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映画・演劇のレビュー

『凪待ち』

2019-07-05 23:57:23 | 映画

どんどんダメになっていく男を描いて、こんなにも魅力的な映画が成り立つってすごい。ギャンブル(競輪)に嵌ってだらしない毎日を送る中年男を香取慎吾が演じる。体にはだらしなく肉を付けて、こいつはダメだな、と無言で伝える。仕事を首になり、都会から(といっても川崎)から6年間付き合っている女(西田尚美)の故郷である石巻に移り住む。彼女の実家でお世話になり、印刷工の仕事を得る。再起を期すのだが、当然のようにまたギャンブルに染まる。どこまでも落ちていくしかない男を香取慎吾は見事に見せていく。どこまでも自然体で、こんなにもダメな男なのに、彼から目が離せない。憎めない男だから、というのではない。彼の存在自身がスリリングだからだ。何も起きなくてもスクリーンから目が離せない。2時間4分、緊張感の持続は途切れない。

そして事件は起こる。彼女が殺されるのだ。だれが何のために、という犯人探しにはならない。そこから生じる問題が描かれる。まず、葬儀。内縁の夫という立場から葬儀でも身の置き場がない。残された彼女の娘と父親との同居も、彼女がいなくなった以上続けられない。この先、どうしようもない。映画は犯人探しにはならないから当然復讐に燃えるとかいう展開もない。

ストーリーで引っ張っていくのではなく、彼の姿をただ追いかけていくだけ。でも、それがこんなにもドキドキさせる。震災から8年という背景もきちんと描きこまれる。復興のお話にも、なるはずはない。この閉塞感、停滞したままの苛立ち、戸惑い。一人の男を見つめることで、そこから見えてくるものを、描こうとする。そんなミニマムな視点から、この映画は、この国の未来すら見据える。震災で受けた打撃からの復興は簡単ではない。海岸に不細工な防波堤が作られ、海と分断される。そんな光景はこの男とはなんの関係ないはずだが、ここで暮らすことで、それらは彼の今となる。

こんな地味な映画が作られて公開される。なんかすごい。しかも、元アイドルだった香取慎吾が平然と演じる。

 

 

 


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