あめ~ば気まぐれ狂和国(Caprice Republicrazy of Amoeba)~Livin'LaVidaLoca

勤め人目夜勤科の生物・あめ~ばの目に見え心に思う事を微妙なやる気と常敬混交文で綴る雑記。
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雨場毒太の気まぐれ書評122

2008-09-30 20:04:00 | 雨場毒太の気まぐれ書評
愛されるべき者たち
永遠の仔
天童荒太 著
幻冬舎 1999年
★第53回日本推理作家協会賞受賞作


文庫で5冊、という大長編小説。2000年版「このミステリーがすごい!」1位に選ばれ、ドラマ化もされたので、御存知の人も多いであろうと思う。

看護婦・久坂優希、弁護士・長瀬笙一郎、刑事・有沢梁平。何の接点も無いように見えるこの3人には、ある共通点があった。3人とも、かつて愛媛にある児童養護施設で暮らしていたのだ。17年ぶりに再会を果たした3人だが、ある事件に否応なしに巻き込まれていくことになる。

「現在」と「17年前」のシーンを交互に繰り返しながら描写する形式。一見バラバラと思える二つの話は、ラストへ向かうにつれて一気に噛み合わさっていき、結末へと至る。

3人はそれぞれ「17年前」から「秘密」を抱えながら生きており、「現在」で3人が巻き込まれる事件と並行に、少しずつ明かされるという展開になっている。これが長い作品を飽かずに読ませる力になっている。

そして、3人ばかりではなく、優希の弟・聡志や、梁平に想いを寄せる奈緒子などの人間関係が絡まり、複雑なドラマを形成する。その人間ドラマと、事件解明のミステリーとが、渾然一体となって結末で整合する展開は見事。

結末は賛否両論で、私も若干すっきりしない面もあるが、ただ、恐らくこれが最も「悲惨さを読者に抱かせない」結末なのではないだろうかとも思う。

この作品は第121回直木賞候補にもなっている。その際は「長すぎる」と大不評をこうむり、あえなく落選したが(そして「ミステリーは直木賞をとれない」説の論拠の一つとなっているのだが)、ただ一人、最後までこれを推し続けた選考委員がいる。その人物の選評を、最後に引用しておこう。

「この力作には何かがあると今でも思う。しかし、その肝心な何かをはっきりとつかみ出し、誰もが納得するような説明をすることが私にはできなかった。」
「作品自体が、そのような小器用な解説を拒む謎、不可侵の核を抱いて成り立つ小説であるとも考えられるだろう。」
(五木寛之・第121回直木賞選評「『永遠の仔』の謎」より)


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