facciamo la musica! & Studium in Deutschland

足繁く通う演奏会の感想等でクラシック音楽を追求/面白すぎる台湾/イタリアやドイツの旅日記/「ドイツ留学相談室」併設

武満徹 室内楽作品演奏会

2016年07月02日 | pocknのコンサート感想録2016
6月25日(土)WATER ∞ COSMOS TAKEMITSU OPERA
~武満徹没後20年~
トッパンホール

【曲目】
1. 雨の樹(1981)
2.ブライス(1976)
3.雨の呪文(1982)
4.ウォーターウェイズ(1978)
5.蝕(エクリプス)(1966)
6.オリオン(1984)
7.閉じた眼(1979)
8.ビトゥイーン・タイズ(1993)

Perc:吉原すみれ、菅原淳、小森邦彦、山口恭範/Fl:小泉浩/Harp:木村茉莉、高野麗音/Cl:鈴木良昭/Vn:藤原浜雄/Vc:毛利伯郎/Pf:木村かをり、小賀野久美/琵琶:中村鶴城/尺八:柿堺香

没後20年という節目を迎えた今年は武満の作品を聴く機会が多いが、武満の代表的な室内楽作品をこれだけまとめて、しかも、多くは武満存命中に初演や度重なる再演を手がけてきた腕利きの名手達の演奏で聴くことができるのは嬉しい。

プログラム前半には、規模も大きめで、ヴィブラフォンをはじめ、多彩な音色が響き合う作品が選ばれた。プログラムは買わなかったので正式なコンセプトはわからないが、「WATER∞COSMOS」というこのコンサートのテーマから、「全ての生命の源である水から、宇宙的な無限の世界への軌跡を辿る」といった意図が見えてくる。

そして選ばれた「水」にちなんだ曲は、それぞれのパートが水のごとく自由に動き、水滴を落とし、お互いが不思議に調和し合う。「雨の樹」など、それぞれの鍵盤打楽器が思いのままに「滴」を落としているようだが、「滴」を落とす他者との絶妙なタイミングがあってこそ(それが偶然にせよ)、音楽が生きてくる、という意味において、武満作品を知り尽くした今日のパーカッショニスト達は、この音楽の理想的な姿を見せてくれた気がした。

「ウォーターウェイズ」では、そんな水の小さな単位である「滴」が、やがて大河のような大きく悠然とした流れに集まり、それが宙を志向するような広がりを感じさせた。そこには一種の陶酔感も伴うが、ここでも、それぞれのパートが魂を持っているように動き、また、パート同士の間でメッセージの交感が行われ、アンサンブルが解け合っているのが感じられた。

前半のプログラムでは、ヴィブラフォンでの電気的な増幅も含め(ハウリング音が気になることがあったが…)、響きの豊かな楽器が多く使われたせいもあり、ファンタジックな世界を堪能することもできたのに対し、後半のプログラムは「響きの助け」を借りる要素が少ないだけに、より演奏自体の真価が問われた。

後半の最初に演奏された「蝕」(エクリプス)は、ストレートで鮮烈に聴き手の心に迫ってきた。図形楽譜で書かれたというこの作品は、演奏者にある程度の裁量が任されている。この作品は、世界的にも名高い、後の「ノヴェンバー・ステップス」のための習作的な意味合いもあると言われているが、琵琶と尺八の武満作品の評価は、これらの初演を行った鶴田錦史と横山勝也に負うところが大きかった。それだけに、この二人亡き後は演奏の機会も減ったし、演奏されても、あの二人が与えてくれたような強烈な印象を持てないことも多かったが、中村鶴城の琵琶と柿堺香の/尺八による今日の演奏は、武満の魂が生きているような感覚があり、武満作品がごく限られた演奏者だけの世界に留まらず、着実に受け継がれていることを体験できて嬉しかった。

これに対して、その後に演奏された3作品では、武満ワールドを味わうには十分なアンサンブルではあったが、もう一つ研ぎ澄まされた感覚や冴え、徹底的に掘り下げた訴えや感情移入などの点で物足りなさを感じた。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 2016年6月B定期(アシュケナ... | トップ | ヴェンツェル・フックスを迎... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

pocknのコンサート感想録2016」カテゴリの最新記事