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映画・演劇のレビュー

『トゥルーグリット』

2011-03-30 20:45:45 | 映画
 14歳の少女が、父を殺した男に対して天罰をくだす。こういう単純な復讐だけを描く西部劇って、今時、めずらしい。というか、西部劇自体が、今は作られること自体、めずらしいことではないか。コーエン兄弟の作品でなかったら、日本公開はなかったのではないか、と思わせるほどに地味な内容の映画だ。

 もちろんこれは今年のアカデミー賞10部門ノミネートの大傑作なのだから、コーエン映画でなくても、日本でも上映はされただろう。だが、それにしてもこれはあまりにクラシックで、今の観客の興味をそそるとはとても思えないような作品だ。しかし、何も考えずに、まず見ろ。予備知識なんか、何もいらない。そうすると、あなたは「本物の映画」と出会うことが出来る。

 題材がどうのこうのなんかどうでもいいことだ。本当の映画がそこにはある。この単純なウエスタンが、僕たちの魂を射抜くこととなる。出来ることなら、大きなスクリーンで見ることをお勧めする。予告編の後、本編が始まるとき、どどん、とシネスコに広がるスクリーンが望ましい。心ゆくまでこの作品を楽しんでもらいたい。今の時代、封切りから1週間で劇場に行かなくては、なかなか大きなスクリーンでは映画を見ることが出来ないが、映画館はこの作品に少しでも長く大スクリーンでの上映を続ける努力をして欲しい。そのためにもできるだけたくさんの観客が劇場に詰めかけることを切望する。アカデミー賞は『英国王のスピーチ』にやられてしまったけど、気にすることはない。そのことでこの映画の魅力が損なわれたわけではないのだから。

 真の勇気(トゥルーグリット)を描くこの物語は、小さな少女の大冒険であり、そこでは彼女の行為に正当性はあるのか、とかそんなことは、もうどうでもいい。正しいか、間違っているか、ではなく、確信を持って、彼女が父親の敵討ちをする。それだけだ。

 しかもそれは決死の覚悟ではなく、彼女にとってただ当然の行為であり、冷静沈着に行動し、目的を達成する。これは勇気ではなく、指命だ。そのためには表情も変えず職務を遂行する。なんてかっこいい少女なのだろう。彼女の前に出ると、ジェフ・ブリッジスの凄腕の酔っぱらい保安官も、マット・デイモンのテキサス・レンジャーも、全く形無しである。こんな子供なんて、相手にする気もないと舐めてかかっていた2人が、最後には、彼女にひれ伏すことになる。彼女こそが黄金のパートナーなのだと認める。

 とても凛々しくて、タフだ。最後まであきらめない。この少女を演じたヘイリー・スタインフェルドはこの映画1本で、アカデミー助演女優賞にノミネートされたらしいが、それは間違いだ。彼女は主演女優ではないか。名優2人を従えて、堂々主役デビューを果たしたこの少女に乾杯!


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