大掛かりな救助チームとの対比でぐいぐい見せていく。力技ではなく、実にきめ細やかな描写の積み重ねから、犯人側と人質にされた船長との駆け引きをリアルに見せる。どうしようもない膠着状態をじりじりと見せていきながら話を引っ張るストーリーテリングの見事さ。映画は、その狭い空間とも相俟って息が詰まるような緊張を強いる。

 前半のアクションシーンとの対比も鮮やかだ。船が乗っ取られるまでの駆け引きも面白いし、その後の船内での船員たちと犯人側のドラマも実によく出来ているだけに、それだけで最後まで見せるのかと、思いきや、実は救命船という密室でのドラマが後半に用意されているし、こちらのほうが、さらに凄いことになるのだから、この2段構えは、見事と言うしかない。そして、ここでのトム・ハンクスがまた凄いから、この映画は成功したのだ。

 強靭な肉体を持った正義の人(たとえば、ダイハードね)ではなく、ただの年配の船長が、でも、自分の職務に忠実な彼だからこそ、乗り切られる過酷な状況を、ドキュメンタリー・タッチを生かして、とてもリアルに見せてくれる。これは簡単なことではない。監督と役者との信頼関係がなくては成立しない。娯楽アクション大作を期待して劇場に足を運んだ観客は思いもしないシリアスなドラマに驚くと思うが、自分が今見ている凄い映画に取り込まれて、安易なアクションでは得られない興奮と感動に出会うこととなるだろう。2時間14分という長さを感じさせない。見終えた時にはホッとすると同時に深い感銘に包まれる。これはこのお正月一番の大作映画である。(なのに、日本ではヒットしない)


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