山本飛鳥の“頑張れコリドラス!”

とりあえず、いろんなことにチャレンジしたいと思います。

「白桃」(桐生典子)

2006-02-04 01:15:59 | 読書
これは、なかなかおもしろかった。
まず、主人公「僕」がインフルエンザにかかり、その闘病時の体の様子が克明に描かれるところから始まっている。
その描写は巧みである。今の季節にちょうどいい読み物だ。
そして、意識の撹乱もあって、様々な記憶の幻覚が浮かんでくる。
発熱が病原菌を殺すための化学反応であるという分析も面白いし、インフルエンザは、大流行して何割かの人に感染すると必ずウィルスは減退するようにできている、などの言及も面白い。

そして、この作品のポイントは、ウイルスを撃退するための発熱=体が燃えることと、火事で家が燃えることが暗示としてつながっていることだろう。

内容を時系列に直すと
あるとき「僕」は妻の留守中に近所の家が火事になったので見に行くと、そこに仕事関係の知人である年若いモデル恵那がいて、燃えさかる家を美しいと言って見つめていた。
そのとき言葉を交わし、自宅が近いことを知った僕は、恵那があるとき仕事を休んだので家に行ってみた。彼女は風邪を引いていた。彼女は一風変わった子だった。その恵那に「僕」は白桃を食べさせた。その夜、もう一度恵那を見舞おうと思っていたところ、自宅に警察がきた。警察は放火犯を探しており、それは自転車にのった若い女のようだとのことだった。僕は恵那を思いおこし、その夜は恵那のところには行かなかった。
その後、僕は風邪を引いて、熱の中で数日前の火事や恵那の幻覚などを見ていた。
「僕」は妻と日ごろダブルベッドに寝ることに窮屈さを覚えたり、妻のおばさんぽいところなどを感じるようになっていた。インフルエンザにかかったときは、ちょうど妻と旅行に行く予定のときだったが、それで行けなくなり、妻は普通に看病してくれた。
熱も下がり始めた頃、妻が買物に行くと言うので白桃を頼んだ。妻は思いのほか遅く帰ってきて、すっきりした顔をしていた。ふと気づくと妻のスカートの裾の一部がこげていた。
妻は、あなたが白桃を好きだったとはしらなかった、と言った。僕は、僕が白桃を食べさせたのを忘れたのか?と聞いた。妻は覚えていないと答え、僕の動悸は早くなった。

恵那の性格を表す文面や、妻との日常のやりとりの文面がうまく描かれているし、放火したのが恵那なのか妻なのか両方なのか謎めいているところも面白い。動悸の原因が妻のスカートの焦げなのか、白桃を食べさせた相手を間違えたことか、両方なのか、これもおもしろい。

この作品には、満足した。



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