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映画・演劇のレビュー

『ゲティ家の身代金』

2018-06-03 08:21:19 | 映画

 

リドリー・スコットによるサスペンス映画。誘拐犯と被害者家族、警察による捜査。黒澤明の『天国と地獄』を彷彿させるのだが、(あの映画の原作は『キングの身代金』で、タイトルも似ている)この映画も黒澤映画に匹敵する傑作。巨匠リドリー・スコットによる会心の一作になった。とんでもないトラブルに巻き込まれて映画は一時、完成しないかもしれないという状態になったのだが、まさかの主役交代再撮影で切り抜けたらしい。(そこも黒澤映画に似ている。状況は違うけど、『影武者』がそうだった。)

 

2転3転するストーリーの妙。最後の最後まで展開が読めない。犯人側とのやりとりも警察はお座なりで、被害者側がリードしていく。マスコミがその邪魔をするという図式。(犯人側と変わらないくらいに面倒くさい。)誘拐された息子を母親(ミシェル・ウイリアムズ)がたったひとりで奪い返そうとする、という話なのだ。でも、単純な母親の奮闘劇ではない。彼女がヒーローになって事件を解決するとかいうのなら、又これは別の映画になってしまうし。だいたい現実は映画じゃないんだから、簡単にそんなふうにはいかないのだ。まぁ、これは映画だけど。実話の映画化ね。(マーク・ウォールバーグが助けるのだが、このプロ中のプロですら手の打ちようがないという展開になる)

 

そして映画の要はクリストファ・プラマー。彼が演じる祖父だ(彼がケビン・スペイシーの代役として撮影がほぼ終了していた映画に、事件発覚後後急遽主役として再撮影に入っていったようなのだ)。世界一の大金持ちである彼が孫のためには一銭も出さない、と身代金の支払いを拒否するところから話は始まる。

 

これは実は犯罪映画ではなく、どちらかというと、お金を巡る映画なのだ。金に執着する老人。そのくせ家族の絆にもご執心だ。この男の内面はまるで見えない。もちろん、想像することはいくらでも出来る。でも、納得のいくものにはならないのだ。こんなにもわかりやすいのに、単純ではない。わかりやすい「金の亡者」という枠組みからいろんなものがこぼれ落ちる。お金は人を狂わせるとはよく言うことだが、この映画の彼の執着は何なのだろうか。ラストで死んでいくところでも、心を閉ざして、見えない。説明は一切ない。でも彼の姿を見ているとその圧倒的なものに困惑させられる。

 

シンプルな内容なのに、それぞれの内面が錯綜して、ストーリーと人間ドラマの両面から2時間13分息つく間もなく怒濤の展開を見せる。なのに映画は感情的なドラマではなく、クールな映画なのだ。ひっそりと公開されているけどこれは文句なしに必見の1作。

 


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