習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『チャイルド44』

2015-07-11 20:44:01 | 映画
ひとりの少女の殺害事件を発端にして浮かび上がってくる40数名に及ぶ子供たちの連続殺人事件。しかし、当局はこの国には殺人はない、という前提のもと、すべてを闇に葬ってしまう。1950年代、スターリンによる独裁政権下、社会主義国家は、恐怖政治のもと、個人の自由はなく、暗黒社会だった。本当のことは言えない。いつ、誰による密告で告発されるかも知れない。怯えながら生きるしかない。権力は平気でなんの罪もない市民を拉致して殺す。そんな不安と緊張の日々。文革の中国を描く映画でもよく描かれたパターンである。

30年代から始まる。孤児だったひとりの少年が、レオという名前を与えられる。成長した彼(『マッドマックス』のトム・ハーディが演じる)は戦場での活躍からやがて、国家のヒーローとなり、今では権力の側にいる。しかし、両親を殺された2人の少女との出会いにより、運命が変えられていく。きっかけは必ずしもそこではなかったけれども、複雑に絡み合うさまざまな出来事を通して、そんなことになってしまう。

体制の側に立っていたはずの人間が、自分の意思を貫くことで追い詰められていく。だが、それでも、自分の信念を曲げず、真実にたどり着くまでの壮大な物語が2時間17分の大作として描かれる。

重くて暗い映画なのに、全く苦にならない。ソ連映画ではないけれど、昔のソ連映画のような重厚さ。しかし、重厚なのにスリリング。緊張感が全編を貫く。ラストまでスクリーンから一瞬も目が離せない。

どれほど過酷な状況にあろうとも、最後まで自分を信じて戦う主人公レオが眩しい。ただのヒューマン映画ではないし、もちろんただのミステリーでもない。しかし、そのいずれも満たしている。どんな時代にあろうとも、それしかない、と思わせてくれる。これは凄い映画だ。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『進撃の巨人 後編 自由の翼』 | トップ | 劇団清水企画『たぬき』 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。