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映画・演劇のレビュー

額賀澪『世界の美しさを思い知れ』

2022-03-08 09:31:08 | その他

これはまぁ、大胆な小説だな、と思いつつ読み始めた。今人気の有名俳優が自殺した。順調なキャリアで、問題なんかなかった、はず。突然の自殺にファンも家族も戸惑う。撮影中だった主演映画は未完のまま。双子の兄は弟の死を受け入れきれない。残されたスマホの情報から、死の謎に向き合う。もちろんこれはフィクションだけど、やはり三浦春馬をイメージして読んでしまう。

自殺の日の直後、礼文島に行く予定だったことを知る。飛行機とホテルの予約が入っていた。彼の代わりに旅に出る。死の原因を知ることができるかも、と思う。お話はここから始まり、弟の消息(死んでいるけど)をたどる旅が始まる。マルタ島、台中、ロンドン、ニューヨーク、ラパス。世界中を回ることになる。だが、そこから弟の死の謎が解明されることはない。だけど、「何か」が見えてくる。タイトルにもあるように、世界は美しい、という「何か」が。

今朝、たまたまこの本を持って久しぶりに小さな旅に出た。今日からしばらく毎週1日、青春18切符を片手に日帰りの小さな旅に出ることにした。今回は兵庫県の坂越に来た。ちいさな町だ。電車の中でずっとこの本を読んでいた。2時間ほど。駅に降り立ったのは、僕ひとり。歩き始める。いいところだった。ささやかな観光地だけど、ほとんど誰もいない。

この小説の主人公と同じように、なんとなく、いきなり、の旅だ。そこに行ったからといって何があるわけでもない。だけど、そこで誰かと出会い、少しだけ、関わり、美しい風景を見る。知らない町を、たったひとりで、ほとんど何のあてもなく歩く。くたびれただけの徒労に終わるかもしれない。有名な観光地にはあまり興味はない。どちらかというとそれより、そこの周辺だ。そこで暮らしている人たちのありのままの姿を目撃することのほうが楽しい。いつものことだ。そんなふうにしていろんなところに行った。コロナのせいで、最近は出歩かなかったけど、とりあえず、5週連続で行こうと思った。海外は今は無理なので、次は1泊から2泊の国内で気になるところに行くつもりだ。4月に入ると、もう寒くはないし、気候もいいし。

大事な人の死から始まる旅。母親を亡くしてから本当に大変だった日々を過ごして、昨日でちょうど9か月目の月命日だった。そろそろ自分がしたかったことを本格的にやりましょう、と思う。それはささやかなことだ。こうして毎日1冊のペースで本を読み、映画を見る。映画館にも、週に2,3回は行く。行きたいところにきまぐれで旅に出る。仕事を辞めたら、そんなふうにして過ごそうと思っていた。(ほんとうは芝居も以前と同じように週に5本くらいのペースで見たかった。)

本に戻る。

ままならないことばかりだ。だけど、死なない。亡くなった弟の思いを引き継ぐことなんかできないだろう。だけど、彼が見たもの、感じたこと、そして、できなかったことを、彼はやりたいと思う。弟の代わりに、ではない。自分のために、である。与えられた時間はきっと有限だ。そのなかでできることなんかたかが知れている。無理せず、のんびりと、ゆっくりと、自分の時間を生きよう、と思う。

姫路から、坂越、伊部、日生と1日で歩いた。日生は最初の高校のクラブ合宿で5年ほどお世話に立って。あれからもう30年になる。久々の日生駅。あのころ定宿にしていた民宿は廃業していて、空き家のなっていた。


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