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映画・演劇のレビュー

おたより百景『そっと触れた壁の中に名も無い花の気配』

2018-09-30 18:30:41 | 演劇

水木たねによる一人芝居 。オダタクミの作、演出。台風のため初日である9月29日(土)19:30の回だけで公演が終了してしまった。要するに初日の上演がイコール楽日となってしまったのだ。そんな貴重な舞台を幸運にも僕は目撃することが出来た。観客は15人。(ワンステージ15名限定なのでそれで満席)特別な観客になった。 会場のnyi-maには初めて行ったのだが、すごい場所にある。なんとなく行っても、たどり着けないだろう。そういえばオダさんは最近ずっとこういう不思議な空間ばかりで公演をしている。いろんなところに連れて行ってくれるのが楽しい。ここはふつうの民家を改造して1階は飲み屋、2階が劇場仕様にしている。(とは言え、名ばかりの劇場で「ただの部屋」なのだけれど)そんな生活感あふれる場所で、今回の芝居も上演される。そして、それがこの内容というのが、凄い。

殺されて壁の中に塗り込められた女が、男の帰りを待ち続ける、というお話。エドガー・アラン・ポーの『黒猫』である。芝居の前半は、彼女がもう死んでいるということは明かされない。監禁ものか、と思わせる。鎖に繋がれ、男を待つ。何がどうなっているのかも、明かされないからドキドキする。しかも、彼女は男とのセックスを妄想する。そんな生々しい描写がこの古い民家のただの部屋の中で語られるのだからそういう意味でもドキドキは倍増する。

ただ、彼女が死んでいるという事がはっきりした後の展開は単調になる。ストーリーの流れが直線的になり、彼女の内面がブレなくなるからだ。男に殺されて壁の中に埋められて、なのに、そんな男をまだ信じて待つ、という愚かさ、切なさがもっと描きこまれたなら、お話に奥行きができたのではないか。殺されても好き、と言える、殺されたことを信じきれない、というふうにも描けれる。そんな可能性がこのお話にはあったはずだ。つまらない男に殺された女の孤独な心情。彼女がなぜそんな男を好きになってしまったのか。それがセックス描写の生々しさを絡めながら、描けたなら凄い作品になったかもしれない。

暗転になり、真っ暗のままで、語られる殺された部分の描写が説明的になるのも残念だ。それだけで完結させるのではなく、もしかしたら彼はこの部屋に戻ってくるのではないか、というサスペンスがそこにあってもいい。どこからが妄想でどこまでが現実なのかを曖昧にして観客を含めて煙に巻くべきだ。

水木たねの熱演が素晴らしいだけに、お話のほうがあまりに素直になりすぎたのが惜しまれる。オダさんが役者に寄り添い過ぎて、この物語との距離感をなくしたのではないか。でも、彼のそういう優しさが、この水木さんの芝居を引き出したのだ、とも言える。ここからは確かに「ひとりの女の孤独な叫び」が伝わってくる。

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