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トランプ円高?・・・アメリカの利益で考えると

2017-02-08 08:23:00 | 時事/金融危機
 

■ トランプ政権はドル安誘導? ■

トランプが日本や中国、ドイツを為替操作国だと非難しています。トランプの掲げる輸出振興の為にはドル安が有利だからです。それを受けて為替市場ではドル安円高が進んでいます。

しかし、ファンダメンタルでは金利が上昇し始め、トランプの公共事業拡大による景気刺激がさらに金利上昇を招くであろう事から、ドル高になる可能性が高い。

昨今のトランプの発言は、ドル安誘導と言うよりは、あまりにも早い金利上昇に水を差したと見た方が良いのでは?

■ 国内雇用の拡大にはドル安よりもトランプ・ルールが効果的■

中長期的な視野に立った時、ドル高、ドル安のどちらが現在、そして将来のアメリカにとって有利かを考える必要があります。

ドル安で有利になるのはアメリカの輸出企業ですが、輸出競争力の在る産業は、農業、軍事、航空機、IT関連、医薬品などでしょう。これらの輸出品は今の為替レートでも十分な競争力を持っています。

一方、トランプ政権がテコ入れしている自動車産業は「アメ車が世界で売れるか?」と考えたら自ずと答えは出るはず。多少価格が下がったとしてもアメ車を好んで買う人はあまり居ません。仮に日本との二国間交渉で軽自動車の規格を廃止したとしても誰もアメ車は買わない。

一方、アメリカ国内で販売される外国企業の車の多くがアメリカ国内生産です。トヨタなども7割が米国製だったと思います。ただ、部品などは日本からの輸出も多いので、これらも含めて米国産の比率を高める政策を強要すれば、アメ車は復活しませんが、アメリカ国内の雇用拡大には繋がり、GDPも拡大します。

そう考えると、トランプ政権が掲げる国内の雇用の拡大には、ドル安よりも「トランプ・ルールの強引な押し付け」の方が効果が高い。

■ ドルの米国内回帰の為にはドル高、金利上昇が有利 ■

トランプを大統領にしたのは表向きはラストベルトに代表される衰退した工業地帯の庶民達です。だからトランプも表向きは「ドル安」誘導して彼らの歓心を引きます。

一方、トランプを裏から大統領に押し上げたのはゴールドマンサックスを始めとするウォール街の面々です。彼らにとってドル安が嬉しい事かは疑問です。

ウォール街はドルを通して世界の資金循環をコントロールしています。ドル安の時はアメリカから資金が新興国など金利の高い国に投資され、これらの国の発展を促します。リーマンショック以降、アメリカから流出した資金が新興国でバブルを膨らめました。

過去の例に習うならば、しばらくドル安が続いた後にはドル高の時代がやって来ます。これはアメリカの収穫祭みたいなもので、ドル高と金利高によって海外の資金が一気にアメリカ国内に還流します。放流したサケが大きくなって川に戻って来る感じです。

資金が流出した新興国ではバブルが崩壊し、為替市場が暴落し、不動産などの資産価格も暴落し、企業も経営危機に陥り、さらに通貨が下落します。ここで、再びアメリカの金融資本家達が登場します。彼らは強いドルをビラビラさせて、暴落した株を買いあさり海外企業を資本によって支配します。二束三文になった不動産や資産を安値で買い叩きます。そして、経営難に陥った企業を再建ファンドなどが買収します。

これらの事は日本のバブル崩壊を経験した方には遠く無い過去の記憶ですし、アジア通貨危機を経験した韓国やタイなども経験した事です。韓国ではIMFが乗り込んで来て財閥が解体され、利益がアメリカに還流する仕組みが作られました。

FRBが利上げに入ってから、何度か新興国バブルが崩壊する兆候が見られましたが、「国際協調」によって何とか「大崩壊」は防がれています。FRBが利上げをしない事で保たれていたバランスだとも言えます。

しかし、トランプ政権になって「国際強調」という言葉はゴミ箱に捨てられました。ウォール街の「アメリカン・ファースト」は「儲かってナンボ」ですから、彼らはそろそろバブル崩壊を仕掛けるはずですが、その原動力はドル高と米国金利高です。

■ 仕込みにはドット・フランク法が邪魔 ■

一口に新興国でバブル崩壊を仕掛けると言っても、実際には容易ではありません。

日本のバブル崩壊時にも綿密な仕込みがされました。当時の日経平均は4万円とバブル化していましたが、イケイケどんどんのムードを逆転させるにはそれなりの仕掛けが必要です。

当時、ソロモンブラザーズはアメリカで「日本売りファンド」を発売して大量の資金を調達しました。日本の市場が暴落したら利益が出るファンドです。その資金で彼らは日本株の空売りポジションを積み上げると同時に、日本国債を買い上げます。そして満を持して日本国債を売り浴びせます。これで国債金利がポンと跳ね上がったので、株式市場が反応して株価が下落します。ここに空売りを浴びせて一気に日本株を暴落させました。この仕掛けにはソロモン・ブラザーズだけでなく、海外の複数の投資家が同調していたと言われています。

この様にバブルの崩壊を仕掛けるにはヘッジファンドなどが為替市場や債券市場や株式市場で色々と仕込みをする必要が在ります。その為には大量の資金が必要となり、ヘッジファンドへの資金供給や、金融機関の自己取引を規制するドット・フランク法は邪魔な存在です。

ただ、資金量が在れば簡単にバブル崩壊を仕掛けられるのかは多少の疑問が残ります。現在の市場は極端な相場の下落に対してサーキット・ブレーカーを準備していますし、日本のバブル崩壊を中国を始め各国の金融担当者は相当研究しているはずです。

■ ドル高・米金利高がバブル崩壊のエネルギーを生む ■


水は高い所から低い所に流れますが、お金は安い所から高い所に流れます。しかし、為替相場は予測不可能に変動をしますから、為替リスクがダムの役目を担い、通貨安の国の資金流出が一気に発生する事は少ない。

しかし、通貨安はアメリカとの金利差が拡大すると、どこかの時点で堰を切った様に資金が流出し始めます。これがバブル崩壊のエネルギーとなるのです。

■ アメリカの一人勝ちは有るか? ■

ここで注目すべきは「アメリカの一人勝ち」は有り得るのかという点。

多分、日本を始めアジアの新興国(中国を除く)のバブル崩壊だけであるならば、アメリカ経済が崩壊するまでには至らないでしょう。

ただ、この危機がヨーロッパに伝搬すると、世界的な金融パニックに発展します。ヨーロッパの不健全な銀行がどの様なリスクを抱えているかにもよりますが、新興国の資産を大量に保有していら危険です。

ヨーロッパ、特に南欧諸国は植民地時代の名残で南米諸国との関係が深く、銀行も多額の投資をしています。アルゼンチンは度々デフォルト一歩手前になりますが、ブラジルを始めその他の国々で危機が発生すると、ヨーロッパの銀行でも損失が拡大します。

■ そもそも存在しない価値の清算はどこかで必要になる ■

リーマンショック以降の超金融緩和によって、世界はリーマンショックの時よりも多くのデリバティブ残高を積み上げています。

市場に資金が順調に流入している間は問題ありませんが、資金流出が始まるとリーマンショックと同様の状況に陥る可能性が高い。

アメリカの利上以降、何度か市場は動揺を繰り返していますが、その都度、各国が資金供給を拡大するなどして小さな危機は収束しています。

その後はだんだんと市場は「不感症」になり始め、ブレグジット以降は「多少の事では市場は崩壊しない」という「根拠の無い自身」を付けています。これはトランプショックが一瞬で収束した事でさらに強まっています。

勢いの付いた市場ななかなか崩壊しないものですが、裏を返せばこれこそがバブルです。相場がファンダメンタルを無視して暴走しているのです。当然どこかで「存在しない価値の清算」という崩壊が発生します。

■ 崩壊によって焼け太りする資本家 ■

「金融危機が起きたら銀行や資本家だって困るだろう」と私達は考えがちです。

しかし、リーマンショックの後の事を考えると損をしたのは銀行では無く、資産を運用していた庶民です。

確かに多くの銀行マンがリストラされましたが、銀行が損をしたかと言えば、リーマンショック以前よりも肥え太っています。

結局、大きな金融危機やバブル崩壊が発生すると、市場に流入していた個人の資金が消えてなくなり、しかしそれは誰かのポケットにチャッカリと収まっているのです。

こう考えると、バブルの崩壊こそが彼らの「利確」なのだと思えてなりません。そのタイミングを決めるのは意外にも中央銀行だという事に注意が必要です。